「自宅でできる医療」は点滴やリハビリ、服薬管理 どこまでカバーできる?【医師解説】
「家では医療行為をできないのでは?」と思っていませんか。実は在宅医療では、定期的な診療はもちろん、点滴や在宅酸素、医療機器の管理、服薬指導、褥瘡(床ずれ)処置、さらにはリハビリテーション(以下、リハビリ)まで幅広く対応できます。病院と連携しながら、自宅でその人らしく暮らし続けるための医療の実際について、外来から在宅まで一貫して行っている医療法人明医研ハーモニークリニックの中井先生に聞きました。
監修医師:
中井 秀一(ハーモニークリニック)
福島県立医科大学医学部卒業。その後、自治医科大学附属さいたま医療センターで初期研修を受け、自治医科大学附属病院でプライマリ・ケアと家庭医療学を学ぶ。2020年、医療法人明医研 ハーモニークリニックの院長となる。日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本専門医機構認定総合診療専門医、日本専門医機構総合診療専門研修指導医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医。現在、日本プライマリ・ケア連合学会埼玉県支部支部長も務める。
「在宅医療」って、どういうこと?
編集部
在宅医療とは、そもそもどのような医療を指すのでしょうか?
中井先生
在宅医療とは、通院が難しい患者さんの自宅や施設に医師や看護師などが訪問し、必要な診療やケアを行う医療のことをいいます。病院で受けられる医療を、「すべてそのまま自宅に持ち込める」わけではありません。しかし、病状の確認や薬の調整、処置、療養相談など、日常生活に寄り添った医療を継続的に受けることができます。
編集部
具体的に、在宅医療はどんな人が利用することが多いのでしょうか?
中井先生
在宅医療は、高齢で通院が難しい人が利用するイメージのほうが強いかもしれませんが、がん、心不全などの循環器疾患、呼吸器疾患、脳卒中、骨折などで継続的な医療が必要な人、退院後も医療的ケアが必要な人、緩和ケアが必要な人、認知症があって通院負担が大きい人など、幅広い患者さんが対象になります。また、小児や移行期(小児科から成人向けの診療科へと移る時期)の人が利用することもあります。
編集部
自宅で医療行為を受けられるのかという不安もあります。病院と比べて問題はないのでしょうか?
中井先生
不安を感じる人は少なくありませんが、在宅医療では病状や生活環境に応じて必要な支援体制を整えながら診療を行います。定期的な訪問に加え、急変時の相談体制を設けている医療機関も多く、訪問看護師や薬剤師、ケアマネジャーなどと連携しながら支える仕組みが整っています。もちろん、すべてを自宅で完結できるわけではなく、検査や入院が必要な場合や、介護についてご本人やご家族が不安を感じる場合、がんの末期などは病院と連携するケースもあるので安心してください。
編集部
在宅医療は「最期を迎えるための医療」というイメージがあります。
中井先生
そのような印象を持たれがちですが、在宅医療は人生の最期を迎える人のケアのためだけではありません。退院後の体調管理、慢性疾患の継続治療、床ずれ予防、栄養管理、脳卒中や骨折後などのリハビリ、生活を維持するためのリハビリ、認知症ケアなど、日常生活を支える幅広い医療が含まれます。症状をコントロールしながら自宅で過ごしたい人にとって、在宅医療はとても重要な選択肢になります。
点滴、リハビリ、服薬指導など、具体的にどんなことをしてくれるのか?
編集部
在宅医療では、点滴のような処置も自宅で受けられるのでしょうか?
中井先生
はい、病状に応じて自宅で点滴を行うことは可能です。例えば、脱水時の補液、抗菌薬(抗生物質)の投与、栄養管理の一環としての点滴などが行われることがあります。また、皮下注射、インスリン管理、鉄剤の点滴、血流をよくするための点滴、貧血のための皮下注射などに対応するケースもあります。ただし、患者さんの状態や自宅の環境、ご家族の支援体制によって適応は異なるので、詳しくは医師に相談してほしいと思います。
編集部
手術後などのリハビリも在宅で行えるのですか?
