EV 運転スタイルによる航続距離の差は? 2台のジャガーIペースで検証
もくじ
ー 走行スタイルによる違いを検証
ー ルートの選択 バッテリーの温度管理
ー テスト開始 強力な回生ブレーキ
ー 最初の合流地点へ
ー セッジムアで最初の充電
ー 2度めの充電
ー 走行テストを終えて
ー EVの航続距離を最適化する方法
ー 高速道路での充電問題
ー 充電設備の普及促進へ
走行スタイルによる違いを検証
我慢をするのは骨が折れる。だって、400psで71kg-mのクルマなのに、急がないように運転しろというのだから。
このクルマが、乗って30分もしないうちにあなたをイライラさせるほど航続距離が短い電気自動車だから、ではない。われわれは実験を行っているのだ。厳密な実証実験ではないが、我慢強く最高速度を守った運転をするとどこまで走れるのか、会議のためにちょっと急いだ場合はどうなるのかをIペースを使って調べる実験である。

実走行実験のため、われわれは2台のIペースを用意した。2台ともミドルセックスのフェルトハムにある本誌のサテライト本社にスタンバイしている。一晩かけて穏やかな温度(これについては後述する)の屋内で充電をして、2台とも同じ場所を目指す。
すでにある原子力発電所に加え、また新たに(論争の的になっている)原発を建造中の町、サマセットのヒンクリー・ポイントである。関連性はといえば、もちろん、この原発で作られる電気が増殖中のEVの「燃料」としても使われることである。
ヒンクリー・ポイントは現実的な目的地でもある。ジャガーが推奨する充電ポイントのスマホアプリ、ザップマップによると、3本のルートが選択可能である。
ルートの選択 バッテリーの温度管理
もっとも面白そうなのは、高速、幹線道路、市街地、カントリーロードを通るルートだ。走行距離にして224km。一見したところではIペースの公式WLTP走行距離である470km以内に充分おさまっている。写真撮影でちょっと寄り道をするため、走行可能距離は多少短くはなるが。
それでも、赤いクルマのレポーターは不安のないドライブを実現するため、省燃費をしっかりと意識しながら普通に運転することとする。

一方、青いIペースのドライバーにとってエコドライブは優先事項ではない。このクルマはロードテスターのリチャード・レーンが運転する。海辺のランデブーに向かう途中では、このクルマの高性能ぶりを楽しむことだろう。

出発前、航続距離を最大化するテクニックをもっとよく理解するため、わたしはIペースの車両統括マネージャーであるジェームズ・マシューズと話をした。彼はこういう。「EVも内燃機関のクルマ同様に、燃費は温度にかなり依存します。温度によってどのくらい電気が蓄えられるか、どのくらい電気が使えるのかが変わってきます。バッテリーは人間に似ていて、最適な温度環境は20℃から25℃です」
旅行の直前に充電することが望ましいのはこれが理由である。つまり、充電器の電力を使ってキャビンの温度を整えられるという理由だけではなく、バッテリーも同じように事前に温度を整えることで蓄電能力を高めることができるからである。
テスト開始 強力な回生ブレーキ
「理想的には、クルマが温まっていない状態で充電し、その後でクルマを温めるのがいいですね。そうすれば、バッテリーの蓄電量は増えるんです」とマシューズはいう。このため、と彼は説明する。「Iペースの冷却システムは、三つの温度管理システムから構成されています。電流を流し始めるときにバッテリーを最適な温度にするんです」
一晩同じチャージャーで充電した2台のIペースは、バッテリー表示が100%なのにもかかわらず、航続距離の表示はちょっと違っていた。青いクルマの予想航続距離は406km、赤いクルマは433kmだった。

このわずかな違いはこれから大きく広がることになる。青いIペースはA303のソルスティスのサービスエリアに急いで到着しようとしている。口数の多いウィル・ウイリアムズとそこで待ち合わせしているのだ。レーンはノーマルモードでIペースを運転するが、道路が空いたときにはダイナミックモードに切り替えるだろう。
赤いIペースは、エコセッティングをしっかりとキープする。回生システムのレベルはインフォテインメントシステムで「最強」になっている。この状態では、ツインモーターは0.4Gほどの減速加速度を発生させることができる。ブレーキペダルのゴムを摩耗させなくてもいいくらいの減速加速度だ。
このアクセルを離したときのジャガーの減速マナーにはすぐに魅了されるだろう。最初はちょっと奇妙な感じだが、まもなくブレーキを使う必要がなくなる。減速の進み方が的確かどうかしっかり判断できるようになるまでは、時にはちょっとアクセルを踏み直す必要もあるが。
最初の合流地点へ
たとえEVを運転したことがあったとしても、これほどまでに強力な減速感はちょっとないだろう。この新しさには裏がある。この強回生モードでは、いくつかのサブシステムをエコモードにするほか、エネルギーを浪費するオートマティックのクリープもなくなるのだ。
何アンペア節約したかは、アクセル、スピード、ブレーキの使用状況を評価するグラフィックを選択すればインフォテインメントシステムで見ることが可能だ(インフォテインメントシステムのインターフェイスの出来は褒められたものではないが)。

