(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

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少しずつあたたかくなり、春の気配が感じられる季節になってきました。ラッパーや俳優など多方面で活躍しながらも園芸家の顔を持ついとうせいこうさんは、長年続けてきたベランダ園芸家(ベランダー)から室内園芸家(ルーマー)にシフトしつつあるそうです。そこで今回は、いとうさんが東京新聞で連載してきた人気コラムを書籍化した『日日是植物』から、2019年10月のエッセイを紹介します。

【写真】いとうせいこうさん「人間でさえ『熱中症に注意!』と毎日警告を発されているのだから、植物やペットがどれほどの苦痛を味わっていることか」

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室内に置いたものたち

園芸を始めたのが今から四半世紀前で、最初は母が送ってきたオリヅルランと金のなる木と笹を育てたのだった。

あとから考えればどれも素人に世話の出来る植物ばかりで、園芸好きの母がよくよく選んだのだとわかる。

笹は途中で枯れてしまったが、オリヅルランも金のなる木もいまだに健在で、いつ調子が悪くなってもいいようにどちらも2鉢に増やした状態のまま、しかも室内園芸を試すようになった去年からはひとつをベランダに、もうひとつを部屋に置いてある。

で、この室内に置いたものたちがどうもいけない。

熱中症にご注意

夏が園芸にとってのヤマであることは体験者の誰もが知ることで、特に暑さが異常になりゆくこの数年は我々ベランダー、もしくはルーマーの試練の時である。

外に置けば数時間でカリカリに乾く。そして部屋に置けばクーラーで冷やされ、朝方には熱され、人間でさえ「熱中症に注意!」と毎日警告を発されているのだから、植物やペットがどれほどの苦痛を味わっていることか。


『日日是植物』(著:いとうせいこう/マガジンハウス)

我が部屋では、9月頃からオリヅルランの葉が茶色く焼けてしなってきた。金のなる木は、うっかり触れるとボロボロッと葉を落とす。完全に危険信号である。

しかし夏さえ終われば、と思って対応が遅れた。いつが夏の終わりか、この気候変動の激しい日本ではよくわからなかったからである。地球温暖化は俺の部屋の中にまで忍び込んでいるのだ。

根腐れ警報

そして調子の悪い鉢に、ついうっかり水をやりすぎるという“人災”が起こった。起こしてるのは俺だ。この「調子の悪い鉢に、ついうっかり水をやりすぎる」というのは園芸あるあるの中でもトップクラスの例ではないだろうか。

表土に触れればいつになく湿っているのである。で、その湿気が引かない。植物が吸っていないのだ。その段階で俺は根腐れ警報を自らに出すべきであった。

だがしかし、あまりの日々の暑さに「こいつも水を飲みたいだろう」と考えがちの俺であった。確かに自分も氷水などガブガブ飲んでいたのである。

それでオリヅルランは俺に明らかなサインを出してきた。葉の先が変色し、それが面積を増し、あからさまにしおれたのだ。すぐに土に指を刺し、異様な湿りぶりに背筋を凍らせた俺は、それからしばらく水やりを断つ。

園芸に集中することは自分に集中すること

が、金のなる木はサインが見えにくい。多肉植物は基本タフだが、もしタフでない状況でも顔色が変わらない。もし俺が触れなければ葉は落ちなかっただろう。しかしいったん落ち始めるとそれはバラバラと落ち続ける。

金のなる木の方にも緊急乾かし体制を敷いて、2週間。おそるおそる触れても前ほど葉は落ちないようにはなった。なにしろ金のなる木なので、バラバラ葉が落ちるのはいかにも縁起が悪い。ぞっとする。やめてほしい。

という日々、細心の注意で植物に回復してもらおうとしていると、自分の体調にも気をつけているのに気づく。なるべくよく休み、根腐れをしないよう俺もまたなぜか知らぬ間に暴飲暴食を控えているのである。

園芸に集中することは自分に集中すること。というのも、園芸あるあるのひとつだ。

※本稿は、『日日是植物』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。