厚生労働省、環境省

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[障害者雇用 理念はどこへ]<中>

 2024年8月。

 大手旅行会社「日本旅行」(東京)の担当者は、本社を訪れた障害者雇用ビジネス業者「サンクスラボ」(那覇市)の社員と向き合っていた。

 社員からは、障害者に適した業務の抽出が「難しい企業向け」として、1年半を研修期間とするプランを提案された。営業資料には<障害者法定雇用の課題をすべて解決できる>とあった。後日届いたメールには、障害者を「雇用主様に代わって育成、研修していく」と記されていた。

 日本旅行は当時、グループ会社の合併などで、社員数を大幅に増やしていた。全従業員に対する障害者の割合は同年6月時点で1・93%。国が定める法定雇用率は同年4月に2・3%から2・5%に引き上げられ、障害者雇用の拡大が喫緊の課題だった。

 同年10月以降、サンクスラボの仲介で障害者18人を採用した。雇用率は翌年6月時点で2・36%に上昇した。

 サンクスラボからは毎月、障害者一人ひとりの業務内容や目標、成果などが報告され、日本旅行は「きちんと仕事をしていると受け止めていた」という。実際には、18人のうち在宅就労の14人は「自己学習」を繰り返し、「放置されている」と感じる人もいた。

 「就労した方をがっかりさせてしまったのであれば申し訳ない」。日本旅行の広報担当者はそう話した。

2018年以降、雇用率の引き上げ加速

 雇用ビジネス業者のサービスが利用される背景には、障害者の法定雇用率の引き上げに企業の対応が追いついていない実情がある。

 厚生労働省によると、障害者手帳を持つ人は、子どもや高齢者も含め、22年時点で推計610万人(人口の5%程度)。16年時点と比べて身体障害者は減る一方、精神障害者が増え、全体で9%増だった。

 一定規模の企業に義務づけられる法定雇用率は、全国の障害者の雇用数や失業者数などを法定の計算式にあてはめて算出される数値をもとに、国が決定する。5年に1度をめどに見直され、達成できなかった企業は不足人数分の納付金(1人あたり月5万円)を課される。

 導入された1976年は1・5%で、2000年代までは緩やかに引き上げが進んだ。その後、18年に精神障害者の雇用が義務化されたこともあり、引き上げが加速。今年7月には2・5%から2・7%になる。

 達成は容易ではない。障害者に合った業務を抽出するのが難しかったり、社内に障害者の就労を管理するノウハウが不足していたりするからだ。

 東京都内のIT関連会社は従業員600人超で、法定雇用率を満たすには15人超を雇う必要がある。雇用を急ぐ中、受け入れ態勢が整わず、昨年まで約4年間、「雇用率を満たすために業者の力を借りた」。一時は最大10人の仲介を受け、現在は業者の利用をやめているという。

 別の会社は、公共工事の入札で有利に立つため業者を利用したとする。一部の総合評価方式の入札では、加点項目に法定雇用率の達成が含まれる。人事担当者は「落札の成否を左右しかねず、雇用率のためならお金はいくらでも払うという企業もある」と明かす。

「雇用率固定も検討を」

 「非常に衝撃を持って受け止めている。受け入れられない」「単に数を増やすだけでなく、障害者が戦力として活躍できる環境を整える必要がある」

 23年1月、厚労相の諮問機関・労働政策審議会の分科会。厚労省の担当者が法定雇用率を当時の2・3%から2段階に分けて2・7%まで引き上げる案を示すと、企業側の委員から反発が相次いだ。

 経団連の委員は雇用ビジネスに触れ、「雇用の質ではなく数が優先されると、ビジネスを助長し、我々が目指す方向性と逆行する」と主張した。学識者の委員は「義務を負っている使用者(企業)が一番大変な思いをしている」と理解を示し、「雇用人数をほぼ唯一の基準とする制度の根本的な見直しが必要な時期に来ている」と述べた。

 結局、厚労省が2・7%への引き上げ時期を当初案から事実上1年遅らせる修正案を出し、「誠に苦渋の選択だが、やむなし」(経団連委員)と了承された経緯がある。

 障害者雇用に詳しい岡山大の長谷川珠子教授(労働法)は「法定雇用率は必要だとしても、このまま引き上げが続くと企業が耐えきれず、雇用ビジネスの拡大につながる。雇用率を当面固定することなどを検討してもよいのではないか」と話している。