【戦争兵器の基礎知識】「死なない兵器」機雷とは何なのか…ホルムズ海峡へ「掃海艇派遣」と海上自衛隊の「掃海技術」とは

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「海の地雷」機雷が、海峡で脅威になる理由

アメリカとイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始してから1ヵ月が過ぎた。米・イスラエル両軍は、イランの最高指導者を殺害し、軍事施設などに壊滅的な打撃を与えているが、停戦に向けた協議は緒に就いたばかりで、戦闘の早期終結は見通せない。エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖は続き、世界経済に甚大な影響を与えている。

こうした中で、トランプ大統領の戦略目標は二転三転しているようにみえる。今やトランプ氏の最優先課題は、イランの体制転換から、自らが攻撃を決断しなければ起きなかった「ホルムズ海峡封鎖」の解除に変化した。

一方、3月19日の日米首脳会談で、トランプ大統領からホルムズ海峡の航行の安全に向けた貢献を要求された高市総理大臣。現在、高市政権が「憲法と法律の範囲内で可能な最大級の貢献」として検討を本格化させているのが、海上自衛隊の掃海部隊による機雷除去だ。

なぜ、数ある選択肢の中で「掃海」なのか。そして、世界が称賛する海上自衛隊の技術力とはどういうものなのか。今回は、海の爆弾「機雷」の基本から、自衛隊が誇る世界最高峰の技術までを徹底解説する。

そもそも「機雷(機械水雷)」とは何か。一言で言えば「海の地雷」だ。水中に設置され、艦船が接近または接触した際に爆発し、船体に致命的なダメージを与える。

機雷とは「死なない兵器」

機雷が厄介なのは、その「持続性」にある。ミサイルや砲弾は、撃った瞬間に結果が出るが、機雷は一度敷設されれば、誰かが取り除くか爆発するまで、数十年間にわたってその海域に居座り続ける。実際、日本の近海では第2次世界大戦から80年以上が経過した今でも、当時の機雷が年間3〜4個発見され、海上自衛隊が処分にあたっている。まさに「死なない兵器」なのだ。

機雷には、その設置方法や作動原理によって、いくつかのタイプがある。

係維(けいい)機雷: 海底に重りを沈め、ワイヤーで一定の水深に機雷を浮かせるタイプで、船体が直接触れることで爆発する「触発式」が多い。

沈底(ちんてい)機雷: 海底に沈めるタイプで、船が発する音、磁気、水圧の変化を感知して爆発する「感応式」が主流で、発見が非常に困難だ。

浮遊(ふゆう)機雷: 海面を漂うタイプ。国際法では禁止されているが、テロなどで使われるリスクがある。

上昇機雷: ターゲットを感知すると、自ら魚雷のように追いかけてくるハイテク機雷だ。

ホルムズ海峡は、世界の原油輸送のおよそ3割が通過する「エネルギーの生命線」だ。特に日本は、原油輸入のおよそ9割を中東地域に依存しており、その大部分がホルムズ海峡を通過する。

この数字は、ホルムズ海峡の航行の安全が日本のエネルギー安全保障にとって、いかに死活的に重要かを物語っている。CNNは3月10日、イランがホルムズ海峡に機雷を撒き始めたと報道した。ここに機雷が撒かれれば、通過船舶の保険料は跳ね上がり、タンカーは航行不能に陥る。原油の輸入は滞り、ガソリン価格は上昇し、それがすべての物価に転嫁される。日本にとっては、国民生活を直撃する死活問題だ。だからこそ、安全なエネルギー輸送のために、機雷の除去が絶対に必要なのだ。

海上自衛隊が誇る「掃海」と「掃討」の二段構え

機雷を取り除く作業には、大きく分けて「掃海」「掃討」の2種類がある。海上自衛隊は、この両方において、世界屈指の練度を誇る。

「掃海」とは、あたかもそこに大きな船がいるかのように機雷を「騙して」爆発させる手法だ。大きく2つの種類がある。

感応掃海: 掃海艇が特殊な装置を曳航し、大きな船が発するような「磁気」や「スクリュー音」をわざと発生させる。機雷が「お、大物が来たぞ」と勘違いして、爆発すれば成功だ

係維掃海: 海中のワイヤーをカッター付きのワイヤーで切り離し、浮かんできた機雷を機関砲などで射撃処分する

「掃討」とは、ハイテク機器を駆使して機雷を一つずつ見つけ出し、ピンポイントで破壊する手法だ。

探知: 高性能ソナー(機雷探知機)で海底をスキャンし、不審な物体を見つける。

確認・処分: 「機雷処分具」と呼ばれる無人潜水艇を投入。カメラで確認し、爆薬を設置して爆破する。

この「掃討」において、最後の切り札となるのが「水中処分員」だ。機械では対応できない複雑な地形や繊細な作業が必要な場合、彼らダイバーが生身の体で冷たく暗い海へ潜り、機雷と対峙する。これは世界で最も危険な任務の一つと言えるだろう。

なぜ「日本の木造船」は世界最強なのか?

