分譲マンション「修繕積立金」10年間で平均5割“負担増” それでも費用が足りず高額な一時金請求も…住民は受け入れるしかないのか?
資材の高騰が、人々の住宅費用を直撃している。新規購入者だけでなく、すでに“持ち家”のある人も例外ではない。住宅修繕費用が上がっているのだ。特に分譲マンションの場合、これから懸念されるのは修繕積立金の大幅値上げだ。
国土交通省のデータによれば、分譲住宅で必要とされる修繕積立金の平均は、2011年度の一戸当たり月額1万4210円から2021年度には月額2万1420円へと、10年で約5割も上昇している。
近年も建設資材価格は高止まりしており、この上昇率が続けば現在月2万円の修繕積立金が、今後は2万5000円、3万円と膨らんでいくことは充分あり得る。
しかも現在の積立額が将来の修繕計画に対して不足しているマンションは、全体の4割近く(36.6%)にのぼるという。
修繕費が不足していれば、いざ大規模修繕が始まるときに積立金だけでは足りず、数十万~百万円ほどの高額な一時金が請求されることもある。
物価高が続き、住宅ローン金利の先行きにも不透明感があるなかで、月々の修繕積立金の値上げも、一時金の徴収も、住民にとって重い負担であることに変わりはない。それがどんなに高額であっても、住民は受け入れるしかないのだろうか?(ライター・蜂谷智子/Asuamu)
新築マンションの99%採用--段階増額積立方式の現実実は多くのマンションで修繕積立金の値上げは、当初から織り込み済みだ。これは、新築マンションの長期修繕計画の約99%が「段階増額積立方式」を採用しているためだ。
「段階増額積立方式」とは、販売時は修繕積立金を低めに設定し、段階的に引き上げていく仕組みである。
この方式は将来の修繕費を建物の劣化度合いや、住民の負担能力を踏まえながら積み立てるという発想で、理屈は通っている。しかしマンション購入時に10年で5割増というような、急激な修繕積立金の値上げを想定している人は多くないのではないだろうか。
デベロッパーの初期設定額が長期修繕計画に照らして明らかに不足していた可能性はないのか? 修繕費用の上昇をデベロッパーが「読めていなかった」のだとすれば、デベロッパーがその費用を負担するべきではないか。そう憤る人もいるだろう。
デベロッパーに「修繕積立金の値上げ」について法的責任を問う余地はあるのか。宅地建物取引士と管理業務主任者の資格を持つ貝吹仁哉弁護士に聞いた。
現実的にはデベロッパーの責任を問うことは難しい――弁護士の見解「値上げの責任をデベロッパーに問うのは、現実的ではないと思います。デベロッパーが故意に修繕積立金を低く設定したことを立証することは現実的には難しいでしょう」(貝吹弁護士、以下同)
住民がデベロッパーの不法行為責任を追及するには、デベロッパーが「意図的に修繕積立金を低く設定した」(故意)か、「きちんと考えずに設定した」(過失)かのいずれかを証明する必要がある。
「修繕積立金の設定は、長期的な収支見通しのもとで計画的に行われるべきものです。これを売買時点での見通しに基づいて設定したことが過失といえるのは、あり得ないほど低い金額で設定した場合に限られるでしょうが、そのようなことは通常起こり得ません」
しかし購入後の資材価格や人件費の高騰の可能性を踏まえて修繕積立金を設定すべきではなかったか? 貝吹弁護士はこの主張も否定した。
「東日本大震災後の建設関係のコスト増、世界的な物価高騰を具体的に予測することは困難だったといえますから、これをもってデベロッパー側に過失があったと主張することはかなり苦しいと言わざるを得ません」
法的責任を問うのは困難。では、住民にできることは?デベロッパーに法的責任を問うことは難しい。だからこそ修繕積立金の急激な値上げや高額な一時金の負担を防ぐには、住民側の主体的な行動が重要であると貝吹弁護士は話す。
住民・管理組合が取り得るアクションについて、貝吹弁護士の見解を基に「購入時」「購入後」に分けてポイントを整理した。
1. 購入時の確認
「自分が購入を予定しているマンションの長期修繕計画の内容について、国交省のガイドラインに沿っているかどうかを売主側に確認することを求めるべきといえます。
建築からそれなりに時間が経っている中古マンションの購入であれば、修繕積立金の積み立て状況についても回答してもらい、当初計画での目標が未達である場合、一時金徴収の予定についても確認すべきでしょう」
(参考)
国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(平成20年6月 令和6年6月改定)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747006.pdf
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(平成23年4月 令和6年6月改定)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747009.pdf
2. 購入後の確認
「マンション管理は多くの場合、管理組合が管理会社に一部あるいはすべて委託することになりますが、どこの管理会社に委託するのか、すでに委託している場合には委託契約をそのまま継続するのかどうかなど、主体性をもって検討し、住民として意見を述べていくことが重要だといえます。
なぜなら、建物の各部分の劣化の速さや程度の予想、各種工事にかかる人的資源・物的資源のためのコスト想定が必須となる長期修繕計画は、継続的な見直し・点検をすることが必要不可欠だからです。管理組合が十分な機能を発揮できないと、マンションの資産価値は目減りし、修繕計画を実施することもままなりません。
事後的に長期修繕計画の適否を設計コンサルタント等の専門家にチェックしてもらう方法がないわけではありませんが、現実的にはきわめて困難です。だからこそ、最初の段階で、信頼できる管理会社を主体的に選ぶことが重要なのです」
突然の値上げ、トラブルを避けるためには?物価高のなかで、月々の積立金の大幅な負担増や高額な一時金は、多くの家庭にとって重いものだ。
もしも修繕計画の中身や積立状況を知らされないまま、突然「足りないので払ってください」と迫られるなら、住民の理解は得られないだろう。
必要なのは、「値上げは仕方ない」と住民に受け入れを求めることだけではなく、修繕費がどのような前提で算出され、なぜ不足したのかを、管理組合や管理会社、デベロッパー側が透明化していくことなのかもしれない。
■Asuamu(アスアム)
ライター・編集者の蜂谷智子が主宰する編集プロダクション。「明日を、編む」をミッションに掲げ、消費される言葉ではなく人の温もりを宿す言葉を大切にしながら、取材・執筆・編集・撮影ディレクションまで一貫して手がけます。
