織田信長を演じる小栗旬

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 NHKの大河ドラマ「豊臣兄弟!」に関してSNS上で賛否の声が巻き起こっている。5月3日放送の第17話のラストで、織田信長(小栗旬)の妹・お市の方(宮崎あおい)が夫・浅井長政(中島歩)の切腹を介錯したのだ。こんなお市は見たことがない……。

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 この日の放送は始めから慌ただしかった。オープニング曲もかからずいきなり登場したのは、子どもたちのために餅をつく甲斐の武田信玄(高嶋政伸)だった。そんな信玄のもとを直接訪れたのが、なんと将軍・足利義昭(尾上右近)で、彼の説得により信玄が打倒・信長の意思を固める。

織田信長を演じる小栗旬

 その手始めが三方ヶ原の戦いだった。武田軍のあまりの強さに、退却の際、家康が脱糞したと言われる戦いだが、そこは描かれることなく信玄はあっけなく死亡。

 この機に乗じて信長は京に上って将軍・義昭を追放。返す刀で浅井・朝倉攻めを再開する。織田軍に追われ朝倉義景(鶴見辰吾)は越前に逃げ帰ったが、家来に首をはねられ朝倉家は滅亡。浅井家もまた久政(榎木孝明)と長政の親子が切腹……。苦しむ長政の前に刀を手にして現れたのがお市だったのだ。メディア文化評論家の碓井広義氏は言う。

「普通なら1話を使って描いてもいいほどエピソードがてんこ盛りで、なんだか先を急いでいるかのような印象を受けました。その一方で、将軍が甲斐に現れたり、甲冑姿の朝倉義景が後ろから首をはねられるなど、え?と思わせるシーンがある中、やはりインパクトがあったのはお市の介錯ですね」

 SNSでは「史実と違う」と否定的な声が上がる一方、「夫に対するお市の愛だ」と肯定的な声もある。

現代を投影したお市

「え? まさか! おいおい、やらないよな……なんて思っていると、お市が刀を振り下ろすや顔に血しぶきでしたからね。ビックリしましたよ」(碓井氏)

 大河ドラマでは毎年のように、歴史的事実をフィクション化することがどこまで許されるのかという問題が持ち上がっている。

「それも大河の楽しみ方のひとつになっているように思います。制作側も面白くしようと大胆に史実の改変を行っているようにも見えます。そのパターンは大きく分けて3つに分類できると思います」(碓井氏)

【1】主人公を英雄化、美化することで、その魅力を最大限に引き出す。
【2】記録が不明確な史実の空白部分を物語の都合に合わせて創作で埋める。
【3】現代の価値観を歴史上の出来事や人物に反映させる。

「お市の介錯の場合、まず【3】が当てはまると思います」

 と碓井氏。切腹の介錯が現代を反映させたものだろうか。

「女性の描き方という点です。従来のお市は政略結婚で浅井家に嫁ぎ、夫・長政が彼女の実の兄・信長を裏切ったために浅井家と織田家の板挟みになってしまう、そんな運命に翻弄された受動的な被害者として描かれるイメージが強かった。しかし、現代のドラマでは女性を能動的、主体的に描く傾向があります。今回のお市は運命に耐え忍ぶだけの女性ではなく、自身の意思で行動する主体性を持った人物として描かれているように思えます。介錯が意味するのは、夫を苦しみから解放させる愛情であり、武家の妻としての覚悟であり、自らの意思で歴史の瞬間に立ち会う主体性かもしれません」(碓井氏)

 さらに【2】も当てはまると言う。

近年の史実改変大河

「お市が夫の介錯をしたという明確な資料がないため、史実と違うという意見が出てくるわけですが、同時に介錯しなかったという資料もない。制作者はこの“史実の空白”を利用して、物語を活性化させるために大胆な解釈を行ったのではないでしょうか。実際、今回のシーンを見て、これまでの価値観、固定観念をひっくり返されたような快感がありました」(碓井氏)

 その上で、ストーリーを盛り上げるための歴史ドラマでは史実改変は必要なのだという。

「武田信玄が主人公なら、川中島の合戦は当然描かれます。中でも上杉謙信との一騎討ちは、史実では実際にあり得ないけれど、なくてはならないシーンです。これがなければつまらないドラマになってしまいます」(碓井氏)

 大河ドラマでは戦国時代がよく描かれる。史実しか描いていけないとなれば、どれも似たようなドキュメンタリーになってしまうだろう。そこで近年の大河で印象に残る“史実改変”を碓井氏に挙げてもらった。

「昨年の『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では謎の絵師・東洲斎写楽が描かれましたが、現代では写楽は能役者の斎藤十郎兵衛とする説が有力です。ですが、ドラマではあくまでも正体不明のイメージで展開しました。そのほうが面白いですからね」(碓井氏)

 続いて一昨年の「光る君へ」では……。

ほぼ全編創作の大河も

「ヒロインの紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)が幼馴染みというのはかなり物語化していましたし、清少納言(ファーストサマーウイカ)とも直接交流があったというのも国文学者はどう考えているのかなとも思いました。ただ、平安時代中期というのはドラマ化するには難しい時代ですし、紫式部という物書きを1年間の大河にするには相当な工夫が必要だったと思います。ドラマと割り切って大胆なフィクションを取り入れたのでしょう」(碓井氏)

 2023年の「どうする家康」にもある。

「家康(松本潤)の正室・瀬名(有村架純)は、歴史好きには悪女というのが定説。しかし、大河では夫婦仲も良好で、戦のない国作りを構想して実行、これに武田信玄(阿部寛)まで同調する展開は、ファンタジーのようだとも言われました。対するNHK側も“波乱万丈のエンターテインメントドラマ”として理解を求めていましたね」(碓井氏)

 中でも史実改変が光っていたのが、2017年放送の「おんな城主 直虎」だという。

「そもそも資料の乏しい井伊直虎を女性(柴咲コウ)にしちゃったという大胆さは大河史に残るもので、ほとんど全編が創作と言っていいものでした。史実の空白が多いことを逆手に取って自由に物語を創作した最も顕著な例でした」(碓井氏)

 では、「豊臣兄弟!」は今後どうなっていくのだろう。

「そもそも秀吉(池松壮亮)の補佐という立ち位置だった秀長(仲野太賀)を主役に持ってきて二人三脚で天下を取るというテーマは、共生・協働して支え合いながら生きていくという現代的な価値観を反映させています。お市の介錯のみならず、さらに大胆な描き方を期待しています」(碓井氏)

デイリー新潮編集部