宮内社長「ソフトバンクとY!mobileは一体」──統合しない事情
SoftBankとY!mobileという2つの看板を軸に携帯電話サービスを展開するソフトバンク。5日に開催された同社の決算説明会にて、両ブランドの現在の位置づけが紹介されました。ソフトバンクグループの携帯電話を手がける、ソフトバンク株式会社が開催する決算説明会としては、昨年12月の上場後初めて開催されたものです。

ソフトバンクには現在、国内通信事業において、SoftBank、Y!mobile(ワイモバイル)という2つのブランドを軸に展開しています。また、LINEとの合弁会社としてLINE MOBILEも運営しています。

▲ソフトバンクの代表取締役社長 宮内謙氏SoftBankブランドは、ソフトバンクがボーダフォンジャパンを買収し、携帯電話事業に進出した時以来のブランド。そしてY!mobileは、買収したウィルコムとイー・モバイルの通信サービスを統合したもの。もともとのルーツはそれぞれ存在します。

一方で、現在はSoftBankブランドとY!mobileブランドはソフトバンク株式会社が提供するサービスとなっており、ユーザーとしては別のブランドに見えるものの、実質的な運営は一体化しています。

ソフトバンクの宮内謙社長は、「SoftBankとY!mobileは一体で運営している」とコメント。SoftBankとY!mobileの両方の看板を掲げる「ダブルブランドショップ」も1500店舗まで増加したことを紹介しました。


▲SoftBankブランドでは大容量プラン「ウルトラギガモンスター+」を中心に展開。1GBあたりの単価が1/10に下がったことをアピールしました。小容量プランも用意されていますが、Y!mobileより割高な設定です

宮内社長の説明によると、SoftBankブランドは「大容量プランを使いこなしたい人向けのブランド」で、Y!mobileブランドは「スマホをあまり使わないので小容量だが低価格でいい」というブランドという位置づけ。SoftBankがメイン、Y!mobileがサブ、という関係性ではなく、ブランド的には対等な立ち位置にあるとしています。

なお、3つ目のブランド「LINE MOBILE」は、SoftBankが51%出資する子会社が運営するMVNOで、こちらもソフトバンクが提供するサービスと位置づけられています。他の2つブランドに比べると規模は小さいものの、LINEの看板を掲げたサービスだけあって、若年層のユーザーを中心に支持を広げています。宮内社長は「"超低価格"な格安SIMサービスの中ではかなりのシェアを持っているのではないか」と自信を示しました。

■両ブランドが並立する事情


ただし、Y!mobileからSoftBankへの移行は、多少の手間がかかります。ブランド設立までの経緯があるため、現在もMNPに準じた手続きが必要で、メールアドレスやキャリアが提供サービスの情報は引き継ぐことができません。

販売されているスマートフォンも、SoftBankではハイエンドモデルが中心にラインナップし、Y!mobileは低価格帯のスマートフォンを多く取り扱っています。SoftBankが2018年発表のiPhone XSを扱っているなかで、Y!mobileでは2016年発表のiPhone 7を新規に取り扱うなど、明確に差別化されています。

▲Y!mobileは低価格でシンプルな料金体系を売りにしています

1ユーザーとして考えると、両ブランドが「一体運営されている」というのなら、わざわざMNPの手続きをするために電話をしたり店頭に出向いたりといった手間をかけず、気軽に切り替えができる方が便利に思えます。いっそのこと、統合してしまえばどうかという疑問も浮かびます。

そんな質問を投げかけた記者に対して、宮内社長は「Y!mobileにもブランド価値がでてきた。料金プランがシンプルで安いと認知されているブランドを捨てるのは得策ではない」とマーケティング上の理由でこれを否定しています。



今回、「SoftBankとY!mobileのブランド間で移行する契約数」なるスライドが初めて公開され、Y!mobileからSoftBankへと"ステップアップ"するユーザーが増加する傾向にあると紹介されました。ただし、SoftBankとY!mobileの中で移転するユーザーは、具体的な件数は非開示で、他社へMNPするユーザーに対する割合も示されませんでした。

このスライドからは、ブランドを統合できない事情も推察されます。それは、他社への流出への食い止めです。

たとえばソフトバンクからMNPでドコモやauへの転出をした際に、「Y!mobileという選択肢もありますよ」と提示すれば、転出するユーザーの一部は自社サービスにとどめることができます。また、「安くてシンプル」というイメージのY!mobileがあれば、"格安SIM"として競合するMVNOへの対応も可能です。

また、そもそもブランド間の切り替えにハードルを設けることで、手間を嫌う大部分のユーザーをSoftBankブランドにとどめておくことができます。2019年春にはNTTドコモが「最大4割値下げ」となる新プランの提供を予告していますが、この対応については宮内社長は「低容量で安いプランはY!mobileで、大容量のプランはSoftBankで対応していく」と説明しています。

2つのブランドが成立するまでの経緯はともかくとして、「大容量はSoftBank」、「小容量低価格はY!mobile」という棲み分けはしばらく続きそうです。

▲ソフトバンクの契約数に対するY!mobileの比率は20%程度。LINE MOBILEの割合は非開示としていますが「画像の通り」とのこと。

ただし、両ブランドで販売されるスマートフォンの品揃えは、今後大きく変わってくる可能性があります。というのも、スマートフォンの販売において「分離プラン」の導入が進むと見られているからです。分離プランとは、携帯電話料金を安くする代わりに、スマートフォン本体に対する割引をなくした契約形態のこと。SoftBankの「ウルトラギガモンスター+」は分離プランですし、Y!mobileも2019年4〜9月に分離プランの導入を予定しています。



分離プランが導入されると、スマートフォンの「実質○○円」といった割引形態が廃止されます。そして、SoftBankブランドではより低価格のスマートフォンを求めるユーザーが増え、Y!mobileブランドでは高性能なスマートフォンを割安な料金で使いたいという需要が増える可能性があります。

「端末の割引」が通信契約を引き留める要因にならないのだとしたら、端末ラインナップで棲み分けの意味がなくなるため、Y!mobileではより高性能なスマートフォンが並び、SoftBankでは安価な製品が増えるという可能性もありうるでしょう。