「ヘルボーイ」「パンズ・ラビリンス」「パシフィック・リム」「シェイプ・オブ・ウォーター」など、数々の人気作品を生み出してきたのが映画監督のギレルモ・デル・トロです。彼の特殊メイクや映画の撮影技法に焦点を当てたムービー「Guillermo del Toro - Monsters, Makeup & Movie Magic」が公開されています。

Guillermo del Toro - Monsters, Makeup & Movie Magic - YouTube

テクノロジーがあらゆる事柄を可能にしてしまい、何も特別ではなくなってしまった時代において、強く印象に残るものを作りだすことはとても難しいものです。しかし、デル・トロ監督は数々の映画の中でさまざまな記憶に残るような独創的なモンスターを生み出してきました。そのために必要なモノとは一体何なのでしょうか。



なぜデル・トロ監督の作り出すモンスターたちは特徴的なのでしょうか。





傑作モンスター映画に登場するモンスターは、そのほとんどが視覚的な変形を遂げます。映画「エイリアン」シリーズに登場するエイリアンは、捕食しながら成長・変態を繰り返し……



映画「プレデター」シリーズのプレデターはマスクの下に凶暴な素顔を隠しています。傑作に出てくるモンスターたちは見た目が変化するため、観客はさまざまな角度からグロテスクさを楽しめるというわけです。



デル・トロ監督は「モンスターが映画全体で同じ見た目のままだったなら、視覚的なドラマが一切ないのと同じ」と語っています。



この言葉からもわかる通り、デル・トロ監督はモンスターのデザインにおいて何らかの創造的な変化を盛り込むことが多いです。映画「パンズ・ラビリンス」に登場する迷宮の番人パンは、映画の始まりではかなり衰弱した状態で登場するのですが、物語が進むにつれてより健康的な見た目に変身していきます。



映画「シェイプ・オブ・ウォーター」に登場する不思議な生物は、体が青く光る不思議な力を持っており……



「パンズ・ラビリンス」のペイルマンは、顔ではなく手に目がついています。



また、手を顔に当てることで指がまつげのように見えるようにもなっています。こういったモンスターの見た目の変化をじっくりと観察することで、各要素がどのように機能しているかがわかり、モンスターについてもより深く考察できるようになります。



デル・トロ監督は自身のTwitterアカウント上で「美術作品のように、モンスターをひと目見れば物語や目的、何を表現しているかが伝わらなければいけない」とツイートしています。



同時に、モンスターのデザインは映画に登場するその他のものと同じ要素を持ち合わせていなければいけないともツイートしています。



よって、モンスターのデザインだけで終わることはなく、映画全体がモンスターのサポートできるようなエコシステムを構築する必要があるわけです。



「デル・トロ監督は視覚的ストーリーテリングを用いる最初で最高の映画監督です」とムービーで称賛されています。



デル・トロ監督の作品に登場するモンスターは十分な情報を持っておらず、対話することができないケースもあります。そしてほとんどの場合、映画に登場する時間もとても短いです。



しかし、映画制作におけるあらゆる側面が中心的な要素であるモンスターについての情報を伝えるために使われているため、モンスターたちは観客に強烈な印象を残すことができます。



例えば、映画「デビルズ・バックボーン」では、幽霊の子ども「サンティ」のデザインを補完するために、その他のあらゆるプロダクトデザインが用いられている様子を見ることが可能です。



サンティが登場する部屋の周りでは水の色が血のような色に映り……



壁に付着している塩の沈着物は液体が流れていたことを伝える役割を担っています。



デル・トロ監督は「我々はこの壁の表現に数週間を費やしました。壁を塗って湿度を表現しました。子どもが水中にいるようかのような、波の感覚を表現しました。なぜなら、子ども(サンティ)の額から血が流れ出ているからです。そして、サンティの頭から流れ出るものが血のように感じられるように、壁に湿度と塩の沈着物をつける必要がありました」と語っています。



地形がモンスターのデザインに反映されていたり、その逆が起きていたりというケースもあります。例えば、映画「パンズ・ラビリンス」の迷宮とパンは、迷宮がパンの一部でありながら、パンが迷宮の一部でもあります。以下の矢印部分にパンがいるのですが、この通り迷宮とパンが共生関係にあることがわかるようデザインされており、それにより視聴者は言葉で語られる以上の情報を画面から推察できるようになります。



「モンスターにファンタジー要素が含まれているとき、牛の目の中心に別の牛の目があると想像してみてください。とっても素晴らしいでしょ?」とデル・トロ監督。



さらに、映画におけるデザインを「プロダクトデザイン」



「衣装」



「色と光」という要素に分け、それぞれが別個に存在しながら物語の中心となるモンスターのデザインにとって欠かせない要素として働くさまは、「とても幻想的」と表現しています。



そして、映画のキャラクターたちが生活する環境をデザインすることと同じくらい重要なのが、モンスターに息を吹き込む俳優です。デル・トロ監督の映画の場合、そのほとんどをダグ・ジョーンズ氏がこなしています。



多くの人にとっては骨の折れるような条件の中でジョーンズ氏は演技を行っており、例えば「50ポンド(約23kg)もの重さの面を被り、目が見えない状態で自分が話すことのできない言語を音声学的に正しく話す」といったことをこなしているそうです。





3DCGなどを使わずに実写でモンスターを表現する場合、説得力のある見た目にするには過剰に肉などをつけるのではなく、適度な肉感を保つ必要があるそうです。体格はモンスターデザイナーにとっての大きな問題のひとつとなることが多いそうですが、ジョーンズ氏は約63kgと細身のため、モンスターがしっかり「人っぽく見える」とのこと。



そのため、シェイプ・オブ・ウォーターの不思議な生物は、スリムで筋肉質で人のように可動性のある男性の肉体に見えたわけです。



ただし、光り輝く魚っぽい目や痩せ細った足などは、3DCGなどのビジュアルエフェクトを用いて表現している模様。





デル・トロ監督はデジタル技術を用いてモンスターをより効果的に演出することもありますが、出演する俳優がより演技しやすくなるようになるべくリアルに再現したものを撮影の現場に用意することで、想像力の及ばないものだったり、パントマイムのように何もない空間で演技するといったことが起こらないように心掛けているそうです。そして、これが演技のクオリティにも大きく影響してくるとのこと。





撮影のセットの中に入ると、2メートル以上もある巨大な円盤状の顔を持った悪魔の演技をする俳優がいるのと、テニスボールと棒で表現された悪魔のオブジェがあるだけでは、演技のクオリティに大きな差が出てくるのは当然といえます。このように、デジタルを使用する場合であっても、モンスターを演じる役者の役割は想像以上に大きなものとなるわけです。



デル・トロ監督はモンスター、ひいては映画全体のデザインについて「アイ・キャンディー」や「アイ・プロテイン」という表現を使います。



「アイ・キャンディー」は視覚的に楽しめるものではあるものの、ストーリーテリングにとっては余分なものだそうです。対して、「アイ・プロテイン」は美しく技術的にも複雑なもので、それでいてゴジラやフランケンシュタインのようにストーリーを語る上で必須となるようなものだそうです。



デル・トロ監督は「モンスターは人間の状態を明らかにするために、より象徴的な機能を果たすべきだ」と語っています。



デル・トロ監督の映画に登場するモンスターは、すべて心を持ち、何らかの目的のために行動しているため、多くを語らずともそれ以上に多くの情報をもたらしてくれるわけです。