多くのエリートを輩出している名門男子校。

卒業生と聞いてあなたはどんなイメージを持つだろうか。

実は、思春期を"男だらけ"の環境で過ごしてきた彼らは、女を見る目がないとも言われている。

高校時代の恋愛経験が、大人になってからも影響するのか、しないのか…。

▶前回:慶應卒の商社マンなんて興味ない!女が彼を狙う本当の理由とは?




<今週の男子校男子>
名前:雅也(30)
学歴:筑波大学附属駒場高等学校→東京大学大学院理学系研究科
職業:博士研究員
住所:中野
彼女:大学院生(24)

夏真っ盛りのはずなのに、ひんやりとした夜だった。

僕たちは散歩が好きだ。その日は恵比寿で和食を食べた後、明治通りを渋谷に向かって歩いていた。

「雅也と一緒に浴衣着て花火大会行きたかったな」

「そうだね。来年行けるといいね」

そう言うと、柚は嬉しそうに僕の手をもう一度ぎゅっと握ってきた。

彼女は東工大の院生で、学会のパネルディスカッションがきっかけで知り合った。

よく考えてみると、柚はちゃんと付き合った初めての人かもしれない。

大学時代にバイトしていた学習塾の後輩と付き合ったことがあるが、研究室中心の生活を送っていてあまり構っていなかったら呆気なくフラれてしまった。

ー元々自分の好きなこと以外には興味のない人間だからな。

「そういえば、この前面白い論文見つけたから後で教える!」

柚とは専攻が近いので話題が合うことに加えて、適度な距離感が居心地良かった。

「ありがとう。そろそろ研究室も本格的に再開するし、本腰を入れないとな」

やはり研究している時が、一番幸せを感じる。

キャンパスの入校制限が解除され、少しずつ研究漬けの日々が戻ってきた。



僕が卒業した高校は”筑波大学附属駒場高等学校”だ。

高校時代はパソコン研究会に所属して、Rubyに熱中していた。今でも研究でPythonをいじる事がある。

部員たちとは部室に集まって当時流行していたアニメを観たり、放課後に渋谷のゲーセンで太鼓の達人をよく遊んでいた。

みんなで食べた駒場東大前駅の精肉店の弁当や、今はもう潰れてしまったチキンカツ屋が思い出の味だ。

僕は勉強が好きというより、興味がある事をとことん突き詰めたいタイプの人間だ。

プログラミングの他には生物学が好きで、生物オリンピックの日本代表に選ばれたことがある。

高校卒業後は東大へ進学し博士課程まで修了した後、一度はIT企業の研究所に就職した。


研究一筋だった雅也がハマった柚の魅力


だが旧態依然とした研究者軽視の風潮が合わず、2年足らずで研究の道へ戻ることとなった。

今はいわゆるポスドクだ。大学の研究室でマウスを使った細胞のガン化の研究をしている。

幸いにも実家は中野にあり、父の家系は代々医者、母は会計士で経済的に比較的恵まれた家庭に生まれた。

加えて兄も姉も医者となった今、僕は好きなように生きている。

正直、大学に残れる保証はない。だが尊敬する教授や優秀なメンバーがいる今の環境を逃したくはない。

そして、僕の研究は人類の未来に貢献できると信じている。




僕たちは、彼女の希望で渋谷にあるバー『石の華』を訪れた。

「ここ、お酒好きの友達に教えてもらって、ずっと来たかったんだ」

地下の重い扉を開けるとそこには中学時代から通い慣れた渋谷の街のイメージとは異なる、静かな空間が広がっていた。

「噂通りカクテルの種類がいっぱいあって全部おいしそう〜迷っちゃうからとりあえずウイスキー飲もうかな」

彼女はウイスキーやワインに造詣が深く、その知識にはいつも驚かせられる。

顔色1つ変えずにボウモアをストレートでスイスイ飲んでいる。

「やっぱりアイラモルトは薬臭いね」

僕はお酒が強いほうではないから、モヒートをちぴちぴ飲む。

「ふふ。飲んでみたら好きになっちゃうかもしれないよ。次は私もカクテルにしようかな」

それでも柚に連れてきてもらうオーセンティックバーの落ち着いた雰囲気は好きだ。

ーお落ち着いた店を訪れる客は、静かにそれぞれの時間を過ごしているな。図書館の雰囲気と近いかもしれない。

「雅也さんもう顔赤いよ」

柚はまるで子どもを見るような眼差しで、僕の頬をすっと触った。

「そうだね。お水でも貰おうかな」

