中園ミホ『あんぱん』が第34回橋田壽賀子賞を受賞。壇上で「のぶは橋田壽賀子先生の分身です」とコメント。「逃げずに立ち向かう人だけが、運をつかめる」
毎年脚本家の橋田壽賀子さんの誕生日である5月10日に授賞式が行われる「橋田壽賀子賞」。2025年に放送されたNHKの連続テレビ小説『あんぱん』が第34回橋田賞の橋田賞を受賞しました。制作統括の倉崎憲氏、チーフ演出の柳川強氏、脚本の中園ミホ氏が代表して登壇。中園さんは受賞のスピーチで「のぶは橋田壽賀子先生の分身です」と語りました。中園さんが仕事について語ったインタビューを再配信します。**********数多くのドラマの脚本を執筆し、人気を集めてきた中園ミホさん。2025年に手がけた朝ドラ『あんぱん』も大きな話題に。そんな中園さんも人生において大きな危機を経験してきたそう。どんなふうに運を切り開いてきたのでしょうか。(構成:丸山あかね 撮影:清水朝子)
【写真】朝ドラ『あんぱん』のぶの「あのセリフ」に込めた思いは…
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生まれ持った運の量は実は同じ
2025年の今頃は、NHK連続テレビ小説『あんぱん』の脚本執筆に追われていました。130話を書きあげる仕事は過酷で、まさに命を削る思いでしたが、それだけに脱稿した時は喜びもひとしお。
朝ドラの脚本を担当するのは『花子とアン』に続き2度目でもあり、世間からは順風満帆に見えているかもしれません。でも、決してそんなことはないのです。
私は仕事がなくなるという経験を、過去に2度しています。一度目は50歳の頃。40代で『やまとなでしこ』『ハケンの品格』などのドラマが高視聴率となり、「ヒットメーカー」と呼んでいただくこともありました。
でも実際は、毎日視聴率と睨めっこ。視聴率がよければ素直に喜び、数字が取れなければ焦ったり。そんなときに、パタッと仕事がなくなったのです。50歳にもなって「仕事がない」とは言いだしにくかったですが、恥を忍んで、先輩脚本家である大石静さんに現状を相談しました。
すると状況を理解し、すぐにNHKのプロデューサーを紹介してくださって、『下流の宴』の脚本を担当することに。大石さんのおかげで、このときは大ピンチを脱することができました。
しかしそれでは終わりません。今度は60歳を超えたときに2度目の危機が……。
またしても、それまで途切れなかった仕事が、パタッとなくなったのです。このときは一度目の経験をふまえて、すぐに自分から行動を起こしました。
各テレビ局に企画書をもって行き、そこからNHKで『あんぱん』を書くことが決まったのです。60歳を過ぎて仕事がなくなるという経験をしなければ、私は再び朝ドラに挑戦することはなかったと思います。
誰の人生にもさまざまなことがあり、「一難去ってまた一難」の繰り返しだと言えるかもしれません。
でも逃げずに問題に立ち向かう人だけが、試練を乗り越えるたびに一回り大きくなり、運をつかんでいく。自分の経験からも、そう確信しています。
与えた喜びが自分の運を押し上げる
というのも、私は14歳で占いを学び、脚本家になる前は占い師の仕事をしていたこともあったからです。数多くの方々の人生に触れた経験から言えるのは、強運なだけの人生も不運なだけの人生もないということ。
私が行っている「福寿縁(ふくじゅえん)うらない」は、四柱推命と数奇学をベースにしたもので、12年の間に運気のいい時期と悪い時期が巡ると考えます。どんな人の運も、時期によって移ろうものですが、稀に高い運気を常に保っている人もいるのです。
たとえば大谷翔平さんの活躍ぶりは、占いでは低迷期に当たる時期にも陰りがありません。もちろん本人の才能や努力の賜物にほかならないのですが、加えて、世界中のファンが送る応援の強い念に護(まも)られているところも大きいのではないかと、私は推察しています。
大谷さんが高校時代に作ったマインドマップを見て、驚いたことがあるんです。そこには「運」という言葉を中心に、実現させるための行動として、「ゴミ拾い」や「挨拶」が掲げられていました。
ゴミがなければ自分のあとに通る人が気持ちよく過ごせますよね。挨拶をすれば周囲の人たちが清々しい気持ちになります。ここに開運の鍵があるのです。
大谷さんは自然と、人に与えた喜びが自分の運を押し上げてくれることを理解していたのでしょう。日本には「情けは人のためならず」という諺がありますが、運気は巡るというのは真理だと思います。
脚本家として、これまでさまざまな俳優さんと仕事をしてきましたが、長い間、トップでい続けられる人で、独りよがりの人はあまり見たことがありません。自分だけお金持ちになれればいいや、という考え方ではなく、誰か――ファンや共演者、スタッフなど――の喜びのために頑張っています。だからこそ、周りはさらに応援したくなるのでしょう。
さらにいえば、運とは縁。いつのときも、運は人が運んでくるものだというのが私の持論です。いつもご機嫌で楽しい人の周りには、なぜだか楽しい人が集まります。人は機嫌のいい人に引き寄せられるものなのです。
逆に、不機嫌さで人を支配しようとすれば、それだけで人を遠ざけますよね。周囲の人たちから、「あんなヤツ、痛い目に遭えばいいのに」などとネガティブな念を送られてしまいかねません。つまり、人との接し方が運を大きく左右するのです。
とはいえ、常に機嫌よくいるというのは至難の業。私も時々不機嫌になりますが(笑)、まずは自分の虫の居所に敏感であることが大切だと気づきました。
そして「自分は今、機嫌が悪いぞ」と認識したら、自らの機嫌をとるように努めています。他人を変えることはできないけれど、自分の気持ちを切り替えることならできますから。
少し前の話になりますが、その日、私は仕事先で不愉快なことが重なってドンヨリしながら帰路につきました。タクシーに乗り込むと、今度は女性の新人ドライバーが何度も道を間違える。イライラが募り、あやうく「あなた、何をやっているの!」と怒りを爆発させてしまいそうでした。
でもそのときふっと、彼女を追い詰めたところでしょうがない。動揺させて事故など起こされたら目も当てられないと思い留まり、「いったん車を止めて、少しリラックスしてから一緒に道を確認しましょうよ」と穏やかに提案したのです。
その後はスムーズに家に到着し、車を降りるときに彼女の顔を見たら、「すみませんでした。優しく接していただき、ありがとうございました」と言いながら泣いていて。
アレッ、なんだか私、いいことをしたみたいと思ったら気分が高揚し、最悪な日がいい日に早変わり。
人は苦しいと不機嫌になってしまいがちですが、そんなときほど人を喜ばせようと心がけていれば、良い運気が運ばれてくるのです。
<後編につづく>
