岸信千世氏(写真・時事通信)

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 父は防衛大臣を務めた岸信夫、伯父は安倍晋三元首相、曽祖父は岸信介元首相ーー。政界では“最強の世襲候補”と呼ばれる岸信千世候補が危機に立たされているという。

「今回の選挙で山口2区から出馬していますが、旗色がわるいんですよ。もちろん統一教会問題と裏金事件という“2つの逆風”で、どこの自民党候補も苦労しています。とはいえ、“最強”と称される岸氏が、僅差とはいえ立憲民主党の平岡秀夫候補を追う展開になっているのは意外です。

 平岡候補は旧2区の大票田である岩国市の出身。地元の岩国高校から東大法学部卒後財務省に入った元官僚で、弁護士資格を持つエリート。2012年の総選挙から補欠選挙を含めて自民党の候補に4連敗をしているとはいえ、着々と支持者を増やしています」(政治部記者)

 実父である岸信夫元防衛相が、健康問題を理由に引退し、昨年の補欠選挙で政界デビューを果たした岸氏。だが、それも約42%という低投票率ながら、平岡氏とたったの6000票差という薄氷を踏むような勝利だった。

「信千世さんは、裏金問題には直接関わっていないものの、信夫さんの政治団体には2年間で30万円のキックバックがありました。平岡さんは『裏金世襲』だと批判を強めています。有権者にとっては、かなり響くワードですよね」(同前)

 岸氏は慶応大学卒業後にフジテレビに入社。報道局社会部記者として勤務していた2019年9月、京急線の衝突脱線事故の現場中継では、大失態を演じている。

「夕方のニュースでのことです。スタッフから岸さんに中継開始の合図が出ているのに押し黙ったまま、口を真一文字に閉じて、硬直してしまったんですよ。結局、スタジオに切り替わるまでの約30秒間で岸さんが伝えたのは、現場が京急線の踏切であるということだけ。てっきり原稿を紛失したかのかと思いましたが、手にしっかり握っていました。フジのスタッフによれば、初中継にてんぱっただけということでした」(現場スタッフ)

 地元後援会関係者は、肩を落としてこう嘆く。

「性格の良い好青年です。これは間違いない。しかし、見慣れた相手でないと上手く話せないようです。慣れてくれば変わるとは思いますが、選挙は始まってしまいましたからね……。とにかくボロを出さないために、街頭演説を極力少なくして、選挙カーからの手振り挨拶を中心にしています。

 今日だって、平岡候補は駅とか商店街とか、聴衆の集まるところで街頭演説をする一方、ウチは山間部を車で回りました。夜には講演会が入っていますが、その前まで2時間も休憩タイムを取っているんですよ。夕方は人出があるので、絶好の街頭演説チャンスなんですけどね……。そういう“サボり癖”も気がかりです」

 岸候補の場合、比例中国ブロックに重複立候補しているので、仮に小選挙区で落選しても比例復活の可能性は残されている。しかし万一、岸候補が比例復活もできなかった場合、「自民党山口県連は大混乱に陥るでしょうね」と、前出の後援会関係者はこう続けた。

「中国ブロックは名簿順4位までが優遇候補です。4位は山口3区から比例に回った吉田信次候補。石破茂首相と岸田文雄前首相がいる中国ブロックですが、やはり逆風が吹いているのは間違いない。比例区当選は、安倍政権下の選挙だった2021年でも6人。甘く見積もって、5人当選は確保できたとして、小選挙区からの比例復活は1人だけになります。鳥取県、島根県は大丈夫だとして、岡山県や広島県では、取りこぼす可能性があります。いずれにせよ、残された枠は狭い。

 もし、吉田さんが当選して岸さんが落選なんてことになれば、比例復活の順位によっては吉田さんに早々に辞任圧力もあるでしょう。自民党政治家からすれば、“岸家を落とす”なんてことはできませんから。いずれにせよ、遺恨を残しますよ」

 しばらく休んでいる暇はなさそうだ。