オランダ戦で同点ゴールを決め、日本の左サイドで躍動していたのが、中村敬斗(25)だ。

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 3月のイングランド戦では、三笘薫と左サイドの攻撃を担い、カウンターを発動。連動した動きで三笘のゴールをお膳立てし、勝利に貢献した。

 三笘+中村は、日本の攻撃の核になる。

 誰もがそう思っていたし、ふたりに期待していた。ところが三笘がプレミアリーグの試合中の怪我により、日本代表のメンバーから外れた。すでに南野拓実も怪我のために離脱が確実視され、左サイドの攻撃の構築がチームにとって喫緊の課題になった。

 その左サイドの主役に転じたのが中村だった。


中村敬斗選手 ©時事通信社

「ファンみたいな気持ちで、すごいなぁ」4年前は日本代表が“遠い存在だった”

 パートナーは、誰になるのか。伊東純也なのか、鈴木唯人なのか、塩貝健人なのか……。おそらく戦いが終わるまで、その相棒捜しはつづいていくだろう。森保一監督は、常に最善と最高を目指しているからだ。

 4年前、中村は日本代表の影すらも踏めない存在だった。

 2018年にガンバ大阪に入団した後、2019年にオランダ1部リーグのFCトゥウェンテに移籍。2020年にベルギー1部のシント=トロイデンVV、2021年にオーストリア2部、同年8月からオーストリア1部のLASKリンツに入団した。

 日本代表ではU17W杯で4得点を挙げて活躍、U20W杯ではFWだったが、思うような活躍ができず、決勝トーナメント1回戦で韓国に敗れた。森保監督が指揮を執った東京五輪を戦うU24日本代表のメンバーにも選出されず、代表はいつしか遠い存在になった。

 前回のカタールW杯もドイツやスペインを破った試合を見て、「ファンみたいな気持ちで、すごいなぁ」と思って見ていたという。

 だが、同時に、その舞台でプレーしたいと思った。

シーズン開幕前にチームから離脱…移籍をめぐってチームと“トラブル”

 2023年、活躍の場を求めてフランス1部リーグのスタッド・ランスに移籍した。持ち味のドリブルからの仕掛けや決定力を高め、32試合11得点2アシストと活躍。ただチームは2025年、2部に降格した。

 念願の代表に初めて招集されたのは2023年3月だった。途中出場の日々がつづいたが同年9月のトルコ戦で初スタメンを飾り、ゴールを決めた。

 当時は、まだ南野と三笘、前田大然が軸で中村は左サイドでは4番手の選手だった。2024年6月のミャンマー戦で3バックになってからは左アウトサイドに三笘が位置取り、中村はその控えという状態がつづいた。

 当時は、「与えられたポジション、チャンスで結果を出すしか序列は変えられないので、出たら爪痕を残すしかない」と悲壮な覚悟でプレーしていた。

 そんな中村の覚悟に水を差すような出来事が起こる。

 2部落ちしたチームからの移籍を進めようとしたが、契約を巡って問題となり、シーズン開幕前からチームから離脱。体調を崩すなどして、日本代表のアメリカ遠征にも帯同できず、いよいよ追いつめられた状況になった。

ブラジル戦での同点ゴールで評価をさらに高めた

 このままではダメになると考え、自分のエゴを捨てて残留を決め、2025年9月にクラブに合流した。このままでは代表に招集されず、W杯も見えなくなってしまうという危機感が中村のベクトルを前向きにさせた。

 2025年10月のパラグアイ戦から代表に復帰。「自分のサッカー人生を賭けるぐらいの気持ちで臨んだ」という試合で躍動感あふれるプレーを見せた。

 そして中村の評価を決定的に高めたのがブラジル戦での同点ゴールだった。かつてスタッド・ランスでともにプレーしていた伊東からのクロスは、中村の代表復帰のお祝いのようなクロスだった。

 それが日本の逆転勝利に繋がった。

 だが、試合後、聞こえて来たのは拭い切れない危機感だった。

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「自分のプレーには納得していないです。ゴールは純也君がいいクロスを上げてくれたので、信じて飛び込んだからうまれたもの。それ以外は正直、全体的なパフォーマンスは微妙だなと思っています。ブラジルに勝ったのは大きいですけど、強豪相手にもゴールやアシスト以外の何かを残せるようにならないといけないと痛感しました」

 常に自分のパフォーマンスを全力で出すために、妥協を排除した。イケメンで何でもできそうだが、意外と不器用だったりする。食事は専属のコックをつけ、白米を中心に品数を多く、痩せないようにしっかり摂るようにしている。

 体質的に連戦がつづき、疲れてくると食が細くなり、体重が落ちてしまう。そうなるとパフォーマンスに大きな影響を及ぼすからだ。日常は、サッカーのことをあまり考えないようにしている。

 ひとりでいるとサッカーについて、あれができない、このプレーがよくないとか、わりとネガティブに考えてしまいがちだからだ。根が真面目な性格で、サッカーに真摯に向かう姿勢は、子どもの頃から変わらない。

 その一方で人気はうなぎ上りだ。

 昨年は現役のサッカー選手ではあまり聞いたことがないが、「Natural」という写真集を出した。ガンバ大阪出身でいえば、現会長の宮本恒靖以来だろうが、それだけ絵になる男という証明だ。

 今年1月にはパリで開催されたルイ・ヴィトンのファッションショーに呼ばれ、モデル顔負けのスタイリッシュな着こなしを見せ、東京五輪金メダルでプロスケートボーダーの堀米雄斗選手と挨拶を交わした。

 最近は、自身の短いソックスが話題になり、マネするこどもたちが出始めた。すると「試合やチーム練習の時は怪我しないようにソックスを下げるのはやめてほしいです」と注意喚起した。さらに日本航空(JAL)とパートナーシップ契約を締結し、中村は着々と自身の価値を高めている。

ストーカー被害に遭ったことも…日本での人気は代表随一

 そんな中村を好きすぎるファンがいるゆえの事件も起きた。昨年は自宅マンション近くで女性によるストーカー被害を受けた。とにかく老若男女問わずの人気は代表随一、今回のW杯でブレイクしたら中村敬斗の世界は一変するに違いない。

 そのためには、中村が常々語っている結果が必要になる。

「W杯は、全試合出たいですし、そのなかでチームのために役割を果たすのはもちろん、ゴールという結果を出して、インパクトを残したい。森保監督が言う、新しい世界を見られるようにやるしかないです」

 冷静な表情からは想像つかないが、言葉の端々にたぎるような情熱が感じられる。2002年の日韓大会、デビッド・ベッカムが活躍し、優勝したブラジルに負けたが、大きなインパクトを残し、“ベッカムの大会”と言われた。

 2026年北中米大会、中村敬斗がそうなったとしても何ら不思議ではない。

(佐藤 俊)