「リニューアルされた最寄駅の様子が不穏すぎる」

そんなツイートで注目を集めているのが、JR福崎駅(兵庫県福崎町)の広場に置かれた水槽。せっかく駅が新しくなったのに「不穏」とはどういうことか。

投稿主はかるぼん(@rep_karubon_vet)さん。アップした水槽の動画がこちらだ。

暗がりの中ライトアップされた水槽の底から、なんか出てきた...。遠くてよく見えないが、人型のそれは長い髪を振り乱し、近寄りがたい雰囲気。手に何か持っているようだが――

そんなことを考えているうちに、それは再び水の底へ。水槽は何事もなかったかのように綺麗な青を保っている。あれはいったいなんだったのだろうか。

その正体は福崎町のキャラクター・カッパのガジロウだ。


カッパのガジロウがお出迎え(画像は妖怪ベンチGP事務局ツイッターより)

正面から見るとかなりのインパクト。明るくなってもその恐ろしさは変わらない。持っているのは「ようこそ ふくさき江」と書かれたパネルだが、全然歓迎されている気がしないのは筆者だけだろうか。

ツイッターではこの水槽に対し、

「子供泣くやつやこれ」
「ちょっとしたホラー」
「夜河童にお出迎えは怖すぎる 酔っぱらいは仲良く話しかけてそうだけど」

といった声が寄せられ、多くの人が「怖い」と感じたようだ。

カッパの造りもリアルだが、水槽の底から登場とはかなり凝った演出。お金もそれなりにかかったことだろうに...なぜこんなにもぶっ飛んだものを作ってしまったのか。

Jタウンネットは2019年11月26日、福崎町役場地域振興課の小川知男さんに詳しい話を聞いた。

「水族館のアザラシを見て...」

福崎町は「遠野物語」「妖怪談義」で知られる民俗学者・柳田國男の出身地。柳田の生家は記念館や歴史民俗資料館とともに辻川山公園に保存されている。そんなこともあって、福崎町では妖怪での町おこしが盛んだ。

福崎町役場では2013年に地域振興課が誕生。同課の小川知男さんは当時の町長から、「柳田の生家の池からカッパを出してくれ」と言われたため、翌14年に「カッパのガジロウ」を考案した。

池からは9時〜17時の毎時0分・15分・30分・45分にガジロウと子カッパたちが現れ、そのほとりでは兄のガタロウが座り込んでいる。


池から出てくるガジロウ(中央)と子カッパ(両脇)、奥には兄のガタロウ(画像は福崎町役場公式サイトより)

そんなガジロウが福崎駅の広場に現れたのは今年10月。福崎駅のリニューアルに伴い、何かできないかと考えていた小川さんは、京都水族館のアザラシを見て水槽を思いついたという。

「アクリルのチューブの中を、アザラシがザバーと泳いで行ってて。これおもろいなと思って1時間ぐらいずっと見てて。なんかできひんかなと思って、帰ってやっていいですかって言ったら、やってって言われて。作りました」

ガジロウは下から出てくる仕様だが、本当はもっと複雑な動きにしたかったとのこと。金銭面の事情から現在のシンプルな登場になったという。

ガジロウの大きさは約160センチとリアルな人間サイズ。近くで見るとその迫力に大人も圧倒されてしまうだろう。

「怖い」「キモい」は歓迎

そんなガジロウが水槽に登場するのは7時07分〜20時07分の毎時7分・22分・37分・52分。この中途半端な時間にはちゃんとした理由があるという。

「あっちのガジロウ、こっちのガジロウと同時に出たらまずいから、地下トンネルでガーと泳いできてこっちに出て、沈んだらまた向こうに泳いでいたらいいじゃないかっていう、無理くり設定です」


ええーっ!!(画像は福崎町役場公式サイトより)

そう、ガジロウは世界にたった1つの存在。間違っても違う場所で同時に目撃されることがあってはならないため、池から出てくる時間とずらしているのだ。町役場の公式サイトではかなりハードな「ガジロウのひみつ」が載っているので、興味を持った人はぜひ見てほしい。ガジロウ、毎日お疲れさま...。

水槽での登場の仕方も相まって「怖い」と話題になってしまったガジロウ。ちょっとかわいそうにも思えるが、そのことについて小川さんはどう思っているのだろうか。

「狙い通りじゃないですか。もともと子供泣かすために作ってますからね。最初に池から出しなさいって言われたのはフクちゃんサキちゃん(カッパをモチーフとした福崎町の公式キャラクター)だと分かっていたんですが、そんなん出してもお客さん来るわけないじゃないですか。どうせならめちゃくちゃ気持ち悪いの作ったれって思って。誰にも言わずに作っちゃって、ごっつ怒られましたけどね。
怖くて気持ち悪いから勝手に口コミで広まるやろなって思ってて。今も怖いとかキモいとか言われるんですけど、むしろ歓迎してる感じですね」


福崎町の公式キャラクター(画像は福崎町役場公式サイトより)

公式キャラクターのフクちゃんサキちゃんを差し置き、ガジロウを生み出してしまった小川さん。そんな因縁(?)もあってか、街のシンボルであるかのように駅前に置かれたにも関わらず、ガジロウは公式キャラクターではない。

しかし小川さんの目論見通り、ガジロウは町おこしに活躍。13年度には25万人だった観光客数は16年度に40万人を突破している。今年も水槽を設置したことで、さらなる増加が見込めるかもしれない。

あんなビジュアルでも見たものの心をつかんで離さない。あなたもガジロウに一度会いに行ってみては。