元々僕は食へのこだわりがない人間だ。一応1日のうちで食物繊維とビタミンを摂るように心がけているが、外食は牛丼屋かラーメン屋ばかりだ。

柚はそんな僕とは対照的で、美食家だ。

彼女のおかげで僕もグルメになった気がする。何より彼女が幸せそうに食べる姿を見ることが幸せだった。

「何考えてるの?」

柚の声で現実に引き戻されると、バーテンダーの振るシェイカーの尖った音、隣のカップルのささやくような会話など色々な音が戻ってきた。

いつもの癖で、いつの間にか考え込んでしまっていたようだ。

「さっき言ってた面白い論文って何?」

「んー。今はそういう話したい気分じゃないの」

僕の顔を覗き込んだ柚の丸い顔の輪郭が、柔らかそうで触れたくなる。

ー少し酔ったかもしれない。頭を冷やそう。

そう思って僕はお手洗いへ立った。


雅也がトイレに立った隙に……柚がとった驚きの行動とは?



柚の正体


雅也がトイレに行ったすきに携帯を開く。

『明日のデートはいかがしましょうか』

1通のショートメッセージ。趣味の集まりで知り合った佐川さんという会社経営者の45歳バツイチからだ。

『旬のお魚と、おいしい日本酒が飲みたいです』

私は素早く返信を打った。




私は進学校の女子高出身で、大学に入るまでは勉強だけが取り柄の地味な女だった。

そんな私も大学生になり、雑誌の見よう見まねで化粧をして、眼鏡をコンタクトに変えた途端、世界が変わって見えた。

必修のクラスでもサークルの新歓でも異様にもてはやされたのだ。

ーみんな優しいし、何でも言うことを聞いてくれる…私って、実は美人の部類に入るのかも?

こうして楽しいキャンパスライフを送ることになった。5月になる頃には、理系の大学には珍しい垢抜けたクラスメイトと付き合っていた。

それからも理系の大学という環境と軍艦や戦闘機の写真撮影という若い女子が好まない趣味のおかげで、男に困ることはなかった。

「ああいう一見地味な女ほど裏で遊び回っているんだよ」

学部時代にバイト先のカフェで私大に通う派手な同僚が放った言葉を思い出す。

当時私は40過ぎのオーナー店長と付き合っていたから、思わずドキッとしてしまった。

その後、店長が実は既婚者だったと判明してすぐに別れた。それからは相手が既婚者かどうかは念入りに確認するようになった。

それでも、おじさんと遊ぶことはやめられなかった。

年が近い真面目な男だと刺激が足りないし、カフェのバイト代では決して見ることができない世界を知り味をしめてしまったから。

だから、おじさんは遊び相手として同年代の堅実な彼氏と使い分けることにした。

ー大学に入った時は、いわゆるイケメンが好きだったけど今は違う。あまりモテない男の子ほどお姫様扱いしてくれる。

スマホから顔を上げたが、まだ雅也は戻ってこないようだ。暇つぶしに佐川とのやり取りを遡る。

『柚ちゃんのお父さんの方が歳近いかな。普段若い女性とお話することがないから緊張しちゃうな』

『柚ちゃんが大人の女性になれるようにお手伝いするね』

決まって声をかけるのは私からだ。

若いだけの女に興味がある男なんて、薄っぺらでいやらしいが、理性的な紳士が慌てふためいて私から抜け出せなくなる姿がたまらない。

ー雅也が私の本性を知ったら、いつもの静かな感じで軽蔑するかな。もしくは「女性のことはよく分からない」って頭を抱えるかも。

佐川とのやり取りを消去し、スマホから顔を上げると雅也が戻ってくる姿が目に入った。

「柚の顔は見ていてほっとする。かわいいよ」

席に着くと、小さな声でそう言って細い銀縁のメガネをかけ直した。

答える代わりに雅也の骨ばった青白い手をそっと撫でた。

ポスドクの境遇については私もよく知っているし、目指そうとは思えない。

それでも彼の研究に対する真っ直ぐな情熱や実績を目の当たりにすると、自然と応援したい気持ちになる。

ーこんなに優しくて、思慮深い彼氏がいるのに満足できない私は、いつか痛い目に合うかもしれない。

私は少しだけグラスに残っていたボウモアを飲み干した。

喉がむせ返るような、熱を帯びていた。

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