5コ下の彼との初デート。年下男が放った一言で、35歳女の心に春が訪れた瞬間
男性がひとりで外食するのは受け入れられているのに、未だに世間では、女性がひとりで外食するとなると敷居が高い。
しかし最近、女がひとりでも気軽に入れるハイセンスなお店が増えているのをご存知だろうか。
広告代理店に勤務する桜木佳奈も、最初は「女性ひとりでご飯なんて」と躊躇していた一人だ。
時は、2019年。35歳の佳奈は、婚活に奮闘していた。
だが、涙のラザニアや、多様性溢れるウニのクロスティーニなど“女ひとり飯”をしていくうちに、年下の賢人と出会い、人生も回り始めていき…。

「んんーこれは違うかな…でもこっちだとちょっと老けて見える?」
さっきから私は、クローゼットと鏡の前を何往復しているのだろうか。
今日は、待ちに待った賢人とふたりでご飯へ行く日。それなのにさっきから、洋服が全く決まらないのだ。
いつからだろう。少し前まで似合っていた洋服が、突然似合わなくなったのは。
膝上のスカートは急に野暮ったく見え、ちょっとしたプチプラ服は(20代の頃は似合っていたはずなのに)、急に素材のアラが目立つようになり、本当にチープに見えてしまう。
年齢でカバーできない今、勝負すべきはいかに上質な洋服を選ぶかにかかっている。値段よりも重視すべきは、“素材感”なのだ。
そんなことを痛感しながら、私は2時間近くコーディネートを悩んでいた。
「綺麗なお姉さんって感じがいいのかな…」
結局私はBORDERS at BALCONYのワンピに、ジュゼッペのピンヒールで、約束のお店へと向かった。
ドキドキの初デートで言われた、驚きの一言とは!?
年下くんとのしっぽり初デート。
賢人が予約してくれたのは、広尾にある和食店だ。
広尾駅からガーデンヒルズ方面を目指し、坂を上がって静かな高級住宅街を歩く。西麻布交差点からも近いけれど、この辺りはいつ来ても凛とした静けさに包まれている。
店にたどり着いた私は、“ふぅ”と小さく息をしてから扉を開けた。

「あれ。カナさん、意外にオンタイムなんだね」
少し早めに来たつもりだったが、賢人はすでにお店に着いていて、私の方も驚いた。
「賢人くんの方こそ。勝手に、遅刻するキャラだと思ってた(笑)」
「ひどいなぁ。意外に時間にはちゃんとしてるんで」
ちょっと癖っ毛で少年のような雰囲気もありながら、大人びた表情で笑う賢人。このギャップは、本当に反則だと思う。
今日で彼と会うのは3回目だが、きちんと約束をして会うのはこれが初めてだ。
ーこれって一応、デートということでいいんだよね…?
そう思ったけれど、口に出すのは野暮過ぎてさすがに聞けなかった。
「カナさん、嫌いな物は?」
カウンター席の柔らかい間接照明が、メニューに目を落とす彼の顔をぼんやりと照らしている。女性の私から見てもうっとりするほどの、綺麗な横顔だった。
「私は何でも大丈夫。賢人くんは?」
「僕はね、ピーマンが苦手で」
「嘘でしょ?子供みたい」
どうでもいい会話が、楽しくて愛おしい。恭平と別れてから何度かデート(という名の婚活)をしたものの、正直に言うとどこか無理をして笑顔を作っていた。
けれども、今日は自然と笑みがこぼれていく。
「そういえば賢人くんって何歳なの?」
「僕?今年で30歳だよ」
-そうか…5歳年下か…。
レモンサワーのレモンが、急に酸っぱく感じる。20代半ばくらいだと思っていたので想像より年齢が上でホッとしたが、それでも5歳も年下だ。
だが、少し気を落としている私に気がつく素振りもなく、賢人は出てきた筍を美味しそうに食べている。
「あれ?私の年齢とか、聞かないの?」
ホクホクの筍がよっぽど美味しいのか、彼は満面の笑みになっている。もはやそっちに夢中で、私の話なんてどうでも良いのだろうかと思っていた。
ところが賢人は、私の予想を見事に裏切ってくれたのだ。
「え?年齢?そんなの、必要だっけ。カナさんがカナさんでいるならば、それでいいじゃん」
「え…」
急に、肩の荷がスーッと下りていく。
年齢に縛られて勝手に窮屈になっていた私。その制限をかけていたのは誰でもない、自分だった。
「そっか。そうだよね。これ、美味しいね」
大きな筍と共に、私の心にも春が訪れたようだ。
いい感じに進むデート。しかしこの後まさかのアッサリと…!?
「あ〜美味しかった!!」
お腹も心も満たされてお店を出ると、目の前の道路を走る車のヘッドライトがまぶしくて、思わず顔をそむける。
「まぶし…」
不意に強い光に照らされて立ちくらみを覚えたが、私の体はふらついていない。ところが、ふと顔を上げた瞬間、賢人がさっと抱き寄せてくれたのだ。
「カナさん大丈夫?危ないよ…」
「だ、だいじょうぶ」
慌てて賢人から離れたけれど、私の心臓は超高速スピードで脈を打っていた。こんなにも心拍数が上がったことは、ここ数年間、仕事以外でない気がする。
-ちょっと待って、なにこの展開。どうしよう。え?これって、どうするんだっけ?“もう1軒行こう”って私から誘うんだっけ?
新規の恋愛なんて久しぶりすぎて、完全に恋愛の方法を忘れている。しかし焦る私とは対照的に、賢人はアッサリとこう言ったのだ。
「もう1軒行きたいんだけど、俺、ちょっと顔出さないといけない所があって。ごめんね」
「え?あ、今から??そうなんだ…」
ガックリと肩を落とす私を見ながら、賢人はクスクスと笑っている。
ー盛り上がっていたのは、私だけだってこと?
そんな私の気持ちを、彼は完全に弄んで楽しんでいる様子だったが、別れ際に紙袋を渡してきた。
「え?何これ?」
「たまたま買えたから、よかったら食べて。今日はありがとう、またね」
賢人がくれたのは、「ホテルニューオータニ東京」の中に入る『パティスリーSATSUKI』の紙袋だった。
◆
幸せ運ぶ『あまおうクロワッサン』
家に帰った私は、さっそく賢人がくれた紙袋を開けてみる。
すると中には、入手困難な事で有名な「あまおうクロワッサン」が入っていたのだ。

