「管理職の罰ゲーム化」で企業が弱体化 出世を捨てた先に待つ“新格差社会”とは
会社で「出世したくない」人が増えている。
第一生命経済研究所の調査では一般社員の48%、カオナビHRテクノロジー総研では81.9%が昇進を希望せず、損保ジャパンのデータでも女性リーダー候補の65%が管理職をためらっているという。
かつてサラリーマンの目標だった出世だが、今は敬遠される対象に変わりつつあるようだ。
管理職と平社員の給料の差がほぼない
ネットでは「管理職の罰ゲーム化」「管理職イヤイヤ病」というワードも聞かれるが、その理由は「給料が見合わないから」。厚生労働省の賃金構造調査によると、1992年に一般社員の約3倍だった部長の給料は、今や2倍未満に縮小。
係長と一般社員の差も1.2倍程度に過ぎない。若手の初任給が政策的に押し上げられる一方で、管理職の報酬が長年据え置かれてきた構造的なゆがみが、この数字に如実な形で表れている。
さらに今の管理職は部下の面倒を見るプレーイングマネジャーが当たり前。昇進した途端に、毎日の会議やトラブル対応、ハラスメント対策といった重い業務がのしかかる。
特にコンプライアンス順守が厳格化する中で、部下のメンタルケアや繊細なコミュニケーション調整に割かれるエネルギーは膨大だ。孤独な立場でありながら、現場と経営層の板挟みとなり、評価されにくい「見えない貢献」ばかりが増大しているのが現実である。
管理職を拒めばいいというわけでも…
また、働き方改革で減らされた一般社員の残業分を管理職が陰で引き受ける「おかしな構造」も定着した。有給が取りやすい一般社員に対し、管理職は表に出ない労働時間が増え、責任と時間の両面で逆転現象が起きている。日々働く上司の姿を見る若い世代が出世を避けるのは自然な流れだろう。
パーソル総合研究所の調査では「管理職になりたい」人はわずか16.7%。アジア太平洋地域で最も低い水準を記録。「責任だけ増えて手取りが変わらないなら平社員でいい」「副業に時間を使いたい」という若手の声は多い。
しかし、出世を拒めば楽になれるわけではない。今後は能力やスキルの差で、労働条件が明確に二極化していく。重要なのは「どこまで通用するスキルがあるか」。現場で専門性を磨けば転職や副業で評価されるが、社内調整に時間を奪われた管理職は、組織の外では強みを示しにくい。
年功序列の崩壊で会社の競争力低下
さらに、年功序列の崩壊も拍車をかける。管理職を敬遠する社員が増え、企業は一律の出世パスを維持できない。20代で数%の幹部候補を選抜し、残りの9割は給料が上がらない現場職に固定する制度も増えている。一度枠から外れると一生平社員のままという層も…。
こうした職場の変化は、会社全体の競争力低下にもつながっている。誰も責任を取りたがらない指示待ち職場が増え、管理職が疲弊し、優秀な若手は実力主義の外資系やベンチャーへ転職してしまう。組織の維持コストを極限まで削った弊害が、将来のリーダー育成を阻害するという悪循環に陥っているのだ。
従業員が出世を拒み、企業が年功序列を諦めたその先に、新たな格差社会が待ち受けている。
