浜辺美波「思い、思われ、ふり、ふられ」

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「ああ、雨か」――雨空を見上げたときに考えることは、晴天のそれより少し多いかもしれない。「濡れると面倒だ」「傘を忘れた」「大雨にならなければいいが」など、ほとんどはマイナスの内容だろう。一方、安全な屋内で耳にする静かな雨音は、無意識に聞き入ってしまうような“独特の世界”をつくりだす。映画解説者の稲森浩介氏による映画案内、今回は“雨の世界”が効果的に描かれた、この時期はひときわ心に染みる作品5本を紹介する。

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告白する日はいつも雨降り

〇「思い、思われ、ふり、ふられ」(2020年)

 浜辺美波、北村匠海、福本莉子、赤楚衛二と、主役級の4人が織りなす切ない恋が描かれる。

浜辺美波「思い、思われ、ふり、ふられ」

 オープニングは、雨が降る日に4人が部屋や公園にいる場面から始まる。朱里(浜辺)と理央(北村)は、親同士が結婚して義理の姉弟となり、同じ家に住んでいた。朱里の同級生で親友の由奈(福本)は、理央に憧れている。しかし理央は朱里のことが好きだったのだ。そこに由奈の幼なじみの和臣(赤楚)が現れ、あることを目撃してしまう。それぞれの思いは複雑に絡み合い、相手を思えば思うほどすれ違っていく。

 理央は「俺は雨が嫌いだ」という。朱里に告白しようとした日は、雨が激しく降る6月2日だった。しかし、お互いの親が結婚し姉弟になることを聞かされ失恋する。由奈が理央に思いを打ち明けたのは、2人で雨宿りをしていた時だ。

 誰かが誰かに告白しようとする時はいつも雨が降っている。それは切ない恋心が雨の情景とマッチしているように見え、とても効果的だ。

 浜辺と北村は大ヒットした「君の膵臓をたべたい」(2017年)以来の共演だ。浜辺は今回が初キスシーンだったという。

 2016年の「東宝シンデレラ」オーディションで芸能界入りした福本は、本作では大学入学式と撮影が重なって友達に履修登録を頼んだという。撮影中はコテコテの関西弁だったので、他の出演者からそのギャップに驚かれたと話している(シネマトゥデイ)。今年10月には「時給三〇〇円の死神」(西畑大吾とW主演)の公開が控えている。

亡くなった妻が雨の日に戻る

〇「いま、会いにゆきます」(2004年)

「雨の季節に戻って来る」。そう自作の絵本に書き遺して亡くなった妻。やがて梅雨がやってきたある日、夫と6歳の息子の前にその妻が現れた。

 森や湖に絶え間なく降る雨や白い霧。雨の匂いが感じられるほど美しい情景だ。そんな日にかつて家族で遊びに行った廃工場を、父(中村獅童)と息子の佑司は訪れた。巧は妻・澪(竹内結子)と過ごした日々を思い出すように目を閉じる。佑司が「ママ!」と呼ぶ声に目を開けると、そこには雨に濡れそぼった妻がいた。

 しかし、妻は全ての記憶を失っていたのだ。もし亡くなった大切な人が突如現れたら、どう思うだろうか。おそらく驚きのあまり動揺することだろう。しかし、ひたすら降る雨がそんな感情を覆うのか、巧も佑司も再会した喜びでいっぱいだ。

 やがて澪は自分が亡くなっていて、残された時間が少ないことを知る。佑司に料理や洗濯を教えたり、12年分の誕生日ケーキを予約するのだ。佑司は雨の季節が終わらないように、てるてる坊主を逆さに吊るす。しかし6週間後、梅雨が明けると澪は消えてしまった。まるで雨とともに訪れ、雨とともに去る紫陽花のように。

 しかし、物語はこれで終わらない。なぜ澪は「雨の季節になったら戻ってくる」と書き遺したのか。そしてタイトルのもう一つの意味が解き明かされる。梅雨は早く終わってほしいと誰もが願うだろう。しかし、大切な人といられるのならずっと降り続けることを祈るに違いない。

雨の日に始まる28歳差の恋

〇「恋は雨上がりのように」(2018年)

 高校2年の女生徒が、45歳でバツイチのファミレス店長に真剣に恋をする物語。高校2年生の橘あきら(小松菜奈)は、陸上競技でアキレス腱を負傷。夢を断念し希望を失っていたある雨の日、訪れたファミレスで、近藤店長(大泉洋)にアルバイトで雇ってもらう。やがてあきらは、28歳も年上の近藤に密かに恋心を抱くのだ。そして思いを募らせついに告白する。その日も雨が降っていた。

