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業務上の理由でキラキラネームを隠して偽名を使いたいという相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は、営業の仕事をしているそうですが、名前がキラキラネームで、営業でお客さんのところに行くと、名前が変という理由で営業がとれずに困っているそうです。

そこで、会社に交渉して偽名の名刺で営業に出たいと考えていますが、詐欺罪などになってしまうことを心配しているそうです。

キラキラネームの人が仕事上の名前として別の名前を使うことは、法律上問題があるのでしょうか。簡単に解説します。

●「偽名」ではなく「通称名」として考える

まず、相談者のいう「偽名」は、「偽名」というよりは「通称名」と考えられます。

通称名、とは戸籍上の本名を使わずに、本名に代えて広く通用している別の呼称のことです。会社で用いる通称名は、法律上の概念というわけではありませんが、たとえば旧姓を職場で使い続けることは割とよく行われており、特に違法というわけでもありません。

今回のケースは、旧姓使用に比べれば社会的に定着しているわけでもなく、会社が認める根拠がはっきりしているわけでもありません。

そこで、会社が承認しない可能性もあります。

しかし、会社側からみれば、実際に営業の成果に影響するのですから、業務上の必要性が高いとみて通称名の使用を認める可能性もあるのではないでしょうか。

少なくとも、相談者が会社に事情を話して承認を求めてみる価値は十分あると思います。

会社が承認したうえで業務で一貫して使う名前であれば、「職場での通称名」といえ、戸籍名と異なる名前を職場で使うことは基本的に問題ありません。

●詐欺罪にはなりにくい

では、通称名で営業をすることは詐欺罪にあたるのでしょうか。

詐欺罪(刑法246条)が成立するには、人を「欺く」必要があります。

注意すべきなのは、単に嘘をつけば「欺く」にあたるわけではないということです。

判例では、財産を処分する「判断の基礎となるような重要な事項を偽ること」が必要だとされています。

では、担当者の名前が本名かどうかは、「重要な事項」にあたるのでしょうか。

通常の商品・サービスの営業においては、顧客が購入を決めるのは商品やサービスの内容が基準です。相談者の会社と契約を締結するにあたり、担当者の名前が戸籍上の本名かどうかは、財産を処分する(=契約を締結する)判断の基礎にはなっていないのが通常です。

このため、通称名で営業をしても、それだけで詐欺罪が成立することは考えにくいでしょう。

なお、担当者個人の資格や信用そのものが取引の決め手となるような場合(たとえば「弁護士の〇〇です」と名乗って法律サービスを売る場合など)は、話が変わる可能性はあります。

最高裁は、平成26年3月28日に、暴力団関係者であることを申告せずにゴルフ場を利用したことが「欺く」行為にあたるかが争われた2つのケースで、それぞれ有罪、無罪と結論の分かれる判断を下しています(平成25年(あ)第725号と平成25年(あ)第3号)。

もし事情が複雑で、不安が残るようであれば弁護士に相談した方が良いでしょう。

●契約書のサインはどうなる?

会社の営業として締結する契約書の場合、名義人は会社になります。担当者は会社を代理して署名するにすぎないため、それが通称名であっても、その担当者を特定できる状況であれば、法的には問題になりにくいと考えられます。

問題となり得るのは、担当者個人が契約当事者となっており、通称名ではなくまったく別の他人の名前を使ったりするような場合です。このような場合には、文書の種類によっては私文書偽造(刑法159条)の問題が生じる可能性があります。

以上のように、会社が承認した通称名を業務で使う限り、通常の営業活動において犯罪が成立するとは考えにくく、一般的には問題ないといえます。

●最終的には改名の布石になりうる

キラキラネームに悩む方であれば、将来的には通称名だけでなく、根本的に戸籍上の名の変更をしたいと考えるかもしれません。

戸籍上の名を変更するには、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

通称名を長年使用し、社会的に定着している実績を作ることで、氏名変更が認められやすくなる可能性もあります。

たとえば、広島高裁岡山支部昭和52年4月25日決定は、10年以上通称を使用し、通称がその名前であると信じられる状態となっていた者の改名を認めています。

そのためにも、会社の承諾をとって、営業活動でも通称名を使用し、人事記録なども本名と通称名を紐付けて管理してもらうことは有効と考えられます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士