抜け毛の進行が明白なのに「発毛剤一択」…発毛ばかりを急ぐ人が忘れている《医学的な王道》
AGA(男性型脱毛症)対策の代名詞として有名な「ミノキシジル外用薬」。
前編『「毎日“発毛剤”を塗り込む男性」に専門医が抱く“嫌な予感”…薄毛治療で「時間とお金をドブに捨てる人」の正体』では、ミノキシジル外用薬が体質的に効きにくい男性が約6割にのぼる事実を解説した。
ミノキシジルが発毛効果を発揮するためには、成分を活性化させる頭皮の酵素(スルホトランスフェラーゼ)が不可欠だ。この酵素が不足している場合、どれほど高価な薬を長期間塗り続けても期待する変化は訪れない。
通常、発毛効果を実感するまでには早くても3ヵ月から半年ほどの継続が必要となる。効果が出るか分からないまま、日々のケアに貴重な時間と費用を費やし続けるのは、心理的にも金銭的にも大きな負担だ。
現代の薄毛治療は、「とりあえず有名な薬を試して様子を見る」だけではなく、あらかじめ自分の体質を知ったうえで、治療の選択肢を考える段階に入りつつある。
「わずか髪10本」で発毛剤との相性がわかる
昨今、医療やヘルスケア領域では個人の遺伝子情報や体質に合わせて最適な治療を選択する「個別化医療(パーソナライズド・メディシン)」が急速に普及している。AGA治療も例外ではない。
ミノキシジルが自身の頭皮でしっかりと活性化される体質かどうかは、本格的な対策を始める前に調べる手法がすでに確立されている。
ヒロクリニックの岡博史院長は東京衛生検査所での検証データを基に、日本で唯一となるミノキシジル反応性検査「ミノスカルプチェック」を開発した。
「検査の手順は非常にシンプルで、クリニックへ足を運ぶ必要すらありません。毛根が付いた状態の髪の毛を10本ほどご自身で抜いていただき、専門機関に郵送するだけで完了します。抜いた毛の根元をルーペなどで確認し、ポコッとした丸い組織が付着していれば問題ありません。この毛根部分に、ミノキシジルを活性化させる酵素が存在するかどうかを精査します」(岡院長、以下「」も)
特筆すべきは、これが頭皮の皮脂量や血行状態といった一時的な環境を測るものではなく、生まれ持った遺伝的性質を調べる検査である点だ。
「酵素の有無は遺伝子によって決まっているため、一生に一度検査を受ければ、その結果が将来的に変わることはありません。治療を始める前に、自分がミノキシジルと相性のよい体質なのかを知っておくことは、無駄な時間や費用を減らすうえで一つの判断材料になります」
薄毛治療はまず“止める”が先
己の体質を客観的なデータで知ることは極めて重要だが、同時に薬の「正しい位置づけ」を理解しておく必要もある。
実は、日本皮膚科学会が発行する男性型脱毛症の診療ガイドラインにおいて、最高ランクの「推奨度A」を獲得している治療法は3つある。
「ミノキシジル外用」と、AGAの進行そのものを食い止める「フィナステリド内服」「デュタステリド内服」だ。これらはどれから始めてもよいファーストチョイスとして位置づけられている。
しかし、薬の役割には明確な違いがある点に留意したい。
「AGA治療において、ミノキシジルはあくまで髪を増やす『アクセル』のような役割です。対してフィナステリドなどは、抜け毛の根本原因となる悪玉男性ホルモン(DHT)の働きを抑え込む『ブレーキ』に相当します。
医学的な王道は、まずブレーキを踏んで抜け毛の進行を確実に止めること。そして必要に応じて、アクセルであるミノキシジルを併用していくのが基本戦略です」
テレビCMなどの影響で、薄毛対策の第一歩として外用薬を連想する人は非常に多い。しかし実際の医療現場では、ミノキシジルだけで考えるのではなく、抜け毛の進行を抑える薬とどう組み合わせるかが重要になるわけだ。
治療を進め、いざミノキシジルを取り入れる段階になった際、もう一つの選択を迫られる。ドラッグストアで手軽に買える「外用薬(塗り薬)」にするか、医療機関で処方される「内服薬(飲み薬)」にするかだ。
塗り薬と飲み薬、何が違うのか
外用薬は国から一般用医薬品として承認されており、副作用のリスクが少なく安全性が極めて高い。一方で「内服薬(飲み薬)」については、日本皮膚科学会のガイドラインにおいて「推奨度D(行うべきではない)」とされている事実をあらかじめ知っておく必要がある。
「内服薬がD判定となっている最大の理由は、AGA治療薬としての正式な臨床試験が行われておらず、有効性と安全性が十分に検証されていないためです。日本でもFDA(米国食品医薬品局)でも未承認であり、もともとが降圧剤であるため、全身に作用して動悸やむくみといった心血管系への副作用リスクが懸念されています。
『効かないからD』なのではなく、『強力な効果の一方で、利益と危険性が検証されていないため安易に推奨できない』というのがガイドラインの立場です」
強力な効果が期待できる反面、正しい知識を持たずに手を出すのは危険だ。ただし、実際の医療現場では異なる動きも出ているという。
「近年、低用量のミノキシジル内服(LDOM)については、有効性と安全性のエビデンスが新たに蓄積されつつあり、海外では適応外使用が広がっています。
実際のところ、適切な低用量であれば心機能への危険性は現状問題ないと考えられており、男性のAGA治療においては、症状や体質を踏まえたうえで、医師の裁量のもと適応外使用として内服薬が選択肢に入ることもあります」
そのうえで、知っておくべき具体的な注意点について岡院長はこう語る。
「やはり血圧が低い人、特に立ちくらみ(起立性低血圧)を起こしやすい人は注意が必要です。また、頭部だけでなく全身の体毛が濃くなる『多毛症』が起こるケースも少なくありません。
そして何より重要なのが、『女性への投与制限』です。ミノキシジルの内服薬はもちろん、フィナステリドやデュタステリドといった内服薬もすべて、妊娠の可能性がある女性には基本的に禁忌とされています。そのため、女性がミノキシジルを使用する場合は、安全な外用薬一択となります」
薄毛治療で損をしない人の共通点
薄毛治療は、かつてのようにクチコミや知名度だけで薬を買い、数ヵ月間試して一喜一憂する時代から変わりつつある。科学的なデータや体質に関する情報をもとに、自分に合わない可能性のある選択肢をあらかじめ見極めることも、治療を考えるうえで有効な手段になっている。
ミノキシジル製剤は、体質に合致さえすれば強力な発毛効果をもたらす治療薬であることに疑いはない。
ただし、知名度や周囲の噂にただ流されるのではなく、まずは己の体質を客観的に把握する。検査はあくまで選択肢のひとつだが、自分に合った治療を考えるうえでは、知っておいて損のない視点だ。
忙しいビジネスパーソンにとって、薄毛治療にかけられる時間もお金も無限ではない。
だからこそ「とりあえず試す」だけでなく、「自分には何が合うのか」を知ったうえで始めることが、結果的に遠回りを避ける近道になるだろう。
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