M3に到着するまでに、3項目の評価はすべて5段階中の5となっていた。評価スコアは100%だ。急なトラフィックを避けるためにアクセルを踏む必要がある時だけ99%になるので、最高点を取るのはとても簡単だ。

108km先のソルスティスのサービスエリアでは、俊足の青いIペースは航続距離の195kmを消費し、バッテリー残量は65%である。一方、赤いIペースはわずか51kmの航続距離を消費しただけだが、バッテリー残量は青いクルマと近い70%である。
クルマがヒンクリー・ポイントに近づくころには、2台の航続距離はかなり減ってきた。これにはいくつかの理由がありそうだ。最も明らかなのは、すでに130km以上走っていること。これはサービスエリアとヒンクリー・ポイント原子力発電所近くの駐車場間の距離である。もうひとつの理由は、高速道路の休みなしのクルージングではほとんど回生電力は発生しないため、航続距離をかなり消費するのではないかということだ。
セッジムアで最初の充電
実際、青いIペースはこの駐車場に到着できないのではないか。レーンは近くの充電ポイントへ迂回しようかと考えたほど航続距離がとても不安だった。そこには立派な7kWのメネケス・コネクターがあることが分かったのだ。結局、彼はこれをやめるという危険を冒してランデブーポイントに到着した。
残りの航続距離はちょっと危険レベルの47kmだった。一方の赤いIペースは残り120kmだった。ザップマップ・アプリによると、急速充電のCCSコネクターを備えた最も近い充電ポイントは53km離れたセッジムア・サービスエリアである。

しかし、このアプリによれば、北と南のサービスエリアにある充電器はともに休止中だ。そこでエコトリシティのエレクトリック・ハイウェイに電話をしたところ、北の充電器は現在動作中であり、最新のチャージャーの状態を知りたければザップマップではなくて専用のアプリが必要だと教えてくれた。航続距離に不安のある電気自動車のドライバーなら、スマホにこのアプリと連絡先の電話番号を入れておくのが賢明だということをすぐ理解した。
レーンは航続距離19kmとバッテリー8%を残してセッジムアに到着した。「とてもストレスだったよ」1回の充電で319km走った旅の最後のレグのことだ。赤いクルマは90kmと26%を残してセッジムアに到着したが、まずは低速充電で間に合わせなければならない(ジャガーのマニュアルによると、フルチャージするには10時間28分ほどかかりそうだ)。
2度めの充電
レーンが50kWのチャージャーをバッテリーが空のIペースにつないでしまったからだ。今いるのはAUTOCAR本社から225km離れたところだ。そのためか、レーンは標準の45分充電をもう1本とコーヒーを買った。その間は待ちである。この90分の2回の充電で、彼のクルマの航続距離は250kmに回復した。
わたしの赤いIペースは50kWのチャージャーで45分充電を一回しただけ。航続距離は224kmだ。セッジムア・サービスエリアからオフィスに帰るには距離が足りないが、これは高速道路を100km/hで静かに走れば増やすことができると思った。

しかし140km先のシーブリー・サービスエリアに着くころには、わたしの航続距離は19kmまで下がってしまった。そこで、もう1台は必ずしも望んではいなかったが、またコーヒーブレークを取ることにした。さらに45分充電したことで航続距離は106kmになった。これでAUTOCARオフィスまでの最後の79kmは大丈夫なはずである。

実際、到着した時は残り37km、バッテリー残量は11%だった。回生発電が働く市街地走行で距離が延びたようだ。しかしそんなに緊張は和らがなかったし、ジャガーのカーナビでは近くにあるチャージャーがどのタイプか分からないという事実に変わりはない。正体不明の電源の場所が表示されるだけだ。
ここまで、13時間走って528kmの旅を終えた。かなりの時間を写真撮影にとられたが、セッジムア・サービスエリアから先は、3回目の充電停車を避けるため、Iペースの性能からすると大幅にゆっくりとしたペースで走らなければならなかった。レーンはロンドンの自宅に着くまでにさらに2回の充電が必要だった。
走行テストを終えて
この実験から学んだものは何だろう? おとなしく運転した赤のIペースは1回の充電で385kmを走ることができた。元気よく運転した青のIペースは、335kmで再充電が必要だったが、ずっとハードに運転したことを考えると、悪い数字ではない。
赤いクルマの実際の航続距離は、メーカーの主張する470kmという数字より明らかに短い。でも悪くはないし、このクルマが他のEVよりもずっと実用的であるのは事実である。これは青のIペースの航続距離が示している通りだ。このクルマで最初の再充電に向かう直前の64kmはきわめて慎重に運転したわけだが、いつも高性能を楽しんだとしてもリーズナブルな航続距離を実現できることが明らかとなった。

