「リスクを恐れて成長を止めるのは自殺行為。これはイギリスだけに当てはまる教訓ではありません」と語るモーリー氏

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『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、EU離脱のやり方をめぐり八方ふさがりに陥っているイギリスと、日本の共通点を指摘する。

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「テクノロジーとグローバリゼーションが同時に加速し、世界がますますつながっていく現代において、自ら"障壁"をつくって保護主義の道を進もうとするのは狂っている」

著名なコラムニストのトーマス・フリードマン氏は、米ニューヨーク・タイムズ紙のオピニオン記事で、そうイギリスを皮肉っています。与党の保守党も野党の労働党も、「痛みのないBREXIT(ブレグジット)」の方法を模索しているが、そもそもEUを離脱するという決断自体が間違っているのだから、やりようがない――と。

自分たちの街にこれ以上移民が増えるのはいやだ。EUのために自分たちの富が一方的に使われるのは耐えられない......。フリードマン氏は、BREXITに賛成票を投じたイギリス人の感情に理解を示しつつも、その誤謬(ごびゅう)を徹底的に追及します。

マイクロソフト、グーグル、アドビはいずれもアメリカを本拠とするグローバルIT企業で、共通点はCEOがインド出身であることです。その意味するところは、今やとてつもなく才能のある人材は、世界中で最も開かれた市場、最も機会の与えられる社会、国、都市に向かうということにほかなりません。

この厳然たる事実から目を背け、イギリスはあたかもグローバリゼーションから逃れられるすべがあるかのような"虚像"を追い求めている。労働党はマルクス主義に傾倒し、保守党はもはや極右政党となり、互いに陣取り合戦をしているだけ。

その間にも、現実の問題はどんどん深刻になっていく。「あのイギリスが狂ってしまった」とフリードマン氏が嘆くのも当然といえば当然です。

僕は、日本の政治状況もこれに近いような気がしてなりません。憲法改正も基地問題もエネルギー政策も、重箱の隅をつつくような議論に終始し、「そもそも、なぜこの問題が議論されているのか」といった本質的な問いに誰も答えようとしない。

両陣営の応援団の感情だけが高ぶり、建設的な議論をますます邪魔してしまう。先日施行された改正出入国管理法の議論でも、「これは『移民法』なのか?」という言葉尻の部分がやたらとフォーカスされるばかりでした。

好むと好まざるとにかかわらず、グローバリゼーションの波を回避することはできないのに、外国からの人口流入を受け入れなくてもなんとかなるという"幻影"を追い続けているように思えてなりません。

世界の現状を自分たちの知っている限定されたボキャブラリーに落とし込んだ形でしか解釈しない――こうしたスタンスは、国家に大いなる"隠れ損"を生み出します。

これから急速に外国人は増え、なかには優秀な人材も多数いるでしょう。彼らは日本語を覚えて起業し、グローバルな決断をもとにマーケットのシェアを占め、そこではグローバルな価値基準で人事が決まるようになる。

日本側がやるべきことは、それを邪魔しようとするのではなく、彼らにとって最高の環境を用意すること。そして、グローバル人材に刺激を受けた"異質な日本人"にもたくさんのチャンスが与えられるような社会を目指すことでしょう。

冒険心にあふれる野心家を排除すれば、世界から取り残されるだけです。リスクを恐れて成長を止めるのは自殺行為。これはイギリスだけに当てはまる教訓ではありません。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!