子どもの睡眠にまつわる「早起き神話」の深刻な現実【寝た子は起こすな】

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健康的な生活習慣と思われがちな「早起き」が、子どもの知能形成や心身の健康に深刻な影響を与える!?

スタンフォード大学などで睡眠研究を行い、現在は東京医科大学睡眠学講座の客員教授である志村哲祥さんが、根強い「早起き神話」を解体し、その具体的なリスクを世界の最新研究に基づき明らかにする『寝た子は起こすな 「早起き神話」の深刻な現実』が2026年4月10日に発売となります。

今回は本書よりそのイントロダクションを特別公開します。

書影

 こんな悩みや疑問を、お持ちではありませんか。

 • 夜に子どもがなかなか布団に入ろうとしない
 • 子どもが寝る直前までスマホを触っていて、結果遅くまで起きている
 • 朝は何度子どもに声をかけても起きてこない。目覚まし時計の効果もない
 • 身の回りに遅刻や欠席を繰り返す生徒や若者がいる

「睡眠は大切」。それは多くの人がもつ共通認識でしょう。

 しかし現実には、子どもは夜なかなか寝ようとしません。中学生・高校生と成長するにつれて、寝る時間はだんだん遅くなり、深夜24時を過ぎてしまうことも珍しくありません。毎晩毎朝、「早く寝なさい!」「いい加減起きなさい!」と繰り返されるバトル。叱っても改善されず、本来気持ちよく一日を始めるための時間が、苛立ちに満ちたものになってしまう。

 そんなとき、こう思う人も多いのではないでしょうか。

「うちの子、怠けているのでは?」

「自分がちゃんとしつけや指導をできていなかったからでは……」

 そんなふうに子どもや自分を責めてしまう方にお伝えしたいのは、これはいずれも間違いだということです。子どもも保護者も教師も、決して悪くありません。


 まずお伝えしたいのは、子どもの体内時計と社会のリズムは、そもそも適合していない、という事実です。本書では、その理由を医学的な根拠にもとづいて解き明かしていきます。


 人は人生のおよそ3分の1を睡眠に費やします。これほど長い時間を必要とするのは、睡眠が生きていくうえで欠かすことのできない営みだからです。では、私たちは睡眠をどれだけ重要視しているでしょうか。私たち“日本人は”と言ってもよいかもしれません。

 私たちはみな「睡眠は大切」と口では言いながら(あるいはわかっていながら)、実際には睡眠時間を削る行動を美化しがちです。「早起き」には非常によいイメージがある一方で、「遅起き」にはどこか怠惰な印象がつきまといます。また、「早寝早起き」という生活習慣は健康的だというイメージを多くの方が持っていると思います。

 子どもに対しても同様です。朝早く起きて勉強をしている。学校へ行く前にランニングをしている。そんな話を聞くと、「立派だ」「いいことだ」と感じる方がほとんどなのではないでしょうか。こうした価値観は私たちのなかに深く根づいています。日本の社会全体として「早起きは美徳」という意識が強く、子どもたちに対しても、早起きを当然のように求めています。


 しかし、「早起き」は本当によいことなのでしょうか。

 現代社会はあまりに「早起き」を当然のこと、あるいは社会的正義のようにとらえていて、それはもはや「早起き神話」と言っても過言ではないほど強固なものです。

 次にお伝えしたいのは、医学的に見て、人間が「早起き」をすることに健康上のメリットはあまりない、ということです。それどころか、子どもの「早起き」は、知能の形成や心身の健康の成長と維持に、大きなマイナスの影響を与えます。

 ここで鍵を握るのは睡眠時間です。「早起き」は子どもの睡眠時間を奪ってしまうという複数の強いエビデンスがあります。逆に「遅起き」を容認することは、子どもの睡眠時間を延ばす効果があることも明らかになっています。

 子どもの知能は勉強だけで発達するのではありません。睡眠は、身体の健全な成長のために重要です。そして脳も、身体のなかのひとつの臓器です。どれだけ勉強をしても睡眠を削っては、脳は十分に成長できません。日々の暮らしのなかでさまざまなインプットを受け、そして眠ることによって、知能は成長するのです。また、睡眠の時間や睡眠の質は、子どもの健康にダイレクトに影響します。

 子どもの心と体を守ることが親の役割だとするならば、保護者が最も心を砕くべきは「目の前の宿題を終えさせること」ではなく、「十分な睡眠時間を確保すること」ではないでしょうか。

「子どもの睡眠時間が少ないのは単に早く寝ないからでは?」

 そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。ではどうして、冒頭に示したような「子どもがなかなか寝ようとしない」という悩みを、子を持つ多くの方が持たざるを得ないのでしょうか。その答えは、すでに医学的に明らかになっています。

 子どもの体と大人の体は異なります。しかし社会のリズムは大人によって決められており、子どもの生物学的な特徴があまり考慮されていません。それどころか、彼らの健やかな成長を阻むようにすら設計されています。併せて言うと、日本の一般的な生活リズムは「夜型」の大人にとっても著しく不利なものになっています。

 私も含め多くの医学者が研究を続けていくなかで見えてきたものは、私たちが「当たり前」と思い込んでいる社会常識──「早起き神話」が、いかに子どもたちの睡眠時間を奪い、知能の形成や心身の健康に悪影響を及ぼしているかという事実です。

 そのようななかにあって、どうすれば子どもたちの未来を、睡眠を通じて守ることができるのか。その問いに対する私なりの答えを、この一冊にまとめました。


 この本では、睡眠にまつわる誤解を解きほぐしながら、世界の最新の研究成果にもとづいた、子どもの知能と健康を守るための具体的な方法を紹介しています。

 子どもたちの健やかな成長を守ることは大人の役割であり、社会全体で分かち合うべき責任です。本書が、誤解の多いまま放置されてきた睡眠に関する知識をアップデートし、子どもが本来の力を最大限に発揮できる未来をつくる一助となれば幸いです。

この続きは『寝た子は起こすな』でお楽しみください。本書は以下の構成で、睡眠にまつわる「神話」を解体し、子どもの知能と健康を守り、その力を最大限に引き出すための方法を示していきます。

第1章 日本の子どもの睡眠時間は世界最低レベル
第2章 知っておくべき「眠り」と知能の深い関係
第3章 医学的に考える「早寝早起き」の理不尽さ
第4章 「概日リズム」が睡眠のカギを握る
第5章 病気としての「朝起きられない」
第6章 どうすれば子どもは早く眠るのか
第7章 子どもの睡眠を守る社会をつくるために

著者紹介

志村哲祥(しむら・あきよし)
医師。東京医科大学睡眠学講座客員教授。順天堂大学附属順天堂医院、医療法人寿鶴会、東京医科大学精神医学分野客員准教授(睡眠健康研究ユニットリーダー)、スタンフォード大学精神・行動科学分野客員研究員を経て現職。神経研究所客員研究員、国立精神・神経医療研究センター客員研究員、米国国立睡眠財団Sleep Health編集委員、株式会社こどもみらいR&D統括医、睡眠リズム障害患者会(R&S)理事なども務める。著書に『子どもの睡眠ガイドブック──眠りの発達と睡眠障害の理解』(分担執筆、朝倉書店)などがある。
※刊行時の情報です

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