中井先生
在宅でのリハビリは、単に筋力をつける訓練だけではありません。歩く、立ち上がる、トイレに行く、食事をする、着替えるといった日常動作を、その人の生活環境に合わせて改善していくことが大きな目的です。理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が訪問し、自宅の段差や動線、生活動作訓練、嚥下訓練、ご家族による介助方法も含めて評価しながら支援します。
編集部
薬の管理も在宅医療で支援してもらえるのでしょうか?
中井先生
はい、服薬管理は在宅医療の重要な役割の一つです。高齢の人や複数の病気を抱える人では、薬の種類が多くなり、飲み忘れや重複、飲み間違いが起こりやすくなります。そのため在宅医療では医師が必要に応じて薬を整理したり、訪問看護師や訪問薬剤師が服薬状況を確認したりして、「お薬カレンダーをつける」「飲みやすい形へ変更する」「残薬の確認をする」「薬が飲めない人は貼り薬を利用したり、服薬回数が少なくて済む薬へ変更したりする」など、生活に合わせた工夫が行われます。
編集部
そのほかに、自宅で受けられる医療やケアにはどのようなものがありますか?
中井先生
例えば、床ずれの処置、尿道カテーテルや胃ろうの管理、人工呼吸器、酸素療法、気管カニューレ、輸血、吸引、排便コントロール、痛みの緩和、栄養相談などがあります。また、ご本人の不安やご家族の介護負担に対する相談も重要な支援になります。医療行為だけでなく、安心して暮らし続けるための調整役や見守りも、在宅医療の重要な役割です。
在宅医療を受けるために知っておきたいこと
編集部
在宅医療を受けたい場合、まず何をすればよいのでしょうか?
中井先生
まずは、現在通院している病院やクリニックの主治医、あるいは地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談するとよいと思います。現在入院中で退院を控えている人であれば、退院支援の担当者を通じて在宅医療につなげることもできます。
編集部
そのほか、在宅医療を行う医療機関を見つけるにはどのような手段がありますか?
中井先生
地域の医師会が在宅医療を行う医療機関を把握しているところもあるので、相談してもよいと思います。また、厚生労働省が運営している「医療情報ネット(ナビイ)」にも在宅医療を行っている医療機関が紹介されているので、ぜひ検索してみてください。
編集部
在宅医療を受けるには、どのような条件が必要ですか?
中井先生
基本的には、通院が難しいことが一つの目安になります。そのほか病状や必要な医療内容、ご本人やご家族の希望、住環境などを踏まえて総合的に判断されます。ただし、緊急性の高い治療や高度な検査が頻繁に必要な場合には、病院での管理が優先されることもあります。まず、ご自分が在宅医療を受けられるかどうか、主治医などに相談するとよいでしょう。
編集部
在宅医療を始める際、ご家族が知っておくべきことはありますか?
中井先生
「在宅医療というと、家族の負担が大きいのでは」と不安になる人も多いのですが、実際には医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパーなどが連携しながら患者さんを支えます。もちろん、日常の見守りやちょっとした変化に気づく役割は大切ですが、介護などの責任をご家族だけが背負う必要はありません。そのため、困ったときの相談窓口や急変時の動き方を事前に確認しておくと安心です。また、ご家族の介護負担が大きいときには『レスパイト入院(一時的な入院)』を利用できる場合もあります。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
中井先生
在宅医療では、日々の診療だけでなく、必要に応じて輸血や麻薬管理、在宅静注強心薬療法など、専門的な医療処置にも対応します。さまざまな医療を、病状や生活環境に合わせた形で支援できるのが大きな特徴です。自宅で過ごす時間を少しでも安心で穏やかなものにし、患者さんがより幸せな生活を送れるよう支えていきたいと考えています。もし興味がある人は、在宅医療を行っている医療機関へ気軽に相談してもらいたいと思います。
編集部まとめ
在宅医療は通院が難しい人にとって、「病院での診察」の代わりになるだけでなく、専門的な治療や処置まで含め、生活を支える基盤となるものです。病気を診るだけでなく、その人らしい暮らしを守る視点があるからこそ、自宅で過ごすという選択に安心感が生まれるのだと感じました。
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