獣神サンダー・ライガー引退「僕はもう頂点を狙えない」

平成元年、プロレス界初の東京ドーム大会で誕生したヒーローが、2020年1月、令和初の東京ドーム大会で、リングを去る――。
「こんにちはっ!」
東京・渋谷での取材。撮影のためシルバーのマントを羽織って軽快に移動する、獣神サンダー・ライガー(55)は、すれ違う人々にハスキーな声で “笑顔” を向けていく。
そう、ライガーはマスクマンながら、「喜怒哀楽が伝わる」特別なレスラーだ。
1984年に素顔でデビューし、5年後の1989年、永井豪原作のアニメ『獣神ライガー』のキャラクターに生まれ変わった。「IWGPジュニア王座」など、数々の栄冠に輝き、欧米の選手やファンにもリスペクトされる「世界の獣神」から、次のような言葉が漏れた。
「35年間、大きな怪我なく闘い続けられたのは……ただ、運がよかっただけなんです」
危険と隣り合わせのプロレスにおいて、ライガーのように、大きな怪我なく引退できるのはごく稀だ。それを「運」と言うのなら、運を引き寄せられた秘訣は? そう問うと、少し置いて彼はこう答えた。
「僕の座右の銘は、『なんとかなるさ』なんです。『これ以上、やれることはなにもない。精いっぱいやった!』と思えるところまでやって、天命を待つ。そんなレスラー人生だったのかもしれないですね」
そうして、ちょっと視線を上にやり、昔を振り返った。
「小学6年生で、藤波辰爾さんに憧れて以来プロレスファンで、レスラーになりたいと思い続けていました。しかし身長が伸びず、『180cm以上』が規定の、当時の日本ではダメでした。
ならば、軽量級があるメキシコに渡ろうと決めた。高校3年間はレスリング部の練習と、新聞配達のアルバイトに明け暮れたんです」
「なんとかなるさ」の精神で、17歳で単身、メキシコへ。
「それしかレスラーになる道はないんですから。考えるより、まず行動でした。日本で3つほどの大学から、レスリングで推薦入学の話があったんですが、担任の先生に母が断わりを入れてくれた。息子の夢を信じて応援してくれた、母の存在は大きかった」

メキシコで、当時新日本プロレスのレフェリーだった故・山本小鉄さんを紹介されて直訴、入門が認められた。と、ここまでの経歴はまだ「ライガー」になる前のこと。マスクマン転身の話が舞い込んだのは、英国遠征中の1989年のことだった。
「先に『ライガー』がデビューすることが決まっていて、マスクは最初、武藤敬司選手がかぶる計画だったそうです。その後、船木誠勝選手が候補にあがったが、これも諸事情で流れた。それで、僕のところに打診が来た。僕ですか? 自分の顔にコンプレックスがあったので、二つ返事でOKしました。
帰国して、呼ばれて事務所に出向くと、永井先生の原画が広げられているだけで、準備はゼロ。全身コスチュームを着ることに驚いた(笑)。マスクやコスチュームのデザインからなにから、自分で手配したんですよ」
その後の活躍は、ご存じのとおり。ライガーは、ヘビー級の相手に挑むときも、マスクを破られ怒りの反撃に出るときも、全身に喜怒哀楽がみなぎった。そこにファンは熱狂したのだ。
だが、それから31年、ついにリングを降りる決断をするときが来た。
「3月に、タイトルマッチで石森太二選手に敗れたときに思ったんです。『彼はまだ若く、これから伸びる。でも俺はもう限界……これ以上、伸びしろはないな』って。
『俺はもう、頂点を狙えるレスラーじゃないんだ』って思ったら、心が変わらないうちに、翌日には引退会見をしていました」
引退しても、しばらくして復帰したレスラーは、過去に何人もいる。
「いえ、天龍源一郎さん(2015年引退)に以前、こんなことを言われました。『とにかく腹いっぱいになるまで、レスリングすればいいじゃないか。中途半端なうちに引退するから、また復帰することになる。みっともないと思わないか?』と。いま、僕はもう、本当に『おなかいっぱい』なんです」
1月4日・5日の東京ドーム大会で、リングでの雄姿は見納めになる。
「湿っぽい空気にだけはしたくない。いつもどおり『イケーッ、ライガー!』で応援してほしい。僕もいつもの “怒りの獣神” で上がるから」
永井豪さんからは、引退後も「ぜひライガーでいつづけてほしい」と言われている。
「まだ言えませんが、僕なりに引退後の “青写真” はあります。まあ、引退後も『なんとかなるさ』の精神でね!」
じゅうしんさんだー・らいがー
ライガーとしては1989年4月24日生まれ、永井豪宅出身。170cm、95kg。入れ替わりに姿を消した山田恵一は1964年11月10日生まれ、広島県出身。広島電機大学附属高校時代にレスリングで国体出場。1983年に新日本プロレス入門、1984年にデビュー
写真・長谷川新
取材/文・鈴木利宗
※獣神サンダー・ライガー引退試合は『WRESTLE KINGDOM 14 in 東京ドーム』でおこなわれる。本日17時と、1月5日(日)15時、東京ドームにて。詳しくは公式サイトにて
(週刊FLASH 2020年1月7・14日号)
