大きな話題となっている、町田総合高校で撮影された体罰動画。暴力は何があっても許されないとする声も上がる一方で、挑発的な被害生徒の態度や炎上目的もあったとされる撮影生徒の釈明などに対しては、批判的な意見も多く聞かれます。今回のメルマガ『伝説の探偵』では現役探偵で数々の学校でのトラブルを解決してきた阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、この「事件」の真相に迫っています。

町田総合高校、挑発炎上生徒 vs ワンパンノックアウト教師事件

都立町田総合高校で体罰問題が発生したと報道された。

教員が男子生徒の顎に見事な右ストレートをかましている動画付きでインパクトも強かったからニュースは一気に拡がったが、その後「生徒側が炎上させようとわざと挑発している」とのことで、その前の動画の拡散や殴られた生徒や撮影した生徒の特定がネット上で行われた。

テレビなどでは殴った教師は最低だという意見と炎上目的でわざと殴らせた生徒らの方が悪質だという意見で争いが起きている。さらに、教員の処分について救済を求める署名活動も始まり、混迷状態となっている。

問題の動画を拾い集めて見てみると

はじめの方の会話は以下の通りであった。

撮影者が「Twitterで炎上させようぜ」と言っている。教員の声は小さくて聞き取りが難しい。

生徒 「あ?」

生徒 「あ?」

生徒 「ウルセェーんだよ、オラー」

生徒 「こんだけ言われて俺がキレないとでも思ってんのかよ。バッカじゃねぇーの」

生徒 「お前、脳みそあんのかよ?」

生徒 「お前の小さい脳みそで考えろ」

生徒 「出て行けとか、何様だよ。なんでだよ」

生徒 「考えろよ、小さい脳みそで」

教員 「いい加減に、外せって話だよ」

生徒 「あ?ちげーよ」

生徒 「病気だろ」

教員 「病気じゃないだろう」

生徒 「病気って言ってんだろ。お前よ。ツゥア※▼□…」

 

腕組みをしている肘と肘が軽く当たる。挑発生徒が少し下がる、教員少し進む。教員の右ストレートが挑発生徒の顎に当たる。

 

教員 「※▼□…って、テメェ、このヤロー」

教員 「誰に向かって言ってるんだ。このヤロー」

 

倒れた生徒を引きずるようにする。すぐに駆け寄る他の生徒ら。

 

他生徒A 「やめなよ」

他生徒B 「先生、それは良くないっす」

教員 「やかましい」

他生徒B 「やかましい関係ないです」

教員 「やかましい」

 

終始所々で、動画を撮る生徒の笑い声が入る。

これだけ見てくと、どっちもどっちの印象が強い。

挑発した生徒Iは、殴られて当然とも言えるであろう態度であるし、撮影者Mも「炎上させてやろう」と言っている以上確信犯と言える。

一方で、教員も見事な右ストレートはやり過ぎと言われればそれまでだろう。

これでは意見が二分しても仕方がない。

都立町田総合高校生徒らの証言から

都立町田総合高校は成績で言えば「中の下」程度で、女子が多い高校だとされている。

問題となった「ピアス」について、後に信岡校長が問題視しないというような発言をしているが、女子生徒の化粧や髪型、服装についても厳しめに校則で指導しているということから、ピアスは校則違反であった。

一部生徒によれば、ピアス穴自体は「本当はダメなんだけど、うるさく言われることはなかった」とのことで、ピアス穴自体は黙認するが、ピアスをつけていると確実に指導が入るということだろう。

暴言を吐いて殴られて男子生徒Iは、この日ピアスをつけて敢えて生活指導担当であった教員の目に止まるようにした。咎められても動画の暴言と同様に騒ぎ立てたため、生活指導担当であった教員(殴った教員)は廊下に連れ出した。

そして、動画の通りの暴言を吐きまくり、教員に鉄拳制裁を受けることになった。

―計画されていたのか?