「うわぁ…美味しそう」
クロワッサンの上に、贅沢なほどたっぷりとかかっている砂糖のシロップとイチゴのフリーズドライ。見ているだけでも、春の到来を感じられる。
「いただきます」
小さく一礼をし、丁寧に袋から出してお皿に移してから、パクリとかぶりついた。
「えぇ!しっかり中まであまおうの味がする….」
淡いピンク色が可愛らしいクロワッサンを一口かじると、苺の甘さが口いっぱいに広がった。なんとクロワッサンの中央には、あまおうのジュレが隠れていたのだ。

「王者・あまおう」にしか出せない、贅沢な甘みがふんだんに盛り込まれたジュレが、あまおうの砂糖漬けを練り込んだアーモンド生地で巻かれている。
この2層構造によって、 あまおうそのもののリッチな味わいと香りを再現しているのだ。
目を閉じると、脳内にはいちご畑が広がっていく。それほど幸せな気持ちになった。
「幸せだなぁ♡」
外はカリッとしてサクサクの食感が楽しめるのに、中はモチモチとしていてクロワッサン自体も美味しい。サイズは少し大きめだったのにも関わらず、ペロリといけてしまった。
デートだけでも楽しかったのに、家に帰ってからもこんなに素敵なサプライズがあるなんて、最高の金曜夜だ。
ー人生、捨てたもんじゃないかも。
今夜は、心地良い眠りにつけそうだ。明日の朝はゆっくりと起きて、幸せな休日を過ごそう。そんな風に思っていた。
しかし、ベッドに入った途端、ふと最後の賢人の行動が気になり始めた。
「あれ?あの時間から、どこへ行ったのだろう…」
賢人に、彼女がいるのかいないのか。浮かれすぎて、肝心なことを聞くのを忘れていたのだと、今更気がついた。
【今週の婚活ひとり飯】
店名:『パティスリーSATSUKI』
料理:あまおうクロワッサン
〜これまでの婚活ひとり飯〜
1.涙のラザニア
2.出会いのジントニック
3.自信をくれた阿波牛のすき焼き仕立て
4.思い出弾けるスフレオムレツ
5.しっくりくる土鍋ご飯
6.オトナの色気漂うホワイトアスパラ
7.決意の焼肉
8.多様性溢れるウニのクロスティーニ
▶NEXT:4月22日 水曜更新予定
次週、第1章最終話。佳奈は、母親にお見合いをセッティングされてしまうが…。

