【曽和 利光】「圧迫面接に耐えられない者は無能」…いまだに悪習を続ける企業&面接官の「ざんねんな言い分」

写真拡大 (全3枚)

圧迫面接は古くて新しい問題

SNSを眺めていると、「今日の面接で人格を否定された」「威圧的な態度で質問攻めにあい、頭が真っ白になった」といった、就職活動生や転職活動中の皆様からの悲痛な投稿をいまだに目にします。こうした声に触れるたび、採用に長く携わってきた者として、非常に胸が痛みます。

私が人事の世界に足を踏み入れた1990年代から数えると、もう30年以上が経ちます。人事の科学化が進み、ハラスメントへの意識も高まった現代において、なぜ圧迫面接は絶滅しないのでしょうか。

本稿では、この古くて新しい問題を、人事の現場のリアルな事例を交えながら紐解いていきたいと思います。採用する側もされる側も、より前向きで建設的な出会いを創出するためのヒントとしてお読みいただければ幸いです。

圧迫面接が生まれた背景

そもそも圧迫面接とは、「意図的に求職者にストレスや不快感を与える面接手法」のことです。具体的には、発言に対する理不尽な否定、威圧的な態度や冷笑、パーソナリティへの攻撃、あるいは意図的な長時間の沈黙による心理的プレッシャーなどが該当します。

この手法が一部で広まってしまったのには時代背景があります。1980年代後半のバブル経済期、有効求人倍率は空前の高水準を記録し、学生が企業を自由に選ぶ「超・売り手市場」でした。

しかし、バブル崩壊後の1990年代後半から2000年代前半にかけて、状況は一変します。有効求人倍率が1.0を割り込む「就職氷河期」の到来です。

圧倒的な「買い手市場」となったことで、企業側のパワーが求職者を大きく上回りました。このパワーバランスの崩れが、「厳しい社会で生き抜ける強いメンタルの人材を見つけたい」「ストレス耐性のない学生は、大量の応募者の中から早めにふるい落としたい」「本当にうちで働きたいなら、多少の理不尽な圧迫にも耐え抜く忠誠心があるはずだ」という、企業側の歪んだ論理を正当化してしまったのです。

どんな企業が圧迫面接を好む?

圧迫面接を行う企業や面接官には一定の傾向があります。業種で言えば、かつては不動産、保険、証券といった、個人の営業成績が厳しく問われる業界で多く見られました。

「現場に出れば、顧客からもっと厳しい言葉を浴びせられる。それに耐えられるかテストする必要がある」というロジックです。また、体育会系の文化が色濃い企業や、トップダウンのヒエラルキーが絶対的な伝統的企業でも散見されました。

しかし、より深く本質を見るならば、これは業界の特性というよりも「面接官個人の認知の歪み」に起因することが多いのが実情です。ここで重要なのが、心理学で言う「生存者バイアス(Survivorship Bias)」という概念です。

圧迫面接を好む中高年の管理職の多くは、自身が就職氷河期や厳しい昭和の労働環境を「気合いと根性」で生き抜いてきた成功体験を持っています。「自分が若い頃の厳しい指導(=ストレス)のおかげで今がある」と信じているため、無意識のうちに「ストレス=成長の糧」「それに耐えられない者=無能」と短絡的に結びつけてしまうのです。

彼らは悪気なく、自身の成功体験という偏ったサンプル(生存者)だけを基準に、目の前の候補者を評価しようとするわけです。

廃れた4つの理由

しかし、全盛期を誇った圧迫面接も、2000年代半ば以降は明確に減少傾向をたどりました。そこには、感情論ではなく、ビジネス上の合理的な理由が存在します。

1)SNSによる「透明化」とブランド毀損リスク

最大のゲームチェンジャーはSNSの普及です。かつて密室の出来事だった面接は、今やX(旧Twitter)や口コミサイトを通じて即座に可視化されます。「あの企業は面接でモラハラをしてくる」という悪評は、採用ブランディングのみならず、BtoC企業であれば商品・サービスの不買運動など、業績そのものへの致命的なダメージに直結するようになりました。

2)労働人口の減少と「採用市場での力関係の逆転」

少子高齢化により、日本の生産年齢人口は減少の一途をたどっています。現在は再び構造的な「売り手市場」であり、企業は優秀な人材を惹きつけるために必死です。圧迫面接などという傲慢な態度をとれば、優秀な人材から「辞退される」という痛手を負うことになります。

3)「面接の科学化」の波

欧米の人事研究の流入により、「構造化面接(あらかじめ評価基準と質問項目を決めておく手法)」の重要性が認知されました。心理学の分析でも、非構造化面接(面接官の勘や経験、その場の思いつきの圧迫などに頼る面接)は、将来の仕事のパフォーマンスを予測する妥当性が著しく低いことが証明されています。

4)コンプライアンスとハラスメントへの意識向上

パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行など、社会全体で人権や尊厳を守る意識が高まり、面接という場であっても「優越的な関係を背景とした不適切な言動」は許されないという認識が定着しました。

ただ、これだけのリスクがあるにもかかわらず、なぜいまだに圧迫面接を「効果的な手法」だと素朴に思い込んでいる面接官がいるのでしょうか。

つづく記事〈専門家が断言「圧迫面接は無意味」…それでも効果を信じる面接官がいなくならないワケ〉で、詳しく解説します。

【つづきを読む】専門家が断言「圧迫面接は無意味」…それでも効果を信じる面接官がいなくならないワケ