物議醸す今季ファウル基準にJFA審判委が釈明「反則には当然反則の笛が吹かれるべき」混乱招いた背景は…
日本サッカー協会(JFA)審判委員会は18日、東京都内でレフェリーブリーフィングを開いた。今季の開幕期から物議を呼んでいたファウル基準について重点的に説明。Jリーグ公式戦で起きた背後からのプッシング、ユニフォームを引っ張ることによるホールディング、足裏タックルなどの複数事例が紹介され、本来ファウルとすべき場面でノーファウルの判定が下されたり、提示されるべきカードが提示されなかった場面があったりしたことが伝えられた。
今季のJリーグでは2〜3月の開幕期、接触プレーの判定を巡ってレフェリーへの批判が次々と噴出した。主に目立ったのは上半身のプッシングやホールディングが見逃される場面。また足裏での接触プレーがノーファウルとされたり、カードが提示されなかったりする場面も複数見られ、一部チーム関係者から選手の安全のために判定基準を問い直すよう求める声も上がっていた。
この日のブリーフィングでは、元国際主審でJFA審判マネジャーの佐藤隆治氏が実際の映像を用いて、実際のノーファウルで正しかった場面、本来はファウルとされるべきだった場面についてそれぞれ説明。本来はファウルとされるべき場面として、大宮対山形での大宮選手によるプッシング(前半7分)、横浜FM対新潟戦での新潟選手のホールディング(後半45+6分)、神戸対京都戦での京都選手の足裏でのスライディング(前半45分)などを挙げた。
こうした接触プレーに関する判定ミスが続いた背景には、今季のJFA審判委員会が判定精度向上の一環として掲げている「ノーファウルに笛を吹かない」という重点項目があったとみられる。
JFA審判委員会は昨季までもJリーグの各節終了後、すみやかに判定に関する分析を行ってきた中、Jリーグとのディスカッションを経て課題に挙がったのは「ノーファウルとされるべき接触プレーで笛が吹かれている」という点だった。こうした課題を受け、今季は開幕前から各審判員に向けて「期待する判定がノーファウルだよねというコンタクトプレーは自信を持ってノーファウルにしていこう」(佐藤マネジャー)といった意識の共有がなされていた。
ところがその結果、今季は本来ファウルとされるべき場面が見逃され、ノーファウルとなる事例が頻発。いわゆる「針が逆に振れる」という状況となっていた。佐藤マネジャーはこうした現状について「まずは(場面を)見ることが大事」というレフェリングの原点を強調。審判員には「プレーを続けるんだ、ファウルを取らないんだという考えが邪魔をしているようであれば大きく考えなくていい」と伝えたことを明かした。
また佐藤マネジャーは、足裏タックルなどのラフプレー以外でもイエローカードが出されるべき場面で出されない例があったことも指摘。具体的な事例としては広島対横浜FC戦の後半18分、最終ラインの背後に抜け出そうとした広島の選手が横浜FCの選手にユニフォームを引っ張られて止められた場面を挙げた。
この場面はボールのないところで反則が行われたため、主審ではなく第4審のサポートで反則が確認されたが、大きなチャンスの阻止によるイエローカードが提示されていなかった。佐藤マネジャーは「(今年は)ファウルを取らないという空気が流れている中、警告の基準も甘くなったと誤解されていたら一切そんなことはない」と断言。「必要であれば警告を出す、必要でないものにはカードを出さない。その精度を高めていこうと話している」と語った。
さらに佐藤マネジャーは、ファウルを受けた攻撃側に与えられるアドバンテージが適切に運用されていない点についても指摘。開幕節の大阪ダービーなど適切な運用でゴールにつながる場面も見られた一方、攻撃側の選手が倒れたことで数的不利での攻撃を強いられる例が散見される中、「アドバンテージはファウルを受けた側のチームにとって利益になるかを判断するが、その場で止めたほうが良かったのか、ロールバックするかの判断精度を上げていく必要がある」と述べた。
こうした接触プレーの判定に関する取り組みは、世界共通のサッカー競技規則の解釈を見直すものでも、昨季までの判定基準を大きく変えるものでもない。あくまでも判定精度を高めるという目的に沿い、近年のJリーグで課題に挙がっていた「ノーファウルをファウルとしてしまう例が多い」という問題を改善するための取り組みのはずだった。
▼「判定基準」と「アクチュアル・プレーイング・タイム」にまつわる誤解
ところが、この議論は現在「判定基準が大きく変わる」という誤解につながっている。
ファウルは競技規則のみに基づいて判断されるものであり、文言上一定のグレーゾーンはあるものの、これを逸脱するようなプレーや行為は当然罰されるのが大原則。すなわち、判定基準というものはグレーゾーンの幅を示すものであって、その幅を狭めることで判定の安定性を高めることはできても、大きく動かせるようなものではない。
ただ、現状ではチーム関係者やファン・サポーターにも「判定基準の変化」として広く知られることとなり、その結果、ブリーフィングで例が挙がったような判定ミスも「新たな判定基準」として受け止められてしまうという問題が起きている。