計画自体、他の生徒らは知らないということであったが、今となっては計画されていたと思うという生徒は多い。

理由は簡単で、撮影していた生徒Mは廊下に連れ出されることを見越して、先に廊下に出ており、柱の部分に隠れてスマホを構えて待っていた。

これは、たまたま通りかかって面白そうだから撮影したという意味ではなく、反発するIと生活指導担当教員の揉める姿を収められるということを予め知っていたからの行動であったのだ。

ただ、まさか殴るところまで行くとは思ってもみなかったのだろう。

過激なYouTuberと同様で、「揉める様子が面白い」的な程度の計画であったのだろう。

―その後(生徒以降)

生徒らが止めに入り、他の教員を呼んだで止まったということであったが、殴られた生徒の保護者への説明や校長や殴った本人の謝罪などで職員室はてんやわんやであったそうだ。

当初は校則違反の指導に異常な反発をして、激昂した担当教員が手を上げてしまったということから、この問題を有耶無耶に終わらせて、簡素な訓告程度の処分で終わらせようと考えていたようだが、殴った動画を生徒が持っているということで、殴った教員を処分するという方向で話がまとまったということであった。

殴られた生徒I側は、教員の即時懲戒解雇を求めていたそうだが、そうはなかなかならないことに苛立ち、撮影者の男子生徒MがTwitterで拡散した(M本人は否定しているが)。

拡散が進み、報道機関の知るところとなって、テレビを始め各メディアが動画を流したことで、大問題化して現在となる。

動画を撮った男子生徒Mのその後

男子生徒Mはネット上で、炎上し、特定されて様々な批判を受けたことに対し、釈明している。

今回の真実をここではなします。なのでDMとかで疑問とかそういうのもなしで。当分消えますんで、逃げたと思っても構いません。今回僕がしたのは生徒と教師の喧嘩の撮影です。授業中でしたが先生はいなく、教室の中はほぼ自由でした。そして廊下から大声がして窓から見ると生徒と教師が喧嘩をしていたので面白半分で窓から撮影しました。そして「Twitterで炎上させようぜ」と言ったのはネットニュースにもあるように撮影者の僕ではなくもう1人いた撮影者のN(原文では実名)君。そして偶然にも教師が生徒を暴行したのを捉えてしまいました。動画では助けに行かず撮影を続けので仕込みやハメたたどと言われましたが、この時僕は先生に報告する際の証拠動画だと思い撮影を少し続けました。無論直ぐに撮影をやめ助けに行こうとしましたが教師に止められ行くことは出来ませんでした。

…(後略)

要約すると、「僕じゃないもん、友達が言ったんだもん。先生に止められたんだもん。ボクちゃん、悪くないもん」ということだ。そして、一緒に撮影していたというNの氏名は公表しているが、拡散のきっかけとなった動画を渡した友だちについては、氏名などは公表していない。

一般に、こうした不統一は嘘と判断するのが妥当なのだ。「友達の話」「友達の友達が」という話は、多くは自分の話なのだ。つまり、彼が拡散したと考えるのが妥当なのだ。

そして第二弾で同じように投稿している。

あの、今回みたいな騒動のせいで人生終わったやら就職に不利だとかなんとか言われているんですけど学校長や弁護士によるとそのようなことでもし企業が採用を嫌がるようだと逆に差別などでその企業を訴えることが可能らしいんですよ。簡単に言うと今回のような問題があっても将来不利にならないと言うことなんですけど。僕自身よくわからないですし。もしかしたら他に例外があったりどうしても僕の人生を台無しにしたいのであれば明確な資料や根拠を元にDMください。おねせす。

