@AUTOCAR

写真拡大 (全6枚)

最大100台が手作業で作られるFCEV

自動車ジャーナリストの仕事をしていると、未完成の試作車へ乗る機会も少なくない。技術開発の実験的な車両となると、市販できそうな訴求力を備える例は極めて珍しい。

【画像】市販できそうな訴求力 BMW iX5 ハイドロジェン 他メーカーのFCEV BEVのiXも 全138枚

今回試乗したBMW iX5 ハイドロジェンは、そのレアなケースに当てはまった。もっとも、課題は残っている。700barの圧力が掛かり、マイナス40度へ冷やされたカーボンファイバー製タンク内へ、6kgの水素を補充しなければ走ることができない。


BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)

満タンの状態で、iX5 ハイドロジェンは最長503kmを走れるが、欧州には水素ステーションが殆どない。日常的に乗れる人は限られる。

同社は、水素エネルギーへの関心が工業界全体で高まれば、クルマの燃料としても普及し得ると考えている。水素ステーションが整備されれば、課題は克服できなくない。

あくまでも想定ながら、BMWは現実味を帯びた時に備えて、技術的な準備を進めている。水素燃料電池車(FCEV)のiX5 ハイドロジェンが生まれた理由だ。

ドイツ・ミュンヘンのワークショップで、手作業によって組み立てられ、最大でも100台に数は限定される。過去には、BMW 1シリーズをベースにしたバッテリーEV(BEV)、アクティブEが作られたのと同じ場所だという。

そこから画期的なシティカーのi3だけでなく、i4やiX、iX1、i7というBEVが導かれた。iX5 ハイドロジェンも、将来の礎になる可能性はある。

駆動用モーターは401psと72.3kg-m

今回試乗したのは、ベルギー・アントワープ周辺の一般道。実際に運転してみて、BMWの水素燃料電池技術は、まったく不備がないように感じられた。既存のBEVと変わらず走る。

既に市販されているトヨタ・ミライやヒョンデ・ネッソといったFCEVと同様に、強固なタンクから燃料電池スタックへ水素が送られ、電気が生成される仕組みは同じ。ちなみに、このスタックはトヨタ製だという。


BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)

得られた電子は、電気になり駆動用モーターとバッテリーへ送られる。一方、分解された水素イオンは大気中の酸素と結合し、H2Oの水を生み出す。御存知の通り、この過程でCO2は生まれない。

iX5 ハイドロジェンの場合、駆動用モーターはリアアクスル側に1基。BEVのiX xドライブ50が積むユニットと、基本的には同じだそうだ。滑らかに回転し、レスポンスは良好。X5としては初の、純粋な後輪駆動でもある。

燃料電池単体では約170ps相当の電気を生成し、リチウムイオン・バッテリーが鋭い加速に必要な電気を補う。この駆動用バッテリーがないと、水素を分解し電気を生み出す過程が介在し、加速に遅れが生じる。充分な出力も得られない。

結果として、駆動用モーターが発揮する最高出力は401ps。最大トルクは72.3kg-mになる。BMWが製作したFCEVとしては過去最強とのこと。ただし車重は2460kgもあり、加速力は驚くほどではない。たくましく速度を高めていく。

フロントが軽くコーナリングが得意

インテリアは通常のX5に通じる。BMWのBEVが採用するような、ブルーのアクセントが内装トリムに与えられる程度の差しかないようだ。

メーターパネルのモニターには、水素の残量と、燃費に相当する100km当たりの水素の消費量が表示される。試作車的な荒削り感はなく、すべてがキチッとまとまっている。


BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)

筆者は2時間ほど試乗したが、平均燃費は1.6kg/100kmだった。2本の水素タンクが満タンなら、約375km走れる計算になる。

郊外の一般道でペースを速めると、落ち着いた操縦性へ気が付く。ステアリングの感触や反応も鮮明。恐らく、フロントのドライブシャフトを取り外した恩恵だろう。

アルミ製ケースで覆われた水素燃料電池スタックは、ボンネット内に収まる。カーボン製カバーで姿は確認できないが、直列4気筒ターボエンジンと同等の小ささと軽さに収まるそうだ。

つまりフロントが軽く、iX5 ハイドロジェンはコーナリングが得意。前方に重量物が載った大きなクルマのような、ぎこちなさはない。X5らしいマナーで、流れるようにラインを縫っていく。

パワートレインの反応を引き締められる、ドライブモードも備わる。ただし、システムの最高出力に変化はない。サスペンションはエアスプリングで、前後の重量配分は50:50に近いという。

高速域での印象も洗練されている。FCEVの派生モデルが誕生するなら、運転も楽しめる高速サルーンという方向性もゼロではないだろう。うれしい発見だ。

BEVより確実に勝る点も複数ある

走行中に車内で聞こえるノイズはBEVへ近いものの、パワートレインが発する高音の唸りが気になる場面もあった。信号待ちでは少々目立つようだった。

荷室は、フロア下に積まれた駆動用バッテリーの影響を受けている。とはいえ、プラグイン・ハイブリッドのX5 xドライブ45eと変わらないから、実用性を大きく減じるほどではない。


BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)

FCEVが、BEVより確実に勝っている点もある。1つ目は、寒い季節でも航続距離が縮まらないこと。またiX5 ハイドロジェンなら、最短4分でエネルギー補給を終えられる。

ドライビング体験は淡白で、価格も今のところ安くはない。それでもクリーンに走り、充分速く、質感は洗練されている。

BEVと比べて、レアアースの使用量も少ないという。水素燃料電池スタックにはプラチナが用いられているが、内燃エンジン車の触媒コンバーターを2台分リサイクルすれば、1台分を得られるそうだ。

量産車のラインナップに加われる完成度

iX5 ハイドロジェンはBEVに伍する選択肢として、量産車のラインナップに加われる完成度にあると感じた。内燃エンジンとは異なり走行中はCO2を排出せず、駆動用バッテリーより短時間でエネルギー補給できる。

BMWはこの開発に4年を費やしたが、水素ステーションなど外的な要因もあり、市販予定はないという。インフラ次第では今後ショールームに並ぶことを否定しないが、最短でも2020年代の後半だと予想されている。


BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)

ちなみに日本には、既に161か所の水素ステーションがある。今後1000か所へ増やす計画も立てられている。市販化が絵空事とはいえない。

実際に試乗してみて、詳しく考えるほど、BMWがFCEV開発へ取り組む理由が見えてくる。課題もあるが、普及しないことが不思議にすら思える。

BMWには、グループ5レースを前提にしたスーパーカー、M1を開発し、目立った見返りを得なかった過去がある。だが、これは偶然の結果といえた。iX5 ハイドロジェンは、同じ道を歩むことになるのだろうか。時間が見通しを切り開くのかもしれない。

BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)のスペック

英国価格:−
全長:4922mm
全幅:2004mm
全高:1745mm
最高速度:185km/h
0-100km/h加速:6.0秒以下
航続距離:503km(WLTP値)
燃費:1.19kg/100km(H2)
CO2排出量:−
車両重量:2460kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
使用燃料:水素
最高出力:401ps
最大トルク: 72.3kg-m
ギアボックス:−