この点について佐藤マネジャーは「レフェリーが吹かなかったものについて、去年までなら『ミスをした』というニュアンスで掴めたものが、『これもノーファウルなのか』となっていくのは良くない」と危機感を吐露。誤解を避けるためにも、あらためてピッチ上での判定精度を高めていくことの必要性を強調した。
また今季の判定を巡っては、もう一つの大きな誤解が生まれている。Jリーグが今季推し進めている『アクチュアル・プレーイング・タイム』(※実際にインプレーでボールが動いていた時間を表す指標)を伸ばす取り組みに関する議論と混同された結果、公式中継の放送内などで「アクチュアル・プレーイング・タイムを伸ばすために判定基準が変更されている」という言及がなされている。
この件に関しては扇谷健司審判委員長がブリーフィングの冒頭で言及。「我々は決してアクチュアル・プレーイング・タイムを伸ばすために何か判定を変えたということは一つもない。決して競技規則が何か変わったわけでもないし、意図的に時間を伸ばすためにファウルを取らないということは決して言っていない」と異例の釈明を行い、今季の判定に関する取り組みに込めた意図を次のように語った。
「我々審判員だけじゃなくてJFAやJリーグを含め、全体の判定の標準というものを上げていきたい思いはある。2050年までにワールドカップで優勝するという目標がある中で、我々審判員にとってもそれは非常に新たなチャレンジになっている。その中で、まず我々がレフェリーたちに伝えているのは『反則じゃないものに笛を吹くのはやめよう』ということ」
「レフェリーはピッチでベストを尽くしてくれていますが、振り返ったときにどうしても『この反則に(笛を)吹くのか』『これって何の反則なのか』ということが少なからずあった。標準を上げていく中で『反則じゃないものに笛を鳴らすことはやめよう』。そういったところにあらためてトライしようということをレフェリーたちには伝えている」
「ただ逆に言うと、反則には当然反則の笛が吹かれるべきで、反則でプレーを流すのであればアドバンテージが本来採用されるべき。ただ、残念ながら試合の中で本来は反則を取られなきゃいけないものに笛が吹かれなかったものが何回かあった。それに関しては今季、急に笛を吹けなくなったわけではなく、今までも反則であるにもかかわらず(ミスで)笛が鳴らなかった場面はあった。先日のPRキャンプでもレフェリーたちには『反則であるものには反則を取りましょう。プレーを続けさせるのであればアドバンテージをしっかり示しましょう』と。『その中でやはり反則ではないものには笛を吹かない。その見極めをしっかりしましょう』ということを伝えている」
今回の混乱は公式中継で試合を見るファン・サポーターだけでなく、ピッチ上の選手のリアクション、そして選手とコミュニケーションをする審判員にも影響をもたらしているとみられ、対策は必至。扇谷委員長は「大事なのはコミュニケーションだと思う」と対話に乗り出す構えだが、各クラブやファン・サポーターに向けた発信も求められそうだ。
(取材・文 竹内達也、加藤直岐)
この日のブリーフィングでは、元国際主審でJFA審判マネジャーの佐藤隆治氏が実際の映像を用いて、実際のノーファウルで正しかった場面、本来はファウルとされるべきだった場面についてそれぞれ説明。本来はファウルとされるべき場面として、大宮対山形での大宮選手によるプッシング(前半7分)、横浜FM対新潟戦での新潟選手のホールディング(後半45+6分)、神戸対京都戦での京都選手の足裏でのスライディング(前半45分)などを挙げた。
こうした接触プレーに関する判定ミスが続いた背景には、今季のJFA審判委員会が判定精度向上の一環として掲げている「ノーファウルに笛を吹かない」という重点項目があったとみられる。
JFA審判委員会は昨季までもJリーグの各節終了後、すみやかに判定に関する分析を行ってきた中、Jリーグとのディスカッションを経て課題に挙がったのは「ノーファウルとされるべき接触プレーで笛が吹かれている」という点だった。こうした課題を受け、今季は開幕前から各審判員に向けて「期待する判定がノーファウルだよねというコンタクトプレーは自信を持ってノーファウルにしていこう」(佐藤マネジャー)といった意識の共有がなされていた。
ところがその結果、今季は本来ファウルとされるべき場面が見逃され、ノーファウルとなる事例が頻発。いわゆる「針が逆に振れる」という状況となっていた。佐藤マネジャーはこうした現状について「まずは(場面を)見ることが大事」というレフェリングの原点を強調。審判員には「プレーを続けるんだ、ファウルを取らないんだという考えが邪魔をしているようであれば大きく考えなくていい」と伝えたことを明かした。
また佐藤マネジャーは、足裏タックルなどのラフプレー以外でもイエローカードが出されるべき場面で出されない例があったことも指摘。具体的な事例としては広島対横浜FC戦の後半18分、最終ラインの背後に抜け出そうとした広島の選手が横浜FCの選手にユニフォームを引っ張られて止められた場面を挙げた。
