神奈川県川崎市では、前夜冠水した道路の清掃作業が行われていた

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台風19号は、首都圏をはじめ各地に大きな被害をもたらした。台風が本州から東の海上に去った2019年10月13日午後、東京電力の「停電情報」によると関東地方は約14万1900軒で停電が続いている。

J-CASTニュース記者は、首都圏の高層マンションで今回の台風に遭遇した。建物自体は無事だったが、台風通過後に全戸で断水、停電が発生。エレベーターが使えず高層階から外に出ることすら難しく、日々の暮らしでの「何気ない行動」がとれなくなる不便さを痛感している。

強風が穏やかになったと思っていたら...

「あれ、水が出ない」

数時間前まで吹き荒れた強風が大分穏やかになり、台風が自分の住む地域をほぼ抜けたかと思っていた10月13日0時前。洗面所にいた家族のこんな言葉が聞こえてきた。自分も台所の水道の蛇口をひねったが、状況は同じだ。マンションの管理組合に問い合わせると、「数軒から同じ問い合わせがあり、現在調べています」。「困ったな」と思いつつ、事前に水は十分蓄えていたため、万一の場合も乗り切れるだろうとこの時は考えていた。

家族が就寝した後の夜中1時ごろ、それまで使えていたインターネットに突如接続できなくなる。パソコンを再起動したり、接続を調べたりする間、一瞬部屋のあかりが消え、すぐに戻る現象が起きた。結局ネットは復旧せず、「時間も時間だし、もう寝ようか」と思った矢先に、部屋が真っ暗になった。本格的に停電したのだ。焦ったが、夜中にできることは限られると考えてそのまま就寝した。

翌朝、起床後すぐに電気と水道を確認するが、いずれもストップしたままだ。玄関を開けると、廊下やエレベーターホールは真っ暗。そこに1枚の張り紙を見つけた。懐中電灯で照らすと、「電源は当面復旧しません」と書かれていた。これは、大変だ――。

マンションの電気設備、給水ポンプは地下にある。前夜、建物近くの道路が冠水し、住人が大勢集まって大雨の中で水をかき出したり、土のうを積んだりして被害を最小限に食い止めた。記者も及ばずながら参加し、作業が一段落した際は拍手が起きた。ただ、地下に流れ込んだ水は大量で、電気設備に被害を及ぼしていたようだ。

マンション住人は協力を深めている

家族と相談し、ひとまず妻の両親のもとへ一時避難を決めた。部屋のブレーカーを落とし、戸締りを確認して玄関を出た。マンションの高層階に住むため、エレベーターを使わず階段で1階まで降りるのは難儀だ。しかも階段は暗い。懐中電灯を照らし、途中行きかう住人と言葉を交わしながら、ゆっくりと下りた。額に汗がにじみ、運動不足の足はこわばった。

外に出ると、電車はほぼ通常運行に戻っている。周りの商店の多くは台風の影響を受けつつも既に開店していた。都心に出てきたら、電気にも水にも不自由しない普段の暮らしだ。

1か月ほど前の台風15号で、千葉県の多くの自治体が長期間の停電、断水に見舞われたのは記憶に新しい。記者が取材したなかで、勤務先の都心では電気のある「いつも通り」の生活なのに、自宅に帰ってくると真っ暗、信号すら消えている、そのギャップにやり切れなさを感じるという話が印象に残った。記者の場合は身を寄せる場所があり恵まれているが、この話がとても身に染みた。

停電と断水のダブルパンチに、マンション住人は協力を深めている。停電から数時間後にはSNSでの連絡体制が整備され、刻々と変わる現状のシェアが可能となった。前夜、建物への水の流入を避けるために大勢の有志が集まり、必死で作業した。こうした姿勢は、お互いの不安や孤立感を打ち消してくれるはずだ。

台風19号では、記者の立場とは比べ物にならないほどの大きな被害を受けた地域、人が多い。早期の復旧を祈るばかりだ。

(J-CASTニュース編集部 荻 仁)