ペットは多くの飼い主にとって家族同然の存在ですが、屋外を自由に歩き回れる「放し飼い」にされているネコなどは、家庭に望ましくない病原体を持ち込むことがあります。カナダのブリティッシュコロンビア大学で非常勤教授を務める獣医師兼生態学者のエイミー・ウィルソン氏らの研究チームが、「放し飼いのネコは室内飼いのネコと比べて圧倒的に多くの病原体を保有している」との研究結果を発表しました。

Outdoor roaming of owned cats elevates risk of zoonotic pathogen exposure: A global synthesis | PLOS Pathogens

https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1014160

How you can stop your cat from bringing home unwelcome pathogens

https://theconversation.com/how-you-can-stop-your-cat-from-bringing-home-unwelcome-pathogens-281860

人獣共通感染症とは動物から人間へ、あるいは人間から動物へと感染可能な病気のことであり、人間にとっての新たな感染症の発生源として注目されています。人間との接触がまれな野生動物と比較すると、人間と日常に接しているペットや家畜は人獣共通感染症の感染経路として有力です。

そこでウィルソン氏らの研究チームは、日常的に屋外環境に触れつつ人間とも交流する「放し飼いのネコ」が人獣共通感染症を広める能力について調べました。400件以上の研究からデータを収集し、ネコの生活様式(室内飼い・放し飼い・野良ネコ)が人間に感染しうる病原体を保有する可能性に及ぼす影響を分析しました。

分析の結果、ネコから検出された病原体のうち人獣共通感染症の原因となるものは100種類近くありました。よく知られているものとしては狂犬病ウイルス・トキソプラズマ・猫回虫・サルモネラ菌などが挙げられています。

そして、屋外を自由に歩き回れる放し飼いのネコは室内飼いのネコと比較して、人獣共通感染症の病原体を保有している確率が3〜5倍も高いことがわかりました。病原体の種類は野良ネコよりも少なかったものの、「少なくとも1種類の人獣共通感染症の病原体を保有している割合」は野良ネコと変わらなかったとのことです。



放し飼いのネコは日常的に人間や野生動物、その他のペットと接触するため、人獣共通感染症の病原体を持っていることが大きなリスクとなります。合計88カ国を対象とした今回の研究では、飼い猫の約60%が人間に監視されていない状態で屋外と室内を行き来しており、地域によってはその割合が90%を超えていました。

ウィルソン氏らは、「放浪するネコは狩りをしたり、野生動物や他の家畜と交流したり、病原体や毒素で汚染された環境を移動したりします。研究によると、飼い主はネコの狩りの頻度を約80%も過小評価している可能性があり、多くの獲物の捕獲や動物との接触が見過ごされていると考えられます」と述べています。

ネコはげっ歯類や鳥類、コウモリといった人獣共通感染症の病原体を保有する可能性のある動物を狩ります。これらの動物の多くは通常、人間と接触することはほとんどありませんが、放し飼いのネコがこれらの動物から病原体に感染したり、時には病原体を保有する死体を持ち帰ったりする危険性があります。過去には狂犬病ウイルスに感染したコウモリをネコが持ち帰ってきた事例も報告されています。

危険にさらされているのは飼い主だけではなく、放し飼いのネコが庭や公園、その他の共有スペースで排せつすることにより、病原体で環境が汚染されるリスクもあります。ネコのフンには数百〜数十万個もの寄生虫の卵が含まれていることがあり、これらの卵は土壌中で数カ月〜数年にわたり生存し、接触した他の動物や人間に感染する可能性があるとのこと。

ネコと野生動物の相互作用は珍しいことではなく、北米だけでも放し飼いのネコによって年間300億匹もの野生動物が殺されているとの研究結果もあります。オーストラリアでもネコが生態系を破壊する脅威となっており、希少動物が絶滅の危機に瀕していると指摘されています。

外飼いのネコが殺している野生動物は北米だけで年間300億匹、「ネコは屋内で飼って」と専門家 - GIGAZINE



ウィルソン氏らはネコによる病原体の拡散を飼い主が防ぐ方法も解説しています。1つ目が「ネコが監視なしで屋外を歩き回るのを防ぐ」ことであり、これはネコを完全に室内飼いにするだけでなく、庭などに囲い付きの遊び場(キャティオ)を作ってそこで遊ばせたり、イヌと同じようにリードを着けて散歩させたりすることを含みます。

2つ目が「獣医療をしっかり受けさせる」ことで、既存の寄生虫感染症の治療や狂犬病などに対するワクチン接種は、たとえ室内飼いのネコであっても重要です。とはいえ、抗寄生虫薬やワクチンだけですべての人獣共通感染症の病原体をカバーできるわけではないため、全体的な感染リスクを抑えることがより包括的な予防策になるとのこと。

ウィルソン氏らは、「ネコの放し飼いに関する議論はしばしば誤った二者択一として捉えられがちです。つまり、『ネコを自由に放し飼いにするか』『ネコから自然な生活を奪うか』という構図です。しかし、この捉え方は誤解を招くものであり、他のペットの飼育方法とも矛盾しています。イヌが幸福を得るために道路や近隣の庭へのアクセス、あるいは野生動物の狩猟が必要だと考えている人はいないでしょう。室内飼いのネコや監視下で屋外に出られるネコも、健康で充実した一生を送ることができます」と主張しました。