要約すると、「もう学校も味方だし、弁護士も雇ったもんね。文句があるやつはかかってこいよ。バーカ」と言うことだ。

この撮影していたM君のメッセージを見てどう思うだろうか。友達の名前を公表し、自分じゃないと仲間を売る。周囲に先生はいなかったのに、先生に止められていたんだと平気で嘘をつく。自分たちに批判の矢があるということがわかった段階で、弁護士を雇ったように見せかけ世間を牽制する。これを「終始卑怯者」と言わずしてなんと言おうか。卑怯者は卑怯者の環境で育つものだから、学校教員というのは、卑怯者の生徒と卑怯者の保護者がいる中で、少しでも気に入らないと思われれば、簡単にあげあしを取られたり、処分を受けたり、残業しなければならない環境の中にいるとということだ。

体罰の基準

体罰は学校教育法第11条に規定があるとされている。

学校教育法第11条

 

第十一条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し、体罰を加えることはできない。具体的には文部科学省が参考事例をあげて説明をしている。

体罰となるものは「足で踏みつける」とか「突き飛ばす」などの暴力が伴うもので、他に「トイレに行かせない」とか「放置すること」なども体罰となる。一方で、体罰とならないものは、「児童生徒などからの暴力行為に対して教員などが防衛のために止むを得ずした行為」や「暴力行為をしている生徒を制止するために行う行為」などが挙げられている。今回の町田総合高校の問題は、「体罰」の定義上、体罰となる問題指導となる。

確かにこの小賢しい生徒をぶっ飛ばしたいという気持ちはわかるが、「こういう場合は殴ってもOK」という事例を作ることは、これまでも、今でも起きている体罰問題をさらに難しくしてしまう。

ただ今の大人世代(30代半ば以上)、私は40代であるが、頭の形が変わるのではないかというほどポコポコとゲンコツを喰らってきた世代だと言えるだろうから、この程度、体罰というのはおかしいという意見もあろう。

しかし、今はこれでも体罰となる。明確な定義も線引きもあるからだ。

よって、どんなにぶっ飛ばされるに値するような生意気小僧であっても、殴れば体罰となってしまうのだ。

真面目な教師のために

毎年のようにスマホと動画、SNSで拡散という話題は出てくる。教師はいつでもどこでも撮影されている、録音されていると思った方がいい。そして、くじ引きのように、どこかに小賢しい反抗や小馬鹿にしてくる差別的生徒がいることをわかっておく必要がある。

教員社会は兎角「生徒はみんな良い子」から始まるフシがある。それでは、今回の町田総合高校のような問題には当たれない。どこにでも、「アイツ(教師)、辞めさせてやろうぜ」という性悪のグループはいるものだ。

その前提で考えれば、どんなに挑発されても絶対にそれには乗ってはならない。ただ粛々と処分の対象とすればいい。

これから教師を目指す人には、こんな環境では働きたくないと思うのは当然だろうが、教師というのはこういう嫌な面だけではない、喜びのある達成感の多い仕事でもあることを付け加えておこう。

編集後記

私個人の見解では、この問題では、学校側は挑発生徒I君保護者らとすでに話をつけています。謝罪と処分についての検討はすでに決まっているのです。

ここで言えることは、学校よりも保護者の方が強いということです。一部の保護者や生徒は、お客様意識が強く、学校とともに教育していくという意識は薄いのです。

ここまで問題が広がり、生徒らが挑発し、炎上目的があったということが明らかになり、教師の処分を免除するように願う署名運動も活発になるということは予想もしていなかったことでしょう。

私が親ならあの動画を見れば、「殴ってくれてありがとう」と教師に感謝したいくらいです。その上で、家庭教育の中で、徹底的な礼儀作法を学ばせるでしょう。

一方、都教委は問題については放置し、世間が忘れる頃にちょうど進級や新入学、教員の転勤などの時期が来るので、しれっと別の学校に配置を変えようと考えているでしょう。

つまり、問題について徹底的に話し合い、再発防止のために根本的にできることは放棄しているのです。ですから、こうした問題は明確な答えや基準なども示されないまま、再発するのです。

メルマガのご登録により阿部さんの活動を支援することができます

MAG2 NEWS