グリーズマン移籍騒動にみる「立つ鳥跡を濁さず」の大事さ

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文 木村浩嗣

「出て行きたい」という意思を伝えさせる交渉術

 「選手が出て行きたいと希望した時には引き止めるのは不可能に近い」とセビージャの名物スポーツディレクター、モンチは『モンチ・メソッド ゼロから目的を見つける能力』で言っている。モンチの交渉テクニックのひとつに、獲得を狙う選手から所属クラブに対し「出て行きたい」という意思を伝えさせてから交渉に入る、というのがある。それによって移籍金を安く抑えることができるからだ。

 マケレレ、テべス、モドリッチ、ベイル、ダニエウ・アウベス、セスク、アグエロ……。数々の選手が練習拒否などでクラブに放出を強要し、その目的を達成してきた――こう書くと悪く聞こえるが、奴隷でないのだから働きたくない場所での仕事を強要されないのは当たり前である。とはいえ、労働者の権利うんぬんの話とは別に良い辞め方、悪い辞め方があるのはみなさんもご存じの通り。立つ鳥跡を濁さぬようにしたい、とは誰しも思うことだろう。

グリーズマンとアトレティコの“茶番”

 その点で、7月7日に起きたアトレティコ・マドリーのグリーズマンの、プレシーズン参加を拒否するというやり方は上手なやり方とは言えない。出て行くことはアトレティコですら織り込み済みの事実である。グリーズマンが残す違約金を見込んでジョアン・フェリックスを獲ったのだから。

 よって、メディアに注目される中、アトレティコの遠征バスに乗り込むのは茶番に過ぎないのだが、その茶番をあえてやって“現クラブとの労働契約を尊重する”という姿を見せておくべきだった。そうすればアトレティコのファンからのブーイングの何割かは避けられたはずだ。不参加の理由にしても「30日間の夏休みを取る権利がある」なんてせず「ケガ」と言っておけば、たとえ嘘でもここまでの大騒ぎにはならなかった。

 アトレティコ側が今さらバルセロナに対して憤慨する姿を見せているのも、また茶番である。「(敗退した)CLユベントス戦第2レグの前にバルセロナ側との合意があった」と彼らは訴えている。契約中の選手(昨年更新した契約は2023年まで)にクラブを通さず声を掛けるのは、FIFAの移籍条項違反だ。だが、そんなことは誰でもやっている(例えばセビージャを通さずアトレティコがビトロを獲ったのがそう)し実証不可能。

 茶番の目的が、グリーズマンとバルセロナにファンの批判の目を向けさせ、自らの補強戦略の不手際を隠し、ついでにCL敗退とリーグ優勝を逃したことも正当化しようという狙いも透けて見える。

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