イラスト/つのだだいすけ

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 高齢者がかかるイメージの強い白内障だが40代、50代でも診断&手術を受ける人が増えている。加齢とともに罹患するといわれる“国民病”の白内障について、専門医による最新事情と体験者の声をお届け!

【写真】こんなに変わるの!? 白内障と通常の眼球の状態を比べてみると…

水晶体が白く濁り硬くなる

「以前、テレビで大桃美代子さんが白内障になった話をされていたのを見て、若くてもなるんだ、と驚いていた自分が実際にかかるとは思いもよりませんでした」(矢藤みか子さん、50歳・会社員)

 矢藤さんは48歳のときに、白内障の手術を受けた。両目の視力は0・1以下と強度の近眼で、中学生のときからコンタクトレンズを使用。会社の健康診断では緑内障になりやすい傾向があると言われ、年に1度、眼科で定期健診を受けていた。

 白内障と診断される数年前からは、右目のコンタクトレンズが曇って見えるような症状があり、複数の眼科を受診したがコンタクト、目ともに異常なしと診断された。

 その後、手術の1年前ぐらいから、両目とも近眼が進んだような感覚になり、コンタクトの度数を上げてみたが、改善されず。曇って見える感じも以前よりひどくなり、病院を受診したところ、白内障と診断された。

 そもそも白内障とは、どんな病気なのか?

「年齢とともに目のレンズである水晶体が白く濁り硬くなって、見えづらくなることです。失明の原因になることもあります」と、眼科医の平松類先生。

本来、レンズは透明で柔らかいため、遠くにピントを合わせたり近くにピントを合わせることが楽にできる。それが次第に、レンズが白くなってくるのと同時に硬くなる。たとえるなら、透明な生卵は自由に形を変えることができるが、ゆでられて白くなると自由に形を変えることが難しい感じだ。

 高齢者がかかるイメージだが、矢藤さんのように40代からでも注意が必要という。

「40代、50代は関係ないと思われがちですが、目(視力)が変わる時期で、老眼や白内障になりやすいです。

 老眼は、目のレンズのピントを合わせる機能(筋肉)が衰えることですが、レンズが硬くなっても起こるので、レンズが白く硬くなる白内障とも関連しています」(平松先生、以下同)。

 平松先生によると、白内障は50代で5割、60代で7割、70代で8割、さらに高齢になっていくと99・9%の人がかかるという。人生100年時代を迎えて“国民病”ともいえるくらい、避けては通れない。

加齢以外の原因は“目のダメージ”

 

 白内障の原因は、加齢以外に“目のダメージ”が影響している。目をよくかく、外仕事などで紫外線を浴びることが多い、目をケガした経験や糖尿病の持病があると、ダメージになり、“目の回復”のバランスを崩し、進行が早くなることもあるそう。

「患者さんのなかには、目をかいていません、という方もいますが、朝起きたとき、目がかゆいときなど無意識にかいたりしていることが多いんです。女性の場合は、アイメイクをオフするときに、目元をゴシゴシこすって洗っている方がいますが、ダメージになります。

 また、疲れ目のときに、瞼(まぶた)の上から眼球を押す人がいますが、眼球心臓反射といって、不整脈や心停止を起こす要因にもなるので、気持ちいいと思っても絶対にやめてください。疲れ目には、温めたほうが効果的です」

 自覚症状には、個人差がある一方で、特徴的なものもあるという。

「老眼は手元が見づらい、近視は遠くが見えづらく、手元は普通と、距離によって見え方が違います。白内障の場合は、遠くも手元も見えにくく、どの距離も見えづらい。患者さんで多いのは、お月さまが2個、3個に見えるという症状です。ぼやけるというよりは、いくつかに見える、にじんで見えるということを訴える方が目立ちます」

 こういった自覚症状がある場合は、専門医でのチェックが必須だ。ただし、白内障と診断されても、すぐに手術する必要はない。

 前出の矢藤さんは、目薬で治療をしていたが、数か月で仕事や日常生活に支障をきたすようになったため、医師と相談して手術を決断。片目ずつ2週間あけて行い、手術の際は2泊3日、入院した。

「40代、50代で白内障と診断された方は、高齢者と比べると進行が早いことが多い。例えば、目薬を使っていても、半年後には手術が必要になるケースがあります。

 現代は、パソコンやスマートフォンなどで目を酷使する機会が多く、見えづらい状態が続くと仕事や生活の質が落ち、影響します。そのため、若くても手術する人が確実に増えています」

4月から手術が保険適用外に

 白内障手術は、眼球(角膜)の一部を切開し、白く硬くなったレンズを超音波で砕いて吸引し、直径6〜7ミリの眼内レンズを入れる。手術時間は、15分程度で終わることが多い。

 眼内レンズは、単焦点レンズと多焦点レンズの2種類に大きく分かれる。

 単焦点レンズは1つの距離にピントを合わせる眼内レンズ。ピントを合わせたい距離をあらかじめ決めて手術。ピントを合わせた距離以外は、メガネでピントを調整する。

 多焦点レンズは近くと遠くなどいくつかの距離にピントが合う眼内レンズ。手術後はメガネがほとんど不要になる。

「40代、50代は完璧な老眼ではないので、単焦点レンズだと、いきなり老眼が進んだように感じることや、メガネをかける必要のない生活を維持したい、と多焦点レンズを選ぶ方が多いです」

 多焦点レンズは、先進医療のため医療保険の先進特約に組み込まれていたが、4月から制度が変わるため実費(保険外)になり、片目で30万〜60万円の費用がかかる。

 単焦点レンズは従来どおりの保険適用で変わらない。

「白内障の手術を検討している、あるいは医師からすすめられていて、多焦点レンズにする場合は、3月中に行ったほうがいいと思います。先進特約保険の加入を確認することと、手術前には生活スタイルや仕事などについて、きちんと相談でき、信頼できる医師であることが大切です」

 矢藤さんは、多焦点レンズも魅力だったが、高額になることや年齢的にいずれ老眼鏡を使うことを念頭に、保険適用の単焦点レンズを選択した。

 手術から2年。「両目とも1・2くらいの視力になり、よほど小さな字でない限り、パソコン、本、スマホの文字も老眼鏡不要。中学生からコンタクトのお世話になっていたので、快適そのものです」と矢藤さん。

 加齢とともに直面する白内障だが、平松先生はアドバイスを送る。

「年に1回は検眼することをオススメします。見えていると思っていても、ちょっとずつ悪くなっていることに気づかない。自分の目の状態を知っておけば、決して怖がるような病気ではありません」

 最近、目が疲れる、見えづらい、あるいは検眼をしたことがない─心当たりのある方は、予防のためにも眼科に足を運んでみては?

●白内障チェックリスト(平松類医師監修)
1.何となく見にくい気がする
2.テレビや映画の字幕が見にくい
3.離れた人の顔がわかりにくい
4.長時間の読書が疲れる
5.太陽の光がまぶしく感じることが多い
6.お月さまが2、3個に見えることがある
7.以前と色合いが違って見える
8.右目と左目で見え方が違う
9.階段の上り下りに不安を感じることがある
10.目がうっとうしく重いことがある

1・2個─白内障要注意
3・4個─白内障の可能性高い
5個以上─要病院受診

●PROFILE●
平松 類
ひらまつ・るい 延べ10万人以上の治療に携わる眼科専門医、医学博士。昭和大学兼任講師、二本松眼科病院勤務。メディア出演のほか『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる!ガボール・アイ』『その白内障手術、待った!受ける前に知っておくこと』など著書多数