橋本環奈

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女優デビュー15年目

 女優デビュー15年目の橋本環奈(27)にとって、7本目の主演ドラマとなるフジテレビ「ヤンドク!」(月曜午後9時)が間もなく終了する。賛否両論がある作品だった。この作品の真価と橋本の可能性を考える。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 橋本が演じる主人公・田上湖音波は、東京のお台場湾岸医療センターに勤務する脳神経外科医。かつてはヤンキーで高校を中退したが、仲間の交通事故死をきっかけに一念発起。医師になった。

 まず民意を表す個人視聴率を見てみたい。1月に始まった冬ドラマはプライム帯(午後7〜同11時)に15本あるが、3月15日までの平均値はベスト5に入っている。上々である。

橋本環奈

 女優が主演のほかのドラマと比較してみたい。「ヤンドク!」の9回分が3.5%(世帯5.8%)、志田未来(32)主演のTBS「未来のムスコ」(火曜午後10時)の8回分が2.8%(世帯4.7%)、上白石萌歌(26)主演の日本テレビ「パンダより恋が苦手な私たち」(土曜午後9時、放送終了)の10回分が2.2%(世帯3.9%)である。

「ヤンドク!」がかなり上回っている。ただし、1月12日放送の第1回で5.0%(世帯8.1%)も獲りながら、3月9日放送の第9回では2.8%(世帯4.8%)にまで落ちており、ムラがあった。

 また、制作関係者によると、40代以下の個人視聴率(コア)は「未来のムスコ」が勝っている。「ヤンドク!」への評価は割れているが、視聴率の良し悪しも言い表すのが難しい。

 この作品を否定する人はどこを認めないのか。第一にリアリティの不足だろう。放送開始前、湖音波は元ヤンという触れ込みだった。レディースに加入し、ピンクの特攻服を着込み、単車をブンブン乗り回していたが、それは全て過去の話であるはずだった。

 しかし、実際には現役ヤンキーとしか思えない。だから医師に見えにくい。たとえば第10回、厚労相の頭部動脈瘤手術を控え、病院幹部が医師たちに対し「今回はいつも以上に慎重に全力で対応するように」と訓示した。すると湖音波はカチンときて、「ウチら普段から、どんな患者さんでも慎重に全力でやってるって」と言い返した。

 面子を潰された幹部が、「あーっ?」と声を上げると、湖音波は怒り、「はぁーっ? あーん!」と言いながら幹部に詰め寄った。痛快だったが、湖音波が医師に見えにくくなる一幕だった。

 ほかにも湖音波は、謝るときには「サーセン」、返事は「ウッス」、怒ると上司であろうが「クソたわけ!」、先輩であろうが「うるせー!」。愉快なのだが、まるで10代のヤンキーだ。

もしヤンキー指導者がいたら…

 最近のドラマはなんでも監修者を付ける。焼き鳥監修者がいたドラマもあった。「ヤンドク!」には岐阜弁の指導者、脳外科医療指導者はいるが、ヤンキーの監修者は見当たらない。もしヤンキー指導者がいたら、湖音波の表面上のツッパリをセーブさせたのではないか。

 現実の元ヤンは常にいきっているわけではない。だから、すぐには分からない。自分が軽んじられたときなどに相手をギロリと睨むことなどで発覚する。四六時中ツッパっていたら現役ヤンキーだ。

 元ヤンの女性医師は実在するという。不思議ではない。元ヤンの弁護士、元ヤンの大学教授などもいるのだから。だが、この作品にはほとんど関係ない。問題は実在するかどうかではなく、視聴者側に湖音波が医師であると思わせることが出来るかどうかなのだ。

「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日)に登場するノーミスのフリーランス外科医・大門未知子(米倉涼子)のような存在だって、現実にはいないのである。それでも同作品は未知子に現実味を持たせることに成功した。脚本、米倉の演技、周辺人物の描写に工夫を凝らしたからだ。

