「橋本病」を発症するとどんな「治療法」を行う?治療中の注意点も解説!【医師監修】

橋本病(慢性甲状腺炎)は、自分の免疫のはたらきによって甲状腺に慢性的な炎症が起こる自己免疫疾患の一つです。炎症によって甲状腺が腫れたり、組織の破壊が進んだりすると、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症を起こすことがあります。ただし、橋本病と診断された方の多くは甲状腺機能が保たれており、診断後すぐに治療が必要になるとは限りません。治療が必要な場合も、不足したホルモンを薬で補うことで、健康な方とほぼ変わらない生活を送ることができます。
この記事では、橋本病の治療における基本的な考え方から、具体的な薬物療法、症状が改善するまでの流れ、ヨウ素摂取を含む日常生活で意識したい点までを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)

【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター

橋本病の治療における基本的な考え方

橋本病は治療により完治する病気ですか?

橋本病は、治療で完治する病気ではありません。甲状腺機能低下症になると、甲状腺ホルモンの補充を長く続けることが一般的です。そのため、橋本病の治療は病気そのものを治しきるというより、不足したホルモンを補いながら状態を安定して保つことが中心です。

橋本病と診断されたら全員が治療を受ける必要がありますか?

橋本病と診断されても、全員に治療が必要なわけではありません。橋本病の方の多くは甲状腺機能が保たれており、甲状腺機能低下症となるのは約1割です。そのため、機能が保たれている場合は、特別な治療を行わず、経過観察のみとなることが一般的です。
実際に治療の対象になるのは、血液検査で甲状腺ホルモンの不足が確認された場合や、甲状腺腫が大きく圧迫症状がみられる場合などです。ただし、今は機能が正常でも、加齢や体調の変化に伴って将来甲状腺機能低下症へ進むことがあります。そのため、少なくとも年1回ほどは血液検査を受け、ホルモンの状態を確認し続けることがすすめられます。
参照:『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』(日本甲状腺学会)

橋本病の治療の目的を教えてください

橋本病の治療の主な目的は、不足している甲状腺ホルモンを補うことで、全身の代謝の状態を整えることです。これにより、無気力や疲れやすさ、むくみ、寒がりといった甲状腺機能低下症による症状の改善が期待できます。また、TSH値を適切な範囲に保つことは、甲状腺への過剰な刺激を抑えることにもつながります。妊娠を希望する女性の場合は、流産のリスクを下げ、胎児の発育を支えるために、より丁寧なホルモン管理が重要です。

橋本病の主な治療法

橋本病の主な治療法を教えてください

橋本病の治療の基本は、甲状腺ホルモン補充療法です。橋本病そのものをなくす治療ではなく、甲状腺機能低下症がある場合に、不足した甲状腺ホルモンを薬で補い、身体の状態を整えます。一方で、甲状腺腫が大きく、気管を圧迫して呼吸が苦しい場合や悪性腫瘍の合併が疑われる場合には、手術が検討されることがありますが、このようなケースはまれです。

橋本病の甲状腺ホルモン補充療法とはどのような治療ですか?

甲状腺ホルモン補充療法は、不足しているホルモンを飲み薬で補う治療です。主に使われるレボチロキシンは、体内でつくられるホルモンと同じ構造をもつ合成T4製剤で、血中濃度が安定しやすいという特徴があります。この薬は小腸で吸収された後、体内で活性型のT3に変換されて作用します。必要な量は年齢や合併症の有無でも変わるため、自己判断で増減せず、血液検査の結果をみながら調整していくことが大切です。

甲状腺ホルモン補充療法を開始するとどの程度で症状が改善しますか?

甲状腺ホルモン剤を飲み始めてから、甲状腺機能が安定し、血液検査の値に反映されるまでには、通常6週間ほどかかります。そのため、薬の量を変更した場合も、すぐに効果を判断せず、一定期間をおいてから再評価することが基本です。
むくみや疲れやすさなどの自覚症状は、ホルモンバランスが整うにつれて徐々に改善しますが、変化の出方には個人差があります。一般的には、数週間から数ヶ月かけて維持量を決めていき、適切な濃度が保たれるようになると、健康なときに近い活力を取り戻せるようになります。

橋本病の治療中に気を付けたい日常生活のポイント

橋本病の治療中に食事で気を付けることはありますか?

橋本病の方は、ヨウ素のとり過ぎに気を付ける必要があります。ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料ですが、橋本病の方が過剰に摂取すると、かえって甲状腺機能が低下しやすくなることがあります。
具体的には、昆布などの海藻類を極端にたくさん食べることや、ヨウ素を含むうがい薬を繰り返し使うことは控えたほうがよい場合があります。実際に、はっきりした甲状腺機能低下があっても、ヨウ素摂取を見直すだけで改善することがあります。ただし、極端な制限が必要というわけではなく、日本人の一般的な食生活の範囲なら問題にならないことも少なくありません。昆布だしの常用やサプリメントの使用がある場合は、主治医に相談すると安心です。

橋本病の治療は妊娠や出産に影響はありますか?

橋本病があっても、甲状腺ホルモンが適切に管理されていれば、妊娠や出産は十分可能です。一方で、妊娠中の甲状腺機能の管理は、母体と胎児の健康を守るうえで重要です。甲状腺ホルモンは胎児の成長と発達に欠かせず、特に妊娠初期は母体のホルモンの影響を強く受けます。
そのため、甲状腺ホルモンが不足しないよう、妊娠を希望する段階からTSH値を低めに保つよう調整することがあります。また、出産後は甲状腺機能が変動しやすく、出産後甲状腺炎を起こすこともあるため、妊娠中だけでなく産後も継続して確認を受けることが大切です。
参照:『潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)』(日本甲状腺学会)

橋本病を悪化させないために日常生活で意識すべきことを教えてください

橋本病を悪化させないためにまず大事なことは、自己判断で薬をやめないこと、そして通院を中断しないことです。橋本病は自覚症状がはっきりしないこともありますが、薬を中止すると、気付かないうちに甲状腺機能低下が進むおそれがあります。
また、ほかの薬との飲み合わせにも気を付ける必要があります。鉄剤やカルシウム製剤、一部の胃薬は、甲状腺ホルモン剤の吸収を妨げることがあるため、服用時間をずらす工夫が必要です。
さらに、強い倦怠感や低ナトリウム血症を伴う場合には、まれに副腎機能低下症など別の自己免疫疾患を合併している可能性もあります。体調に大きな変化があるときは、早めに主治医へ伝えて必要な検査を受けることが重要です。

編集部まとめ

橋本病(慢性甲状腺炎)は、甲状腺機能が保たれている間は治療を行わず経過をみることが少なくありません。一方で、甲状腺機能低下症が進んだ場合には、レボチロキシンによる補充療法が標準的な治療となり、適切に続ければ日常生活を保ちやすくなります。治療の中心は、過不足のないホルモン環境を維持することと、状態の変化を定期的に確認することです。
また、ヨウ素の過剰摂取や、薬の吸収に影響するほかの薬剤との飲み合わせなど、日常生活で意識したい点もあります。妊娠を希望する場合や、強い倦怠感など普段と違う変化がある場合は、早めに主治医へ相談することが大切です。橋本病は長く付き合うことのある病気ですが、定期的な検査と適切な管理を続けることで、安定した毎日を保ちやすくなります。

参考文献

『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』(日本甲状腺学会)

『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)

『潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)』(日本甲状腺学会)