この場面はボールのないところで反則が行われたため、主審ではなく第4審のサポートで反則が確認されたが、大きなチャンスの阻止によるイエローカードが提示されていなかった。佐藤マネジャーは「(今年は)ファウルを取らないという空気が流れている中、警告の基準も甘くなったと誤解されていたら一切そんなことはない」と断言。「必要であれば警告を出す、必要でないものにはカードを出さない。その精度を高めていこうと話している」と語った。
さらに佐藤マネジャーは、ファウルを受けた攻撃側に与えられるアドバンテージが適切に運用されていない点についても指摘。開幕節の大阪ダービーなど適切な運用でゴールにつながる場面も見られた一方、攻撃側の選手が倒れたことで数的不利での攻撃を強いられる例が散見される中、「アドバンテージはファウルを受けた側のチームにとって利益になるかを判断するが、その場で止めたほうが良かったのか、ロールバックするかの判断精度を上げていく必要がある」と述べた。
こうした接触プレーの判定に関する取り組みは、世界共通のサッカー競技規則の解釈を見直すものでも、昨季までの判定基準を大きく変えるものでもない。あくまでも判定精度を高めるという目的に沿い、近年のJリーグで課題に挙がっていた「ノーファウルをファウルとしてしまう例が多い」という問題を改善するための取り組みのはずだった。
▼「判定基準」と「アクチュアル・プレーイング・タイム」にまつわる誤解
ところが、この議論は現在「判定基準が大きく変わる」という誤解につながっている。
ファウルは競技規則のみに基づいて判断されるものであり、文言上一定のグレーゾーンはあるものの、これを逸脱するようなプレーや行為は当然罰されるのが大原則。すなわち、判定基準というものはグレーゾーンの幅を示すものであって、その幅を狭めることで判定の安定性を高めることはできても、大きく動かせるようなものではない。
ただ、現状ではチーム関係者やファン・サポーターにも「判定基準の変化」として広く知られることとなり、その結果、ブリーフィングで例が挙がったような判定ミスも「新たな判定基準」として受け止められてしまうという問題が起きている。
この点について佐藤マネジャーは「レフェリーが吹かなかったものについて、去年までなら『ミスをした』というニュアンスで掴めたものが、『これもノーファウルなのか』となっていくのは良くない」と危機感を吐露。誤解を避けるためにも、あらためてピッチ上での判定精度を高めていくことの必要性を強調した。
また今季の判定を巡っては、もう一つの大きな誤解が生まれている。Jリーグが今季推し進めている『アクチュアル・プレーイング・タイム』(※実際にインプレーでボールが動いていた時間を表す指標)を伸ばす取り組みに関する議論と混同された結果、公式中継の放送内などで「アクチュアル・プレーイング・タイムを伸ばすために判定基準が変更されている」という言及がなされている。
この件に関しては扇谷健司審判委員長がブリーフィングの冒頭で言及。「我々は決してアクチュアル・プレーイング・タイムを伸ばすために何か判定を変えたということは一つもない。決して競技規則が何か変わったわけでもないし、意図的に時間を伸ばすためにファウルを取らないということは決して言っていない」と異例の釈明を行い、今季の判定に関する取り組みに込めた意図を次のように語った。
「我々審判員だけじゃなくてJFAやJリーグを含め、全体の判定の標準というものを上げていきたい思いはある。2050年までにワールドカップで優勝するという目標がある中で、我々審判員にとってもそれは非常に新たなチャレンジになっている。その中で、まず我々がレフェリーたちに伝えているのは『反則じゃないものに笛を吹くのはやめよう』ということ」
「レフェリーはピッチでベストを尽くしてくれていますが、振り返ったときにどうしても『この反則に(笛を)吹くのか』『これって何の反則なのか』ということが少なからずあった。標準を上げていく中で『反則じゃないものに笛を鳴らすことはやめよう』。そういったところにあらためてトライしようということをレフェリーたちには伝えている」
「ただ逆に言うと、反則には当然反則の笛が吹かれるべきで、反則でプレーを流すのであればアドバンテージが本来採用されるべき。ただ、残念ながら試合の中で本来は反則を取られなきゃいけないものに笛が吹かれなかったものが何回かあった。それに関しては今季、急に笛を吹けなくなったわけではなく、今までも反則であるにもかかわらず(ミスで)笛が鳴らなかった場面はあった。先日のPRキャンプでもレフェリーたちには『反則であるものには反則を取りましょう。プレーを続けさせるのであればアドバンテージをしっかり示しましょう』と。『その中でやはり反則ではないものには笛を吹かない。その見極めをしっかりしましょう』ということを伝えている」
今回の混乱は公式中継で試合を見るファン・サポーターだけでなく、ピッチ上の選手のリアクション、そして選手とコミュニケーションをする審判員にも影響をもたらしているとみられ、対策は必至。扇谷委員長は「大事なのはコミュニケーションだと思う」と対話に乗り出す構えだが、各クラブやファン・サポーターに向けた発信も求められそうだ。
(取材・文 竹内達也、加藤直岐)