「ヤンドク!」はどうだろう。第1回で高視聴率を得たことが示すとおり、企画としては面白かった。ただし湖音波のヤンキーキャラを強調するほど医師の現実味が薄らいだ。難しい作品だった。

 医療物としての必須要素はきっちり揃えてあり、丁寧に描かれていた。湖音波が脳神経外科の面々に受け入れられるまでの過程、患者と湖音波の交流、病院の最高権力者で仇役の鷹山勲(大谷亮平)と院長・大河原嗣子(大塚寧々)、湖音波の恩人である脳神経外科部長・中田啓介(向井理)の対立。さらに中田の深刻な病も加わった。

 だから現実味が気にならなかったり、最初から「ドラマはそういうもの」と考えたりする視聴者にはストレスなく楽しめたはず。それが上々の視聴率を生んだのだろう。なにより橋本ファンにはたまらなかったはずだ。橋本が出ずっぱりのうえ、医師役とヤンキー役が同時に堪能できたのだから。

 NHK連続テレビ小説「おむすび」(2024年度後期)で橋本は一時期ギャルになった米田結を演じた。今度は湖音波。近年の橋本は異端児的存在の役柄が目立つ。テレビ朝日の主演ドラマ「天久鷹央の推理カルテ」(2025年)で扮した医師・天久鷹央もエキセントリックな人物だった。

 橋本に向いていると思う人が多いであろうラブコメはTBS「王様に捧ぐ薬指」(2023年)を最後にやってない。同作品は橋本が演じる庶民的な女性が、巨大ブライダル産業の御曹司(山田涼介)と契約結婚する物語。個人視聴率は平凡だったものの、コアは断トツだった。ほかのドラマを寄せ付けなかった。

「1000年に1人の逸材」

 当時、橋本がラブコメ界に君臨する時代が到来したと言われたが、本人は乗り気でなかったらしい。一方で同時期、Netflixの映画「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う」(同)で主人公の赤ずきんちゃんに扮している。

 同作品は西洋童話をモチーフにしたファンタジックなミステリー。映像版の童話であり、異色作だ。橋本は真っ赤な頭巾が似合っていた。橋本はさまざまなタイプの作品に挑み、自分の可能性を試したいのだろう。

 同作品を観ると、橋本が10代のころに「1000年に1人の逸材」と称されていたことを思い出す。芸能人としてのルックスは完璧。だが、本人はルックス頼りになりたくないから、異端児役を次々と引き受けているのではないか。

 ギャル役、ヤンキー役は誇張した芝居をするので、演技力が分かりにくい。もっとも、橋本の演技力は高い。それはWOWOWの主演ドラマ「インフルエンス」(2021年)で確認できる。現代人の生きづらさは青春期から始まっていることを描いた社会派サスペンスである。

 橋本ら3人の女子高生は住民が噂話ばかりしている団地で暮らし、不良たちが威張り散らす高校に通っている。ある夜、同級生の1人が男に襲われたことから、橋本は思わずその男を刺殺してしまう。正当防衛だが、怖くて逃げた。ところが、もう1人の同級生が自首する。橋本に交換殺人を依頼するためだ。自分に性的虐待を働いた祖父を殺してほしいと橋本に頼んだ。

 同作品で橋本は感情のほぼ全てを表情や仕草、体の動きで表した。怯え、不安、安堵、不信。橋本はシリアス作品をあまりやらないが、やろうと思えばいつでも出来る。

 一方で橋本にはギャル、ヤンキーがあまり向かないと思える点がある。声が低くてハスキーなところである。先輩女優の木村佳乃(49)からは「すごく魅力的な声」と絶賛された。実際、そうに違いない。

 ただし、低音でハスキーだと、大声を出したときに声が割れてしまうことがある。苦しそうに聞こえる。ギャル役、ヤンキー役は大声を上げるシーンがやたらある。聞いている側も辛くなることがある。

 まだ27歳。異端児役に自分を固定するつもりはないだろう。ラブコメに戻ってきたり、大河ドラマに挑戦したりする日が来るかも知れない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部