 出場した100メートル競技で、あきらが11秒44で優勝するシーンがある。現在の高校生記録は2012年に作られた11秒43なので、あきらの記録がいかに凄いかがわかる。この大きな挫折から立ち直るきっかけが、近藤店長だ。

 小松が演じるあきらのとてもクールなキャラクターがいい。一見怒っているとしか思えない表情で近藤をじっと見つめる。近藤は嫌われていると思い、たじろいでしまう。しかしこれがあきらの愛情表現なのだ。近藤も小説家を目指していたが、思うようにいかない人生に悩んでいた。しかし、あきらの出現は、自分自身を見つめ直すきっかけになっていく。

 全編雨の描写が多い作品だ。近藤店長が「橘さんはいつも雨の日に突然現れるね」と言うシーンや、あきらが「店長はいつも、雨の日の私を助けてくれるんですね」と、雨がふたりの気持ちを伝える大事なモチーフして使われている。28歳差の恋物語というちょっと危ない設定ともいえるが、長く続いた雨が上がったような晴れやかな作品だ。

茶室で雨の音を聴くこと

〇「日日是好日」(2018年)

「雨の日は雨を聴く」。茶を点てながら五感で季節を味わう喜びと、ひとりの女性の24年間の心の成長を描く。

 典子(黒木華)は、真面目だけが取り柄の、自分に自信がない20歳の大学生だった。ある日、母親から「お茶を習ったら」と勧められ、従姉妹の美智子(多部未華子)と茶道教室の先生を訪ねる。その先生は大きな家にひとりで暮らし、“タダモノじゃない”とうわさの武田(樹木希林)だった。樹木が演じる先生が面白い。挨拶もそこそこに稽古を開始し、茶室に入る時は左足から、畳一帖を六歩で歩き七歩目で次の畳へと、そんな所作を戸惑う2人に淡々と教え込む。

 静謐な茶室には、小暑、白露、立冬、大寒とうつろう季節の気配が流れてくる。やがて2年が過ぎた。美智子は就職して稽古をやめてしまったが、典子はアルバイトをしながら続けていた。夏至に雨が降っている。典子は雨音を聴いて「梅雨と秋雨では音は違う」と初めて感じることができた。季節や年月とともに典子の心の変化が描かれる。世の中はどんなに変わっても、茶を点てる時に感じる自身の心は変わらない。そんな穏やかな気持ちにさせてくれる作品だ。

 この作品は樹木の亡くなった1カ月後に公開された。初共演の黒木は樹木を以前からかっこいい女優さんだと思っていたという。「きちんと年をとることをしてきた人の美しさが、自然と出ていらっしゃるのだと思います。こういう役者になりたい、そんな人間になりたい」と語っている(「キネマ旬報」2018年10月下旬号)。

雨と映画と禁断の恋

〇「ナラタージュ」(2017年)

 これほど物語と雨が結びついている作品はないだろう。雨は単なる情景描写ではなく、登場人物の感情を表し、観るものの心にも深く刻む役目を果たしている。

「雨の音や匂いで、あの頃の感覚が蘇ってくる」という泉(有村架純)のモノローグとともに、かつて思い悩んだ日々の回想(ナラタージュ)が始まる。大学2年生の時、泉は、高校時代に淡い思いを抱いていた教師・葉山(松本潤)と再会する。かつて、気持ちを伝えられないまま卒業した泉は葉山への思いが再燃する。

 高校のクラスで行き場がなく一度は死を決意し、激しい雨が降る屋上に立つ泉。そこで声をかけて救ってくれたのは葉山だった。泉が映画を観た後外に出ると雨が降っていた。そこで傘を差し出したのも葉山だった。泉の感情が揺れ動く時、いつも雨が降っている。

 雨とともに物語にアクセントを与えているのが映画作品名だ。映画館で出会った日にかかっていたのは、ビクトル・エリセ監督の「エル・スール」、泉が1人で観る映画は成瀬巳喜男監督の「浮雲」。「浮雲」のラストは激しい雨の中、劇的な幕切れを迎えるシーンが有名だ。映画は雨とともに2人の感情の媒介を果たしているのだ。

 有村は本作で好きな人の気持ちを掴めず、悩む日々を演じた。当時の舞台挨拶で「今まで正統派の役が多かったので、こういう作品の色や役柄は初めてでした。選んでくれて嬉しいです」と語っている。有村にとって、俳優人生のエポック的な作品だったのだろう。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部