この記事をまとめると

■BMWのロゴマークの由来は長らく飛行機のプロペラを図案化したものとされていた

■2020年にBMWのクラシック アーカイブ・ディレクターのジェイコブズ氏が真実を告白

■BMWのロゴマークは本社があるバイエルンの州旗をモチーフにしていた

BMWではお馴染みの青と白のプロペラロゴ

 黒ないしグレーの円の中に、白と青の四分円が入っているBMWのブランドロゴ。あのロゴは「航空機のプロペラを図案化したものである」と信じられていて、筆者もそう思っていた。過去には「もともとは航空機のエンジン製造を行っていたBMWは、そのブランドロゴに回転するプロペラの図案を採用し……」的なことを、どこかの雑誌に書いたこともある。しかも、偉そうなニュアンスの文章で。

 だが事実は違っていた。アレ、じつはプロペラではなかったのだ。

 というか今回、BMMのロゴに関してはふたつの事実があることを知った。ひとつは、先ほど申し上げた「アレはプロペラではない」ということ。そしてもうひとつの事実は、「BMW社は、世間がアレに関して間違った解釈をしていることを承知で、あえて正そうとはしてこなかった。それどころか自社の宣伝に利用もしていた」ということだ。

 結論から申し上げると、BMW社のロゴはプロペラではなく、同社の創業地であるバイエルンの旗がモチーフだ。

 BMWロゴについての歴史をひもといてみよう。まずBMW社は、南ドイツ・バイエルン州の州都ミュンヘンで航空機エンジンを製造していた「Rapp Motorenwerke(ラップ発動機製作所)」から「Bayerische Motoren Werke(バイエリッシュ・モトーレン・ヴェルケ=バイエルン発動機製作所)」に改称される形で誕生した。そして、BMWという社名が1917年7月に初めて商業登録された際、まだ会社のロゴは存在していなかった。同じ月に出された最初の広告にも、BMWのシンボルやエンブレムは見当たらなかったという。

 しかし1917年10月5日、Bayerische Motoren Werke=BMWにロゴが与えられることになった。ドイツ帝国商標登録を受けた最初のBMWロゴは、ラップ社の円形デザインの基本的な部分を引き継いでいる。象徴的なブラックの外周円は2本のゴールドのラインで縁取られ、そこに「RAPP MOTOR」ではなく「BMW」の3文字が配置された。

 そしてその内側にある青と白の四分円がその後「プロペラを図案化したものである」という都市伝説になったわけだが、これはプロペラではなく、BMWの故郷である「バイエルン」を表現したものなのだ。1838年頃から公式に使われはじめた「バイエルンの旗」はストライプのものと菱形のものの2種類があるが、いずれも「白と青」の2色で構成されている。このバイエルンの伝統的な配色を、BMW社は自社のロゴマークに取り入れたのだ。

 ちなみにいい忘れたが、これらのことは筆者がWikipediaか何かを参照しながらテキトーにコピペしているわけではなく、BMWグループ・クラシック アーカイブ・ディレクターであるフレッド・ジェイコブズ氏の証言に基づいている。

 で、ジェイコブズ氏いわく、アレはプロペラではなく「バイエルンの旗」がモチーフになっているわけだが、当時の商標法では、州や君主の紋章を民間企業が使用することは禁じられていた。そのため、BMWのロゴでは、バイエルンの紋章ルールである『白と青』とは逆順になる『青と白』のデザインを採用したのだという。

イメージ的にも合致する飛行機のプロペラ説をマーケティングに利用

 以上がBMWのロゴに関する正史なわけだが、それではなぜ、いつごろから、「BMWのロゴ=回転するプロペラを図案化したもの」という通説が登場したのだろうか?

 発端となったのは、1929年に出稿された広告だった。回転するプロペラのなかにBMWロゴが入った航空機が描かれたその広告は、世界的な経済危機が始まるなか、米国Pratt & Whitney社の航空機エンジンをBMWがライセンス生産したことを訴求する内容の広告だった。回転するプロペラの中にBMWのロゴが描かれているその図版は、BMWのイメージに見事にマッチした。航空機エンジン製造という会社のルーツと、専門技術の高さを強調することに成功したのだ。

 そして、1929年のこの広告以降、「BMWのロゴは回転するプロペラを表している」という通説が生まれてしまったわけだが、BMWは、その間違った通説を正そうとはしなかった。それどころか1942年には、「BMW Flugmotoren-Nachrichten(BMW航空機エンジンニュース)」という自社の出版物に、「BMWのロゴは回転するプロペラである」ということを裏付ける記事まで掲載した。

「なんかこういい感じの通説だからわざわざ訂正しないで、そのまま乗っかっちゃおうか!」と、当時のBMW社の経営陣が考えたのかどうかは不明だが、いずれにせよBMWは、「プロペラ説」を2020年ごろまで、積極的には正そうとしてこなかった。

 世のなか、基本的には何事も「真実」を明らかにするべきではあるのだろうが、真実を明らかにすることがそのまま人の幸せにつながるわけでもない。「知らぬが仏」ではないが、知らないままでいたほうが幸せなことも世の中にはたくさんあるものだ。

 だが今回、私は知ってしまった。あのロゴは「回転する航空機のプロペラ」という美しい事象を模式化したものではなかった──ということを。

 大変残念ではあるが、知ってしまった事柄をいまさら脳の海馬から消去することもできない(※老人になってボケたら忘れるかもしれないが)。それゆえ今後は、行ったこともないバイエルン州の美しい田園風景を脳裏に浮かべながら、国道を走るBMW車のロゴを心静かに眺めたいと思う。