今ではスマホやタブレットで手軽に読める電子書籍ですが、かつてこれらのデバイスが存在しなかった頃は、専用の電子ブック端末を用いて読むのが当たり前でした。当時はインターネットを通じてコンテンツをダウンロードできなかったため、どのようにコンテンツを転送するかが大きなポイントでしたし、バッテリーや電池など、駆動方法も大きな課題となっていました。

【懐かしい!!】ソニーにNEC、松下…国内メーカーが開発→撤退していった「電子書籍用端末」をじっくり見る。もしかしたら「Kindle」のようになれていたかも…?

 今回はそうした中から、1990年代〜2000年代にかけて発売され、そして消えていった国産の電子書籍専用端末3製品を筆者私物の中から引っ張り出し、現行のスマホと比較しつつ、これまでの試行錯誤ぶりを見ていきます。


今回は1990年代〜00年代にかけて発売された、電子書籍端末の先駆けとなった3つの製品を紹介します。果たしてご存知のモデルはあるでしょうか?

「世界初」の電子書籍端末はソニー製

 最初に紹介するのは、ソニーが販売していた「データディスクマン(DATA Discman)」です。今回紹介する中ではもっとも古く、第1号機である「DD-1」の発売は平成初期、1990年までさかのぼります。

 ウォークマンによって音楽を携帯し外出先で楽しむというスタイルを定着させたソニーは、その後ポータブルタイプのCDプレイヤー「CDウォークマン(当初は「ディスクマン」)」や「ビデオウォークマン」などの派生モデルを続々と発表。

 その1つがこのデータディスクマンで、8センチCD-ROMで提供される電子ブックで本を読み込んで表示する仕組みを採用。第1号機の「DD-1」は世界初の電子書籍端末と称される製品です。

実際は「電子書籍リーダー」としてほとんど使われず……

 もっとも実際には読書用途よりも、ランダムアクセスが可能なCD-ROMの長所を生かした電子辞書としての用途が主でした。初代に当たる本製品は「現代国語辞典」「ニューセンチュリー英和辞典」「新クラウン和英辞典」「コンサイス外来語辞典」「ワープロ漢字辞典」と計5つの辞書を収録した電子ブックが添付されており、また2000年に発売されたシリーズ最後のモデル「DD-S35」では、電子辞書としての訴求がほぼすべてとなっていました。

 本製品はその後、交換可能な8センチCD-ROMを廃止し、コンパクトな電子辞書の専用機へと移行していきますが、それも数年後には他社との競争に敗れて販売を終了し、姿を消しています。電子辞書という新しい市場を生み出すきっかけとなった製品ですが、実売価格は初代の「DD-1」が5万8000円、最後の「DD-S35」も4万3800円とかなり高価で、実にチャレンジングな製品だったといえます。

保存できる冊数は「わずか1冊」 それでもNECの端末は、意外と現代的?

 続いて紹介するのはNECが販売していた「DB-P1」。

 本製品が発売された1993年当時は、NECのパソコン「PC-98」シリーズが高いシェアを占めていました。そのNECが手掛けた本製品は、PC-98と互換性のあるフロッピーディスクドライブを用い、フロッピー形式で販売されているデジタルブックを読み込んで表示する仕組みを採用していました。

 このデジタルブックは辞書ではなく文芸書も数多く発売されていたほか、端末自体も前述のデータディスクマンのようなクラムシェル型ではなく現行のスマホやタブレットと同じストレート型で、タッチではなくボタン操作でページをめくる点を除けば、現行の電子書籍端末にかなり近いスタイルだったと言えます。

 とはいえ単3電池×4本でわずか4時間しか使えないなど駆動時間に問題があったほか、現行のスマホを下回る5.6型という画面サイズながらボディは400グラムオーバーでずっしりと重く、ボディの厚みもスマホ数台分とあって、データディスクマンとはまた違った意味で電子書籍を楽しむにはやや無理がありました。

 数年後には後継モデル「DB-P2」が発売されたものの、その頃には母艦に当たるNECのPC-98シリーズもWindows 95の登場などがあって下火になっており、デジタルブックのコンテンツともども、1990年代後半には姿を消すことになりました。2万9800円という実売価格はデータディスクマンよりも安く見どころはあっただけに、いろいろな意味で惜しかった製品と言えます。

「折りたたみ端末」の元祖かも? 旧松下電器の「ΣBook(シグマブック)」も浸透せず

 前述の2つの端末が姿を消してから数年後、松下電器産業(現パナソニック)が発売したのが、左右に連結された2つの画面で読書を楽しめる「ΣBook(シグマブック)」です。タッチ操作にこそ対応しないものの、2つ折りにしたボディを本のように広げて、下部のボタンでページをめくれるという、紙の本を模したデザインおよび操作性が特徴です。

 画面サイズは7.2型×2で、画面の広さは現行のiPad miniなどの小型タブレット並みのサイズを誇ります。また電源をオフにしても表示を継続できる記憶型液晶を採用することで、単3電池×2本で約3カ月以上もの長時間駆動を可能にするなど、前述の2つの端末とは桁違いのバッテリーの持ちのよさが特徴です。

 コンテンツは専用サイトで購入するという、現行の電子書籍にかなり近い仕組みですが、直接ダウンロードではなくSDカード経由で読み込む仕組みで、それも書店に設置された専用ダウンロード端末のところまで足を運ばなくてはならない面倒な仕組みでした。

 東芝からOEMモデルが発売されるなどメーカーを超えた取り組みもみられましたが、同時期に発売されたソニーの「LIBRIe(リブリエ)」ともども、コンテンツの取り込み方法については課題があったと言わざるを得ず、結果的にこちらも数年も持たずに姿を消しました。ちなみにシグマブックの実売価格は3万7900円と、やはりかなりのお値段でした。

スマホ・タブレットに押され……電子書籍リーダーは、生き残れるのか

 以上のように、約20年にわたって死屍累々だった国内の電子書籍端末ですが、前述のΣBookが発売されてから約3年後、通信回線経由で直接ストアにアクセスしてコンテンツを買える電子書籍端末が米国で発売されます。それが他ならぬ「Kindle」で、第2世代モデルからは販売台数も劇的に伸び、他社もこぞって通信回線を搭載した電子書籍端末を投入することになります。

 一方、それとほぼ同じタイミングで、iPhoneやiPadといったスマホやタブレットが台頭し、電子書籍はそれらにアプリを組み込んで読むスタイルが一般的になり、現在に至っています。ようやくユーザに受け入れられる専用端末が登場したのも束の間、スマホやタブレットに主役の座を奪われてしまったのは皮肉というほかはありません。

 もっともこれら専用端末は目に優しい電子ペーパーを採用するなどの独自の工夫もあり、コアなユーザ向けのモデルとして生き残っていくと予想されます。インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2025』によると、電子書籍の市場は2029年度には8000億円弱にまで成長すると予測されており、市場拡大に伴ってこうした専用端末も一定の存在感を放っていくとなれば、これまで消えていったモデルも報われるのではないでしょうか。

(山口 真弘)