クオーツやスマホ登場で「いらない」と言われた機械式腕時計、「アナログ」感で復活…複雑な機構・手仕事・スケルトン
スマートフォンなどで簡単に正確な時刻を確認できる今、古くからある機械式の腕時計が人気を博している。
なぜあえて、アナログに回帰するのか。奥深い機械式腕時計の世界に迫った。
100分の1ミリ単位手作業で調整
雄大な岩手山を望む静かな森に囲まれた岩手県雫石町の一角。セイコーの高級腕時計ブランド「グランドセイコー(GS)」の機械式モデルの組み立てや調整、検査などを一貫して行う「グランドセイコースタジオ 雫石」がある。
「表からは見えない部分もきれいに、丁寧に作り込むように心がけています」。時計師の及川祐人さん(32)は、時計づくりにかける思いを語る。機械式は腕にのるサイズの中に、米粒より小さいねじ、髪の毛より細いひげぜんまいなど200以上の微細な部品が詰まっている。時計師はルーペやピンセットを使い、組み立てる。100分の1ミリ単位の繊細な調整も手作業で行う。
GSは、クオーツ式も取りそろえる歴史あるブランドだ。近年、スイスのグランプリで賞に輝くなど海外でも人気は高い。中心価格帯は60万円台〜100万円台と高価だが、2015〜24年度に売り上げは4倍弱に増えた。高い技術力や日本の自然をモチーフにした作品が人気を支える。セイコーウオッチ広報・PR室の大島香さんは「日本のラグジュアリーブランドとしての魅力を発信したい」と話す。
面白さと美しさで差別化
100万円超の腕時計が売れる理由を解明するカギは、歴史にある。1969年12月、セイコーは世界初のクオーツ式腕時計「クオーツ アストロン」を発売した。1日数秒〜数十秒の誤差がある機械式に比べて、1か月単位の誤差にまで精度を向上させた。当初は車1台分の高価な商品だったが、徐々に大量生産が可能になり、低価格化が実現。安価で高精度なクオーツの登場で、本場スイスの機械式腕時計メーカーは次々と倒産し、「クオーツショック」と呼ばれた。
それでも機械式は80年代以降、奇跡的な復活を遂げる。スイスの時計業界は、複雑な機構を作ったり、裏蓋を透明にして内部構造を見せたりすることで機械としての面白さや美しさをアピールし、差別化を図った。山口大時間学研究所の織田一朗客員教授は「安くて高精度なのは良い時計ではあるが、面白みがないとも言え、消費者の価値基準が変わった」と語る。
「壊れても直る」「次世代に残せる」
2015年、米アップルがアップルウォッチを発売。多機能なスマートウォッチが普及し、再び危機が訪れるかに思われたが、むしろ人気は上がった。
時計ジャーナリストで桐蔭横浜大教授の並木浩一さんによると、コロナ禍以降、旅行や車などの消費が抑えられた反面、家でも楽しめる高級品として機械式腕時計の需要が増加。人件費や材料費の高騰、円安により、価格はコロナ禍前の約1.5倍に上昇した。スイスの「ロレックス」は正規店では品薄状態になり、中古店で定価より高価に販売される状況も起きた。
並木さんは「クオーツやスマートフォン、スマートウォッチが登場して『機械式はいらない』と言われたが、覆されてきた。技術史の中でも珍しいことだ」と語る。
高級化で資産性ばかりに注目が集まりがちな側面もある。しかし、並木さんは機械式の最大の魅力は、〈1〉壊れても必ず直る〈2〉次世代に継承できる――点を挙げる。デジタル端末とは別の、自分に自信を持つための大切なアイテムとして捉えられているという。
並木さんは「人々はデジタルの恩恵を受ける一方、バランスを取ろうとアナログ的なものに余計にひかれるようになっている。今後も機械式は残り続けるだろう」と話している。
