Photography:Ryota SATO

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「トーマス・インゲラート氏は、いい仕事をしてるなあ」と、心の中でつぶやいてしまった。

今回、「V60 T8 ポールスター・エンジニアード」を青森でのテストに連れ出したときの第一印象だ。ここで少々、歴史を繙くと、ボルボのインハウスチューナー的な存在であったポールスターが、電動車のブランドとして生まれ変わったのは2017年のことだ。その際にCEOに就任したのが、当時、ボルボのデザイン部門の上級副社長であったトーマス・インゲラート氏であり、デザイナーが企業のトップになるということが珍しいだけに、大きな注目が集まった。筆者自身、2018年のジュネーヴ・サロンで同社の第一弾となるコンセプトカー「ポールスター1」の発表を目にしたが、その際すでにインゲラート氏は、世界基準の電動車の開発と顧客視点でのサービスの提供に言及していたのが印象的だった。

雪道で走らせるボルボ

ボルボの故郷である北欧は、ノルウェーのようにEV/PHVの普及策を敷く国もあって、急速に電動化の波が押し寄せている。スウェーデンでは環境大臣が2030年までにエンジン車を廃止すべきと発言し、自動車大国のドイツでは2030年までのエンジン車廃止が連邦政府として採択されている。イギリスでも2035年までのエンジン車廃止をボリス首相が宣言、フランス政府も2040年までのエンジン車廃止を発表している。パリ協定を反故にしたアメリカですら、カリフォルニア州でもエンジン車の販売を禁止する動きが出ている。

そうした欧米での動きを受けて、ポールスターのみならず、ボルボ・ブランドとしても、2019年以降発表される全モデルで電動化を発表しており、電気自動車、プラグイン・ハイブリッド、マイルドハイブリッドを全ラインナップに用意する。さらに、21年までにポールスターのハイパフォーマンスモデルを2台、ボルボ・ブランドから3台、合計5台のフル電動モデルを発売する方針もアナウンス済みだ。懸命な読者ならご存知の通り、ボルボの乗用車部門は2010年に吉利汽車から資本を受けた後、電動化、コネクテッド、自動化、サービスといった次世代につながる研究開発に投資をして、着実に現代的にアップデートしている。ここで挙げた電動化のみならず、自動運転におけるUberとの提携、ライダーのスタートアップへの投資、アマゾンとの提携など、枚挙に暇がない。さて、座学はこのくらいにして、そろそろ走り出そう。

重厚なドアを開けて、ドライバーズシートに滑り込む。濃い漆黒のボディカラーにブラッククローム仕上げのエンドパイプにといった”ワルそう”なエクステリアに対して、室内はテキスタイルとレザーを組み合わせたチャコール・グレーと落ち着いた印象を受けるが、ゴールドのシートベルトがアクセントになっており、この車が特別なモデルであることを強調している。ステアリングホイールの背後にあるパドルシフトもまた、ポールスターエンジニアード専用にデザインされている。

スタートボタンを押すと、エンジンが目を…覚まさない。PHVゆえに、二眼の液晶メーターを見てようやく、この車が静かに目覚めていることがわかる。セレクターをDレンジに入れて、アクセルを踏み込む。町中でのスムーズなスタートは、電動モデルならではだ。信号でのストップ・アンド・ゴーでも気持ちよく加速してくれる。

正直、事前に耳にしたスペック、具体的には「ポールスター独自のエンジンマネジメントシステムを搭載し、ターボおよびスーパーチャージャー付き2リッター直4エンジンと電動モーターを組み合わせたパワフルなハイブリッド機構を搭載する」と聞いていただけに、あまりにもお行儀のよい走り出しに、少々、拍子抜けしてしまった。むしろ、EV走行時にはリアモーターを使うため、しっとりと上品な乗り味といってもいい。スペックから、いかにもパワフルな走りを想像すると拍子抜けするが、ボルボの流儀に則って、粗野なところがなく、ドライバーの制御下に車があることが重視されている。

一方、郊外に向けて舵を切ったとたん、この車がスポーティな走りのためにしつけられたことが体感できるのも面白い。郊外の流れのいい道では、リアへの荷重を重視していることもあって、2335kgと重量級のボディをパワフルにゆったりと押し出すような余裕のある走りっぷりだ。 ワインディングロードに連れ出すと、全長×全幅×全高=4760×1850×1435mmのスリーサイズから想像するより、思いの外、軽やかな身のこなしに驚く。フロントに46ps、リアに87ps/240Nmを生む電気モーターを搭載しており、2リッターエンジンとの組み合わせにより、最高出力333ps/最大トルク430Nmを発揮する。

同時に、前後の電気モーターが適切にトルクを発揮することもあって、コーナリング時に安定した姿勢を保てるのだ。ポールスターエンジニアード専用となるオーリンズ製DFVダンパーを備えている点も特筆すべきだ。ある程度のロールを許容しながらも、入力をしっかりと収束させてくれる。スポーティな走りに十分に対応すると同時に、日常的な走行シーンでの乗り心地も十分に担保されている。足元に目を向けると、6ピストンのブレンボ製ブレーキキャリパーとベンチレーテッドディスクブレーキを採用し、235/40/R19とハイトの低いタイヤを履くが、こちらも突き上げられる感覚はほとんどない。

走行モードのうち、ポールスターエンジニアードモードを選べば、アクセル、ステアリング、トランスミッションの応答性が高まり、ESCもスポーツモードとなり、リア寄りのトルク配分を行う。スタッドレスタイヤを履いた状態ゆえに、走行性能の評価を下すのは早計だが、なかなかの実力があるだろうことは想像させる。

今回、八甲田山の麓というテストステージだったこともあって、雪道でも十分に試すことができた。PHVモデルとして開発されたSPAなる新型プラットフォームでは、リアの電気モーターがオンデマンドでアシストする電動4WDを採用している。それもあって、悪路走破性に疑問を持つ声もあるが、実際に雪上を走ってみて、その心配はほぼないと断言できる。重量級ボディということもあって、下り坂では後輪が滑るシーンがあるのは否めないが、ステアリングホイールに伝わってくるインフォメーションが豊かで、全域でコントロールブルな印象だ。SPAプラットフォームでは、重量物であるリチウムイオン電池を車両の中央に配置して、ボディ剛性も強化していることなどが、ドライ路面ではもちろん、雪上での運動性能にも良い影響が現れている。

ウェブサイトでの記事とはいえ、与えられた紙幅では魅力を伝え切れないのが残念だが、ネットでの限定販売で900万円を超えるプライスタグを掲げているにもかかわらず、応募開始から1時間以下で完売だったという事実も含めて、”いい仕事をしている”車といえるだろう。

文:川端由美  写真:佐藤亮太

V60 T8 ポールスター・エンジニアード
ボディサイズ:4760×1850×1435mm
ホイールベース:2870mm
車両重量:2050kg
排気量:1968cc
エンジン:直列4気筒DOHCターボ(333ps/6000rpm、430Nm/4500rpm)+モーター(フロント22kwW/リア28kW、フロント160Nm/リア240Nm)
変速機:8段AT
駆動方式:4WD
車両価格:919万円

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