優秀なエンジニアを次々引き抜いてノウハウを盗む…「中国VS.日韓」知られざる先端技術の攻防戦
戦争は銃だけで行われるわけではない。中国の「本当の狙い」に気づいた日韓が取った策とは? 経済安保の裏側を描く短期集中連載スタート。
中国が展開する「レアアースの武器化」
レアアースや半導体の材料などの「経済産品」が、国家の武器となる時代になった。覇権国家と化した中国は、希少資源の輸出を意図的に止めて、相手国のサプライチェーンを揺さぶる。レアアースなどの供給を絞れば、電機や自動車、化学産業はたちまち立ち行かなくなる。いわば、現代版の「兵糧攻め」である。
だが、中国の狙いは資源を握ることだけではない。もう一つの標的は、日本や韓国がなお優位を保つ先端部品・素材の技術である。希少資源を武器にしながら、同時に外国の最新技術を取り込み、先端産業を自国内で完結させようと目論む。
これに対し、日本と韓国は水面下で共同歩調を取る「密約」を結んだ。中国に流出させてはならない技術として浮上したのが、積層セラミックコンデンサー(MLCC)と、有機ELディスプレイの発光材料だった―。
中国の得意技
中国は'23年、ガリウムやゲルマニウム、グラファイト(黒鉛)という希少資源を「輸出管理品目」に指定し、輸出量をコントロールすると布告した。それより前、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が体当たりした'10年にも、中国は意図的にレアアースの対日輸出を止め、日本の産業界を揺さぶっている。以来、経済産品の武器化によって他国を威圧する兵糧攻めは中国の得意技となっていた。
ガリウムはLEDや次世代の窒化ガリウム半導体に使われ、グラファイトはEV(電気自動車)に搭載するリチウムイオン電池に使われる。いずれも製造業のサプライチェーンを滞らせ得る重要物資だ。
狙われた村田製作所の「独自技術」
中国は、家電品や自動車の加工組み立てはできるようになったが、その中に組み込まれる電子デバイスや素材の自国生産はままならず、日本や韓国に頼っていた。そうした基幹部品の自前化を目論み始めたのは、習近平政権が確立した後である。
中国政府は、外国企業に投資を促したい分野を「外商投資奨励産業目録」として公表している。表向きは外資誘致のためのリストだが、裏を返せば、中国が国内でまだ十分に持っていない技術を示すリストでもある。その中に、日本が優位を持つMLCCが入っている。
さらに、中国の「科技日報」は、'18年に「中国が早急に獲得すべき35のチョークポイント技術」を公表した。チョークポイント技術とは、そこを他国に握られると産業全体の首根っこを押さえられてしまう基幹技術のことである。そのリストにも、MLCCが含まれていた。
MLCCとは、スマートフォンや自動車など、あらゆる電子機器に組み込まれている小さな電子部品。電気を一時的に蓄えたり、電圧を安定させたりする役割を担う。
この分野では、世界シェアの40%を握る村田製作所をはじめ、TDK、京セラ、太陽誘電の国内4社が強い。なかでも村田製作所は盛んに中国から技術移転するようアプローチを受けてきたが断り、各社とも中国に技術流出しないよう神経をとがらせてきた。
そんな業界にとって不安材料なのが、後発の韓国サムスングループから中国への技術流出だった。日本勢にラブコールを送っても成果を得られない中国は、ターゲットをサムスンに絞っていた。関係者によれば、中国は同社の技術者を高給で引き抜いてMLCCの製造ノウハウを取り込もうとしていたという。それに危機感を抱いた業界トップの村田製作所が「このままでは危ない」と経産省に泣きついた。
もともとサムスンは'90年代、横浜市に「研究所」という名称の人材スカウト機関を設け、日本メーカーの技術者を続々招聘してきた。半導体から液晶、電池、有機ELまで韓国が短期間で日本の技術にキャッチアップできたのは、こうした日本人エンジニアの頭脳流出に一因がある。MLCCも同じように日本からの流出技術によって我が物にしてきた。
ところが、日本を追う側にいた韓国が、逆に中国への技術流出に手を焼くようになった。技術管理に詳しい日本政府担当官はこう打ち明ける。
「自分たちが日本に対してやってきたことが、そのまま中国に伝わり、同じことをやられるようになったのです」
実際、韓国警察庁国家捜査本部が'24年1月〜10月に摘発した先端技術流出事件25件のうち、72%が中国への流出だった。その中には、半導体や有機ELなど韓国が産業技術保護法で定めた「国家核心技術」が含まれている。
【後編を読む】中国への先端技術流出を国家で阻止せよ!サプライチェーン強靭化のために日韓が合意した「対中極秘会談」の中身
「週刊現代」2026年6月8日号より
【つづきを読む】中国への先端技術流出を国家で阻止せよ!サプライチェーン強靭化のために日韓が合意した「対中極秘会談」の中身
