いくら注意しても免許返納しない90歳男性が起こした交通事故とは ※画像はイメージです(kazoka303030/stock.adobe.com)

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75歳以上の高齢者運転による死亡事故は、内閣府のデータによると、ハンドルやブレーキなどの操作ミスが28%と高い割合を占めます。そのため日本では、報道などでも特集されることが多い高齢ドライバーの事故予防として、運転に不安を感じる人が自主的に運転免許証を返納する「自主返納」の制度を呼びかけています。しかし免許返納をすることなく車を運転し続け、悲しい事故を起こしてしまうことも少なくありません。

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そんな悲しい事故のひとつとして、免許返納を家族から促されつつも、かたくなに返納を拒否した結果、交通事故を起こしてしまった90歳男性について、その家族から話を伺いました。

彼の家族構成は、65歳の息子とその妻(63歳)の3人暮らしで、彼は認知症の症状が出始めていたことから、息子夫婦から何度も免許を返納するよう促されていました。しかし彼は昔ながらの頑固な性格から首を縦に振らず、息子夫婦は困り果てていたそうです。その後、彼が交通事故を起こしてしまうまでの詳しい状況を息子さんに教えていただきました。

――お父様はどれくらい運転が危ない状態だったのでしょうか。

90代の父親は昔ながらの強気な性格の人で、「俺は大丈夫」と言ってかたくなに免許返納を拒んでいました。けれど実際は物覚えが悪くなり足腰も弱くなっていて、運転している様子はとても見ていられないくらい危なっかしい様子だったのです。あまりにも危険だったので私が車の鍵を預かって運転させないようにしていました。

――普段は運転させないようにしていたのに、なぜ交通事故は起きてしまったのですか。

ある日、私が外出中に車を運転したことが原因です。車の鍵は私と妻の寝室の貴重品入れに隠していたのですが、探し出されてしまいました。今となって思うのは、外出時でも車の鍵を持ち歩くべきでした…。

――事故の事実を知ったのはいつでしたか?

警察からの電話で知りました。「人をひいたので来てほしい。酒を飲んでいるようだ」と言われました。慌てて現場に行くと、へらへらと笑いながら警察官と話す父の姿と、ミラーが無くなった車がありました。

――本人はご無事だったのですね。どのような事故だったのでしょうか?

歩道のない道路で、歩行者が歩く部分を走行してしまい、対向して歩いてくる歩行者の身体にぶつかってしまったようです。酒気も帯びていましたが父は「俺はスピードを出していない。向こうが寄ってきた。酒は少し飲んだだけ」と言い訳ばかりで悪びれない様子に、心底腹がたって怒鳴ってしまいました。

ドライブレコーダーを見ると、明らかに父が歩行者寄りで走っていて、スピードは60キロくらい出ているようでした。ドライブレコーダーを見ても父は「俺は悪くない」と認めません。そのため認知症を疑われましたが、数値としては悪くなく、結果として相手方は左腕骨折で長期入院、父は100万円の罰金を命じられました。

――鍵の管理など対策をしていても、人身事故の発生を避けられなかったのですね。

相手方が私の息子の所属する野球チームの関係者だと判明し、謝罪に伺った際にはひどく叱られました。また、息子もチームに居づらくなり移籍することになり、免許を返納しなかったために、息子にも迷惑がかかってしまいました。

――最終的には、どのような解決となりましたか?

この事故を機に免許を返納させ、車を売って罰金を支払わせました。私は何度も警察署や検察庁、相手方のお見舞いなどに行き会社を休んだため、みなの知るところになり、社内でも居心地が悪くなりました。この事故をきっかけに父は弱り、急に年老いて完全に歩けなくなりました。正直なところ、迷惑をかけておいて急に介護が必要となっても、私も妻も看る気になれないのが本音です。

――免許返納の話し合いは、何歳ごろから何回程度されましたか?

父が65歳になったころから私が父の代わりに運転するようにしていました。しかし父が70歳のころに母が他界し、寂しくなったのか再び車で出かけるようになったのです。

80歳を超えたころから認知症が出はじめ、それをきっかけに返納について何度も話すようになりましたが、その話をすると怒り出すので話し合いにもなりませんでした。何度も話したので回数はわからないほどです。

――事故後の免許返納について、本人は納得されましたか?

最後まで納得していませんでした。車を売りましたので、乗り物がなければ持っていても仕方ないと観念しただけでした。

免許返納は本人が納得しない場合、解決が困難な問題です。また、免許返納の落胆による認知症や、うつ病の対策にも配慮する必要があります。しかし人身事故に発展する可能性もあるため、車の売却など強制的に運転できない状況を作る事も選択肢になるといえるでしょう。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)