最もヤバい起業家が語る「起業10か条」
※本稿は、トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(赤坂桃子訳、飛鳥新社)を再編集したものです。
■スタートアップの10か条
ピーター・ティールの成功に秘訣はない。『ゼロ・トゥ・ワン』の冒頭で彼はすぐにそのことに詳しく触れている。
「僕は起業には多くのパターンがあることに気づいたけれど、この本は成功の方程式を紹介してはいません。起業について教える際のパラドックスは、そんな方程式はそもそも存在しないということです。どんなイノベーションも新規で唯一無二で、どうしたらイノベーティブになれるか具体的に教えられる専門家などいないからです。でも僕が気づいた強力なパターンが一つだけあって、それは、成功者は思いがけない場所に価値を見出し、方程式でなく第一原理からビジネスを考えるということです」
ティールは、すばらしい企業はつねにその背景に「秘密」があると考える。ページランクのアルゴリズムを公開していないグーグルや、レシピを極秘としているコカコーラは、その第一原理に秘密が隠されている大企業のいい事例だ。
ティールによれば成功するスタートアップのカギは、「唯一無二であること」「秘密」そして「デジタル市場で独占的ポジションを確保していること」である。
彼はインタビューで、スタートアップを成功に導くためのルールについて述べている。
■その1:きみは自分の人生の起業家である
自分の人生に優先順位をつけるのはきみだ。自分の人生をどうやってはじめるのかという根本的な決定を下す自由は、きみの手の中にある。
■その2:1つのことを、他の人を寄せつけないほどうまくやろう
スタートアップでもっとも重要なのは、テクノロジーはグローバルなビジネスだという認識である。本当にすぐれたテクノロジー企業には、世界中の他のどの企業よりすぐれた力を発揮できる何らかの強みがある。そうしたポジションを手に入れなければならない。
■その3:きみの人生と会社に、自分と結びつきのある人を的確に配置しよう。互いに補い合える相手と組もう
企業組織について、ティールには強いこだわりがある。創業者と社員は互いに調和のとれた関係で、同じ目標を追わなければならない。そこで彼は、投資先候補の企業に複数の創業者がいる場合、どうやって知り合ったのかと尋ねる。だめな答えは、たとえばこうだ。「2人とも起業を夢見ていたんで、会社をはじめることにしたんです」。ティールの言葉を借りれば、私たちはラスベガスのスロットマシンの前で知り合った相手と、行き当たりばったりで結婚すべきではない。創業者どうしが長年の知り合いで、どんなビジネスモデルにするかとことん意見を出し合い、それぞれの得意分野で補完し合える能力があるのが好ましい。
■その4:独占をめざそう。競争からはさっさと身を引き、他社との競合を避けよう
創業者が独占をめざすべきとは、競合他社と明確に差別化でき、競争に陥らない唯一無二の企業をつくるということだ。資本主義と競争は同義語だと考えられているが、ティールにとって両者はむしろ水と油の関係にある。
■その5:フェイク起業家になるな
人生で何をしたいかと問われて、「起業家になりたい」と答えているようではだめだ。「カネ持ちになりたい」とか「有名になりたい」と答えるのと同じで、そんなビジョンでは起業は失敗する。投資家としてのティールは、これまでどの企業も政府もとりくまず、解決しようと思わなかった重要課題にとりくんでいる企業と経営者を探すようにしている。
■その6:ステータスや評判だけを基準に評価するな。ステータスに惑わされて下した決定は長続きせず、価値がない
ティールはスタンフォード時代と法律事務所時代にこのことを実感した。当時をふりかえると、彼は自分が本当にしたいことよりも、面目や規範を気にしていたのだった。その教訓から彼は「ステータスより中身をとれ」と言うのである。
■その7:競争は負け犬がするもの。まわりの人間を倒すことに夢中になってしまうと、もっと価値があるものを求める長期的な視野が失われてしまう
ティールは若い頃から競争を熟知していた。競争からは幸福感も充実感も得られなかった。彼は固い友情と信頼関係を生かしてビジネスを展開した。また起業と投資に際しては、可能なかぎり競争を避け、他に例を見ないビジネスモデルに基づいて行動した。
■その8:「トレンド」は過大評価されがちだ。最新ホットトレンドに飛びついてはならない
ヘルスケアや教育関連のソフトウェアのようなトレンドは過大評価されているとティールは考える。「ビッグデータ」とか「クラウド」といったバズワードもそうだ。こうしたバズワードまみれの投資話を聞いたらさっさと逃げろと彼は忠告する。IT業界用語は、ポーカーのブラフ(はったり)と同じだ。こうした耳ざわりのいい言葉で飾りたてている企業にろくなものはないというのがティールの持論である。
■その9:過去に執着するな。なぜ失敗したのかすばやく分析し、あとは前を見て、方向を修正していこう
シリコンバレーでは人は失敗によって賢くなると言われている。だがティールによれば失敗は人間をひどく損なう。特に、膨大なエネルギーを注いで新しいことにとりくんだのに、うまくいかなかった場合は。失敗からは新しいスタートアップを興す教訓を引き出すことはできない。彼は失敗の原因として「人選がまずかった」「アイディアが悪かった」「タイミングを誤った」「独占の可能性がなかった」「製品が狙ったように機能しなかった」の5つをあげている。
■その10:成功に通じる秘密の道を探そう。その他大勢がすることを真似してはいけない
「誰もが小さなドアから外に出ようとひしめき合っているが、きみのそばには、誰も通らない秘密の近道があります。その近道を探し当てて、人より先に歩みだそう」
スタートアップがすべきことはなんだろう? ティールは端的にこう答えている。
「当たり前だと思っていたことを疑い、新しい視点で徹底的に考え直すのです」
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起業家、投資家、ジャーナリスト
1971年ドイツ生まれ。世界有数の保険会社アリアンツにてオンライン金融ポータルの立ち上げに携わったのち、複数のインターネット企業の創業者となる。シリコンバレー通として知られ、同地でさまざまなスタートアップに投資している。シリコンバレーの金融およびテクノロジーに関する専門家として、ドイツのニュース専門チャンネルn−tvおよびN24などで活躍中。他の著書に『Silicon Valley Investing』がある。
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(起業家 トーマス・ラッポルト 撮影(ピーター・ティール)=Manuel Braun)