Iペースはとても実用的な電気自動車だ。英国全土で今いま出来始めたばかりの充電ネットワークを前提としていることは確かだが。今回われわれが使用した50kWのチャージャーではなく、100kWの急速充電器が使えるようになれば、航続距離を回復させている間、もっとスピーディーにコーヒーを飲むことができるだろう。
当分の間、Iペースのオーナーはイライラしないためにアーリーアダプターの忍耐力を要求されるだろう。今回学んだもうひとつは、乗り心地は硬すぎてインフォテインメントシステムは貧弱で二流のエルゴノミクスは標準以下ではあるけれど、Iペースは強い印象を与えるEVであり、コーヒーブレークのために急いで到着することを我慢できないような、素晴らしい性能とハンドリングを持ったクルマだということだ。
EVの航続距離を最適化する方法
クルマに乗りこむ数時間前にEVを事前に準備することがまず第一だ。家に充電器があればことは簡単。それに(Iペースの場合)スマホアプリでキャビンの温度を設定することができる。こうして満充電で出発する。エアコンは設定温度をキープするだけ。極端に暑いないし寒い状態からキャビンの温度を変えるためにバッテリーを使わないことだ。
ドライブ設定からエコモードを選ぶのは当然だ。さらに、アクセルを閉じた時のモーターの回生ブレーキを最大に設定するのはとても有益だ。モーターによるブレーキングだけでなく油圧ブレーキを使うことは、運動量を浪費するとともにバッテリーを無駄遣いすることになる。

交通状況を先読みしてスピードを維持することが望ましい。ずっと高速で走り続けることを避けるのもバッテリーを節約するのに役立つ。
事前に計画を立てることも極めて重要だ。どこで充電するか計画を立て、アプリでそこの充電器が実際に稼働中かチェックする。エコトリシティとザップマップ・アプリが役に立つ。将来、もっと多くの高出力チャージャーが配備されれば、計画の必要性は薄れていくだろう。
高速道路での充電問題
現在のところ、テスタ独自のスーパーチャージャーネットワークにアクセス可能なテスラのオーナーでなければ、旅の途中で急速充電できる適当な超高速充電ネットワークは存在しない。ほとんどのプレミアムカーメーカーが計画中の大容量バッテリーを搭載した航続距離の長いEVにはこれが必要なのだ。
この問題を解決するため、BMW、ダイムラー、フォード、それにフォルクスワーゲングループは、共同でイオニティを立ち上げた。350kWの充電スタンドのネットワークである。

計画では、2020年までに合計で400サイトを欧州内に設置することになっている。そのうちおよそ40から45カ所が英国である。英国初のスタンドは今月メイドストーンにオープンすることになっている。すでに稼働中の大陸の8カ所に続くものだ。
スタンドはおよそ100kmから120kmおきに高速道路のサービスエリアに設置され、各スタンドには概ね6台の充電器が備えられる。もしクルマが最大出力の充電に対応可能であれば、350kWの充電器で5分間充電するとおよそ100kmの航続距離が得られる。
充電器はクルマのバッテリーが対応可能な最速レートで自動的に動作する。標準的な充電価格は決まっている。英国では1時間で8ポンド(1190円)、大陸では8ユーロ(1055円)である。
充電設備の普及促進へ
イオニティを創設した主な理由は、各国政府が充電インフラをばらばらに立ち上げるのをイオニティ・メンバーの自動車メーカーは待っていられないからだ。イオニティ充電設備の普及により、新規格「コンバインド・チャージング・システム」のコネクターが産業界の標準となることが期待されている。
現状では4種類の異なった充電器規格が併存している。イオニティはテスラを含め他の自動車メーカーの参加を期待しているが、これまでのところ石油会社からの投資は断っている。

イオニティに加え、E.ONとクレバー・ネットワークスが2020年までに欧州全土に220基の180kWスタンドを設置する予定だ。またポッドポイントは英国全土に150kWの充電器を多数設置する計画であり、EUファンドのウルトラ-Eコンソーシアムも、オランダからオーストリア一帯に175kW充電器の「回廊」を設置中だ。
シェルは2020年までに英国に40基の高出力充電器を設置する計画に参加している。これは英国ですでに利用可能な1656基の50kW充電器(今回のIペースの旅行で使用したもの)に上乗せされるものだ。
