「えもいわれぬ色気」を持つ脚本との出会い 柄本佑×坂西未郁監督、映画『メモリィズ』を語る
ランチのパスタ、窓の外に見えた夕焼け、道端で思いがけず出会った猫……。思わずスマホで撮影したひとこまを、誰かに送って「ねえ見て」と言う。相手は届いた写真を見てふっと微笑む。映画『メモリィズ』は、私たちがふだん当たり前のように行なっている「撮影」という行為に光を当てた作品だ。映画ライターの月永理絵氏が、主演の柄本佑氏と坂西未郁監督に話を聞いた。
「歩いているばっかり」の映画が、なぜ美しいのか
物語は何気ない日常の風景で構成される。妻と娘が待つ東京を離れ、九州の田舎町へとやってきた雄太(柄本佑)。彼の目的は、足を怪我した妻の父親・誠(イッセー尾形)が営む写真館を手伝うことである。慣れない土地での日々を、雄太はスマートフォンで撮影し、東京の家族と映像を送り合う。

主演の柄本佑氏は、脚本を初めて読んだときこう思ったという。「まあ歩いているばっかりの映画だなあ、と」。でも彼はそこに、「えもいわれぬ色気」を感じ取ったという。
毎朝同じ時間に犬と散歩し、義父と夕飯を食べ、他愛もない話をする。写真館で、誰かの「特別な瞬間」を写真に収める。その積み重ねを見ているうちに、観客はいつしか、「記録」から生まれる「記憶」の意味について考えはじめる――。
監督の坂西未郁は本作が初の長編映画となる新鋭だ。「映像という媒体ほど、細かくて小さな物語や日常でのちょっとした時間を見せることに向いているものはない」と坂西監督は語る。
イッセー尾形のアドリブが生んだ味わい
寡黙な写真館の主人・誠を演じるのは、ベテラン俳優のイッセー尾形氏。そのイッセー尾形氏がたびたび加えるアドリブも、今作の魅力に繋がっている。
作中では、スナックにいる誠(イッセー尾形)を雄太(柄本佑)が迎えにいく場面がある。このシーンの脚本には「雄太が迎えに来る」としか書かれていないそうだが、ここで誠がおもむろに雄太にマイクを手渡す演技が加わった。戸惑いながらも歌い出す雄太――。この印象的な場面も、イッセー尾形氏のアドリブによって生まれた場面だ。
雄太が淹れたコーヒーをひとくち飲んだ誠が「これうまいなあ」とぽつりと呟いたことに対し、「インスタントコーヒーですけどね」「あ、これインスタントコーヒーか」という何気ないやり取りがあるが、実はこのシーンもアドリブ。
柄本氏はこう分析する。
「イッセーさんがアドリブをするとき、彼自身が持っているちょっとシャイな部分やチャーミングさが出てくるんです。それがそのまま、雄太と誠の関係そのものだった」。
坂西監督もその構図を現場で感じていたからこそ、撮影を止めることはほぼなかったという。役者の即興と脚本の余白が出会う、その幸せな化学反応が『メモリィズ』には何度も起きている。
フィルムで撮影することの意味
本作のもうひとつの特徴が、16ミリフィルムによる撮影だ。劇中には、雄太のスマートフォン映像、写真館で撮影された写真、古い中判フィルムの映像など、さまざまな時代・形式の「記録」が登場する。そのすべてを包み込む映画本体を、坂西監督は迷わずフィルムで撮ることを選んだ。
スチール担当の江森康之氏が語った「フィルムとデジタルで同じ風景を撮ったとき、どっちを長く見ていられるかといえば、絶対にフィルムの方だと思う」という言葉も、坂西監督の背中を押したそうだ。
フィルムで撮影することは、俳優にとっても特別な体験だ。テイクを重ねるほどコストがかかるフィルム撮影では、一回一回に否応なしに緊張感が生まれる。柄本氏は「そのぶん一回一回の撮影に気合いが入る感覚がありました」と振り返る。
「記録」は、やがて「記憶」になる
写真館という場所は、人生の節目を写真に留める場所だ。成人式、卒業式、家族の記念日。誠はこれまで何千もの「特別な日」をフィルムに焼き付けてきた。
そして雄太は、何でもない日々をスマートフォンで撮りつづける。
「記録」から生まれる「記憶」の意味について、映画は答えを押しつけず、ただ静かに問いかける。
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【『メモリィズ』脚本から「柄本佑」の脳裏によみがえった若松孝二との邂逅】と【柄本佑が語る映画の記憶――心が震える、落涙する、新しい体験を求めて】の記事では、『メモリィズ』の脚本を読んだ柄本氏が回想する、17歳の頃の父・柄本明氏との印象深いやり取りについて、そして大の映画好きとして知られる柄本氏が語る、「何度も同じ映画を見にいく理由」や「映画を見るほどしんどくなる意味」など、映画の本質に迫るテーマについて取り上げています。
月永理絵(つきなが・りえ)
映画ライター、編集者。『朝日新聞』『週刊文春』『CREA.web』『新潮QUE』などで映画評やコラムを連載中。ほか映画関連のインタビューや書籍・パンフレット編集など多数。著書に『酔わせる映画 ヴァカンスの朝はシードルで始まる』(春陽堂書店)。
デイリー新潮編集部