機雷は「船の磁気」に反応する。そのため、機雷を取り除く掃海艇自体が鋼鉄(鉄)でできていては、作業中に自分が爆破されてしまう。そこで、海上自衛隊の掃海艇は、驚くべき特徴を備えることになった。

かつて、掃海艇の代名詞は「木造船」だった。磁気を出さないために、あえて木で造られていたのだ。しかし、木造は腐食しやすくメンテナンスが大変。そこで登場したのが、最新の「えのしま型」などに採用されている繊維強化プラスチック(FRP)だ。FRP製の船体は、磁気を出さない特性はそのままに、木造よりも遥かに高い耐久性と軽量化を実現した。実は、これほど大型のFRP艦艇を造る技術を持っている国は、世界でも限られている。

海自の掃海艇は16隻体制で、船体は9隻が木造船、7隻はFRPを素材とする。FRPは、磁気に反応する機雷のダメージを受ける危険性を低下できる。

日本が今回、ホルムズ海峡への派遣を検討できる背景には、過去の輝かしい実績がある。

1991年、湾岸戦争停戦後のペルシャ湾。イラク軍が敷設した大量の機雷により、海域は封鎖されていた。各国が二の足を踏む中、日本は掃海艇4隻、掃海母艦1隻、補給艦1隻からなる部隊を派遣した。当時の日本部隊に割り当てられたのは、他国が敬遠するほどの難所だった。しかし、海上自衛隊は驚異的な集中力と技術で、合計34個の機雷を処分。しかも、対機雷戦という極めて危険な任務にもかかわらず「一人の死傷者も出さずに任務を完遂した」のだ。

この功績は、関係者の間で「ペルシャ湾の奇跡」と呼ばれ、それまで国際貢献に消極的だと批判されていた日本の評価を一変させる契機となった。当時のクウェート政府や国際社会から送られた感謝の言葉は、今も海上自衛隊の誇りとなっている。

今回、トランプ政権が日本に期待を寄せるのには、米軍の切実な事情がある。実は、世界最強の米海軍にも「弱点」があるのだ。

現在、米海軍は掃海艦艇を順次退役させており、2027年までにはゼロになる計画だ。その代わりとして、多用途の「新型沿海域戦闘艦(LCS)」に掃海任務も担わせる構想を描くが、LCSの船体は鋼鉄やアルミ製で、磁気機雷がひしめく海域へ直接踏み込むにはリスクが伴う。ドローンやヘリによる遠隔掃海も開発中だが、その精度は未知数だ。

今後の課題と展望:平和のための「地道な戦い」

一方、日本は今年3月に掃海部隊を集約した「水陸両用戦機雷戦群」を新設。長崎県佐世保市を拠点に、即応体制を強化している。「実際に現場に潜り、確実に機雷を一つずつ潰せるプロフェッショナル」として、日本の存在感は相対的に高まっているのだ。

高市総理大臣は「日本は、法律の範囲内でできること、できないことがある」として、掃海艇の派遣を慎重に検討している。今回の派遣案も、あくまで「停戦後」が前提だ。停戦後であれば、自衛隊法84条の2(遺棄された機雷の掃海)に基づけば、武力行使にはあたらないという法解釈が有力視されている。

しかし、停戦後とはいえ、海中の機雷は常に爆発の危険を孕んでいる。また、周辺情勢が再び悪化するリスクも否定できない。隊員の安全確保は、政府にとって最大の課題だ。

彼らが扱うのは、派手なミサイルなどではなく、海の底に潜む「戦争の残骸」や「テロの爪痕」だ。それを取り除く作業は、まさに海における「不発弾処理」であり、平和を実体化させるための地道な献身に他ならない。

もしホルムズ海峡に再び「日の丸」を掲げた掃海艇が姿を現すことになれば、それは世界のエネルギー供給を守る盾として、そして日本の高い技術力が平和のために使われる象徴として、大きな意味を持つことになる。

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