高校野球「7イニング制」の根本的な矛盾…“猛暑対策”が理由なら“炎天下の甲子園”での開催にこだわるのはなぜか
日本高等学校野球連盟(以下、日本高野連)は、5月30日と6月6日の2回にわたり、指導者や有識者らを招いて意見交換会を開催した。日本高野連は昨年10回にわたって開催した「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」をふまえ、12月の理事会で「7イニング制の採用は、(中略)課題解決ならびに改善を目指すうえで極めて有効であると本会議では結論づけた」とし、「2028年3月の第100回記念選抜高校野球大会と同年度の各都道府県高校野球連盟の春季大会からの採用が望ましい」としている。その流れを受けて開かれたものだ。【小林信也(作家・スポーツライター)】
【議論沸騰】「炎天下の甲子園で日中開催」は変えられない前提なのか?「夏の甲子園」主催の朝日新聞社
「猛暑対策」に「7イニング」の矛盾
7イニング制移行については日本高野連もずいぶん慎重で、現場の指導者、選手の理解を得るためかなり気を使っている様子がうかがえる。それでいて、“7イニングへの移行はもはや避けられない”といった、強い決意も感じられる。この問題の矛盾や「おかしさ」を指摘したい。

5月30日の意見交換会では、今春の選抜大会で優勝した大阪桐蔭の西谷浩一監督が「断固反対です」と、出席者の中で唯一、明確に反対の意思を主張したと報道された。
スポニチはこう報じている(5月31日)。
「『大変失礼だが、(9回制を維持する方法を)脳みそがちぎれるぐらいまでは考えられていないと思います』今回の出席が決まって以降「最終報告書」を毎日2度の熟読。先日読書をする中で『オープンマインドという言葉と出合った』という。『自分の考えに固執しないようにしろと言われたと思った。だから7回制の考え方に寄り添おうと思ったけど、断固反対です』。暑さ対策など知恵を絞れば、9回制維持の方法は残されていると主張。出席者では唯一、明確な意思を示して譲らなかった」
当事者である加盟校の意向はどうなのか?
昨年、日本高野連が実施したアンケートに対して「反対」が70.1%を占めた。だからこそ日本高野連は理解を深める努力を重ねているのだろう。反対を押し切ってでも移行しようとする背景には、「猛暑による危険防止」という切実な問題がある。だが、「だから7イニングに」と主張する日本高野連の主張には根本的な矛盾がある。
不思議な本末転倒
本稿で私は、端的に2つの指摘をしたい。ひとつは、「真夏に」「甲子園で」選手権を開催し続けるために、野球の根本ルールを変えるという、不思議な本末転倒である。
「真夏に甲子園で大会を続けるためなら、野球という競技の骨組みを変えてもいい」という日本高野連の考えは、“思い上がり”と言わざるを得ない。
スポーツのルールは時代や状況と共に変更されるものだと理解している。バレーボールやバドミントンのラリーポイント制への移行は、競技の本質を変えるものだったろう。それでも改訂し、選手たちは変更されたルールでナンバーワンを競い合っている。それがスポーツだとも言える。
だが、変更の理由が、朝日新聞社主催の「夏の甲子園」をいまと同じ時期に同じ球場で開催し続けるためだとすれば、野球ファンは支持するだろうか。野球がより本来の競技性を高め、深めるためのルール変更なら愛好者も受け容れるだろう。しかし、9イニング制の妙味を間違いなく損ねる変更を「甲子園大会」のために強行する無礼と不遜をファンは許すだろうか。
もし強行すれば、「夏の甲子園」は野球ではなく似非野球であり、「大会としての価値はこれまでより下がる」と評価されるのが自然な結末で、自由な競争社会においては、「真の高校野球選手権大会を他の時期に他の場所で開催する」と企てる別組織が現れても当然だ。そういう動きは「ないに決まっている」と決めつける日本高野連と新聞社の思い上がりにも驚きを隠せない。
単純な話、9回を7回にする以前に、開催時期を「真夏から秋に」、開催場所を「甲子園だけ」から「ドームを含めた複数の球場」に変更する方がよほど現実的だ。それなら、猛暑による健康被害の危険はかなり軽減される。
メインスポンサーの意向
投手の投球過多については、球数制限など他の方法で対策を講じることができる。
もうひとつは、最終的な決断は誰がするのか? 世論の形成や報道の主な役割を夏の甲子園の主催者つまり当事者である朝日新聞が担っているという日本スポーツ界の不思議だ。
この件について、朝日新聞社はかなり身を切るような報道もしている。5月23日、朝日新聞に慶應義塾高校野球部・森林貴彦監督の提言を掲載し、話題になった。曰く、
「本当に7イニング制が必要だったら断行しなきゃいけないと思っています。ただ、順番として先かというと、賛成ではありません。そもそも私は、「夏に甲子園球場で全国大会をやる」という最終報告書の前提から議論すべきだと思っています」
「今後100年間、炎天下の甲子園で全国大会を続けることを本当にイメージできますか。どこかで変えるべきで、その時期がもう、今、来ているのではないでしょうか。熱中症警戒アラートが出て、テレビには外出を控えるようにというテロップが出ている。あまりにも矛盾が大きい。だから、夏でいいのか、甲子園という場所でいいのか。本格的な検討をしてもいいと思います」
こうした提言を朝日新聞が発信したことに一定の意義はあると感じる。だが、ならばこの先に歩を進め、7イニング制への移行より、時期と球場の変更を優先すべきではないだろうか。その意志がないのであれば、朝日新聞に載った森林監督の金言も「ガス抜き」に使われたと感じられても仕方がないだろう。
5月30日の意見交換会に出席した同志社大学政策学部教授の川井圭司教授も同様な指摘をしている(サンケイスポーツ、6月1日)。
「『高野連というのは特殊な意思決定構造があるのは皆さんもご存じの通りで、メディアが入っているところが一番特徴的。メディアとともに高校野球がここまで社会の文化としてやってきた』
指摘したのは朝日新聞社や毎日新聞社が全国大会などの主催者として高校野球文化を作り上げる役割を担ってきた事実だ。今回検討されているテーマについては(1)野球の本質にかかわるルール・制度の変更(2)野球を伝えるもの(大会・事業)の仕組みの変更、の2点が混同しており『誰が7回制移行に向けた判断を下すのかがちょっと不透明なところがある』」
サンスポは次のように続けている。
「川井教授はまた、『現場で7割の方が反対されているにもかかわらず、これが進んでいることに対して単純に関心がある。なぜこういう意思決定が可能なのか。かつ、こういう意思決定が適切なのかというところも含めて』と引き続き経過に注目していく考えを示した」
高校野球の根幹に関わる決定を、夏の大会の事業主体である民間企業が担っている。日本高野連もメインスポンサーである新聞社の意向に影響され、高校野球の総本山としての矜持を強く示さず大会運営にあたっている。
今後もそれでいいのか、7イニングへの移行は、実はその根本が問われている。
スポーツライター・小林信也
デイリー新潮編集部
