数あるバイオリンの中でも名器とされているのがストラディバリウスで、安いものでも1本あたり数千万円以上、高いものだと十数億円の価値があるとされています。しかし、プロでもない人が現代のバイオリンとストラディバリウスの違いを聞き分けるのは難しく、なぜ評価されるのか納得できる人は少ないはず。海外メディアのVoxがYouTubeで公開しているムービーではストラディバリウスのバイオリンの価値がなぜ高いのか、その理由に迫っています。

Why Stradivarius violins are worth millions - YouTube

2008年、バイオリニストのフィリップ・クイント氏は、ダラスのコンサートでバイオリンを演奏するため、アメリカにやってきました。



クイント氏はニューアーク空港からタクシーに乗車してマンハッタンに移動します。このとき、クイント氏はタクシーにバイオリンを置き忘れてしまったそうです。



クイント氏は当時について、「これは私の人生で最も恐ろしく、悲惨な経験です」と語っています。



その後、数時間後にバイオリンは戻ってきましたが、クイント氏にちょっとしたトラウマを残すことになりました。



それは、タクシーに置き忘れたバイオリンが、普通のものではなく400万ドル(約4億4000万円)以上の価値があるストラディバリウスのバイオリンだったからです。



クイント氏は「まるで、自分自身の一部を失ったような感覚でした」と当時のショックの大きさを物語っています。



ストラディバリウスというバイオリンの名は、ミュージシャンでない人であっても、一度は耳にしたことがある人も多いはず。



この世界で最も有名なストラディバリウスはいくつか存在しており、それらを愛用する音楽家の中には、ストラディバリウスに愛を宣言した人もいます。



ヨーヨー・マ氏は「この楽器には魂があり、想像力を持っています」と話していたり……



バイオリニストのピンカス・ズーカーマン氏は「ストラディバリウスはツールなんかじゃありません。むしろ自分の一部です」と語っています。



多くの音楽家から評価されているストラディバリウスですが、最大で1600万ドル(約18億円)の値が付くほど信じられないぐらいに高い価値があります。



しかし、本当にそれだけの価値があるのでしょうか。ニューヨーク・フィルハーモニックでアシスタントコンサートマスターを務めるミシェル・キム氏に、実際にストラディバリウスのバイオリンを弾いてもらい、通常のバイオリンとの違いを教えてもらいました。



キム氏はストラディバリウスの特徴について、「澄んだ音色をもち、信じられないほど甘い音を出すことができます」と語っています。また、これ以外にも強い音や普通のバイオリンでは出せないような音まで出せてしまうとのこと。



ストラディバリウスの鮮やかな音を実現したアントニオ・ストラディバリ氏は、17世紀後半〜18世紀初頭にかけて活躍したイタリアのクレモナに住む弦楽器製作者でした。



ストラディバリ氏は生涯のほとんどを弦楽器製作に費やし、生涯で1100の楽器を作り上げています。



しかし、2018年現在で使用できるものは約650ほどしかなく……



非常に希少価値が高いものとなっています。この希少価値の高さから、ストラディバリウスの楽器には固有の名前が付けられるという伝統が存在しています。



たとえば、クイント氏が使用しているストラディバリウスのバイオリンは「ルビー(Ruby)」と呼ばれています。



クイント氏は「私が過去に宝石のルビーについて調べたとき、ルビーは「情熱と神秘の石」であることがわかりました。私はすぐに、これらの性質を自分のバイオリンにあてはめることにしました。今では、ルビーの性質こそが私のストラディバリウスの特徴であると感じるようになりました」と語っており、当初は調べて知ることになった性質がバイオリンの演奏を続けることで、2018年現在では本物だと感じるようになったそうです。



何世代にもわたって、多くの音楽家は、ストラディバリウスが現代のバイオリンよりも優れた音を持っていると主張していますが、本当に聞き分けることができるのでしょうか?



パリの研究者は、プロのバイオリニストに二重盲検試験を行って、ストラディバリウスのような古いイタリアのバイオリンと新しいバイオリンの音の違いを判別できるか実験を行いました。



すると、プロのバイオリニストであっても、古いバイオリンと新しいバイオリンの音を確実に聞き分けることはできないという結果となりました。



そして、もっと驚くべきことに、被験者となったバイオリニストの多くは、ストラディバリウスよりも新しいバイオリンの音を好むということが明らかになっています。



研究に携わったバイオリン製作者でもあるジョセフ・カーティン氏は、バイオリニストが音を聞き分けられないにもかかわらず、ストラディバリウスを好む理由について「1つの基準として、製作者の影響力があります。この影響力という点では、誰もストラディバリ氏に勝てなかった」と語っており、ストラディバリウスが選ばれる基準が音以外にも存在するとしています。



実際、キム氏のバイオリンは、ケンブリッジ公からドイツの作曲家ルイ・シュポーア氏、ニューヨーク・フィルハーモニックの創設者であるユーレリ・コレルリ氏まで、約300年にわたって受け継がれてきました。



それは文字どおり、過去とのつながりです。



キム氏は「ストラディバリウスは歴史の一部です。このバイオリンはニューヨーク・フィルハーモニックの歴史とともにあるので、ニューヨーク・フィルハーモニックそのものであるように感じています」と語り、ムービーを締めくくっています。