東 啓介の前に立ちはだかる壁。新たな“原田左之助”を作り上げ、期待に応えたい一心で臨む。
ミュージカル『薄桜鬼』シリーズも本公演でついに8作目。今回、『原田左之助 篇』で主演を務めるのが東 啓介だ。舞台『刀剣乱舞』や舞台『弱虫ペダル』など、さまざまな経験を経て臨む今作。東は、役と向き合うなかで見えてきた新たな課題、座長としての立場など、いろんな壁にぶち当たっていた。「難しい」「悔しい」「もっと頑張らないと」…高いハードルを前に落ち込みながらも、彼の言葉の端々からは、向上心に燃える熱い闘志が感じられた。

撮影/倉橋マキ 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
ヘアメイク/仲田須加



これまでのミュージカル『薄桜鬼』とは違う展開に



――ミュージカル『薄桜鬼』原田左之助 篇の公演が発表になったのは、2016年8月に上演されたミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 2(以下:『薄ミュLIVE2』)のときですね。

じつは、『薄ミュLIVE2』の稽古のときから、今回の『原田左之助 篇』をやるということは聞いていたので、次に向けて、自分なりの原田像を追い求めながら『薄ミュLIVE2』の稽古や公演に臨んでいました。公演の最後に、『原田左之助 篇』上演決定! とバーンとスクリーンで発表されて、お客様の拍手や歓声を聞いたときに「いいものにしないとな」と、より強く思いましたね。

――お客さんの反応を直に受けて、より気持ちが固まったと。

プレッシャーも押し寄せてきましたけど、お客様の期待も感じて。きっと皆さんも『原田左之助 篇』を待っていてくださったと思うので、その期待には応えないと、と思いました。

――ちなみに『薄ミュLIVE2』では、原田のソロの新曲があったり、ヒロイン・雪村千鶴との密な絡みがあったり、原田としての見せ場がいっぱいありましたね。

はい! 『薄ミュLIVE2』では、原田の新曲『モノクロの月』を披露したんですけど、原田として、曲をロングバージョンで歌うのが初めてだったので、僕としてもすごく力を入れていた部分です。千鶴とは…千鶴をお姫様抱っこするというのがありまして(照)。(振付の本山)新之助さんがつけてくださったんですが、原田の“大人な男性”な感じが存分に表現された振りだなと思いました。



――東さんが思う、原田の魅力はどんなところですか?

男を貫き通している部分というか…。原田は、鬼のまがいものと言われる羅刹(らせつ)になる、変若水(おちみず)を飲まないんです。『薄桜鬼』の物語のなかで、人間のまま、ひとりの女を守ることをまっとうし続ける彼の生き方は、ホントにカッコいいです。

――変若水を飲む描写がないとすると、『原田左之助 篇』は、これまでのミュージカル『薄桜鬼』とは、また物語の見え方が異なりそうですね。

そうなんです! 僕としても、今までにないミュージカル『薄桜鬼』だなと感じていて。お客様にも、「あっ、こういう感じで一幕が終わるんだ」って思ってもらえるはずです。



新たに見えてきた“原田左之助”の姿に苦戦中



――東さんは、2015年のミュージカル『薄桜鬼』黎明録から、原田役を務めています。その次のミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚、ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 2を経て、今回で4作目となるわけですが、東さんは原田をどういうキャラクターだと捉えていますか?

『黎明録』、『新選組奇譚』、『薄ミュLIVE2』を通して強く思っていたのは、大人で、色気を持っていて、三馬鹿(※藤堂平助・原田左之助・永倉新八の3人組の総称)のうちのひとりで…という部分。個人的には、やっぱり“大人”という印象が強いのかなと考えていました。でも今、稽古で演出の毛利(亘宏)さんと話しているなかで、じつは原田って三馬鹿のなかでも、一番バカなんじゃないかなと思いはじめていて。



――3人のなかで一番バカ…?

はい。原田は、過去に口喧嘩をしただけで、自分で腹を切ってしまうほどの男なんです。短気な性格で、自分の腹を詰めちゃうところや、羅刹への嫌悪感を隠さずあらわにするところなどで、大人なんだけど、意外と子どもみたいな部分も持っているなと思いはじめてきて。今回、僕のなかで原田の見え方が変わって、またイチから、原田左之助を作り上げています。

――今作の稽古を通して、原田の新たな一面を発見されたんですね。

今作で原田を深く描くからこそ、見えてきた部分がありました。ひとつのものに対しての感情移入の仕方だったり、感情の振り幅の大きさだったり…彼が持つ“大人らしさ”と“子どもらしさ”のギャップを、いいあんばいで表現するのが、すごく難しいなと思っています。



原田と不知火の殺陣は…「息が合いすぎていて怖い!」



――稽古場での印象的なエピソードがあれば教えてください。

そうですね……今回、佑介くん(不知火 匡役/柏木佑介)との殺陣が多いんです。だいたい、殺陣はカウントで合わせることが多いんですけど、佑介くんとの殺陣は、一度練習を見て、「よし、やってみよう」で、すんなりできちゃうんですよね……。

――スゴい! おふたりの息がぴったりなんですね!

普通、何度も練習をして合わせていくところなのですが、「あ、できたね」って一瞬で終わっちゃう。いや、もうね…(声のトーンが大きくなって)それがいけない!

――えっ!? ダメなんですか…?

いや、ダメじゃないです。ダメじゃないんですけど…なんか…息が合いすぎて怖い! だって、原田と不知火の殺陣って、『薄ミュLIVE2』でも軽くありましたけど、ちゃんとしたのは『新選組奇譚』以来の2回目なんですよ! しかも、原田は槍で、不知火は銃なので間合いも違うし…佑介くんがうまく僕に合わせてくれているからだと思うんですけど、それでも「なんでこんなに息が合うんだろう?」っていうのはすごく不思議で(笑)。




――なるほど、逆に心配になってきてしまうというか(笑)。

そうです! 僕が佑介くんに「殺陣のここはどうしましょうか?」と聞くと、いつも「んー…フィーリングで!」って言うんです。これ、佑介くんの稽古場での口癖なんですけど(笑)、で、ホントにフィーリングだけで合ってしまうので、いいことなんですけど、怖いなって思ってしまう部分もあります。

――柏木さんは、ミュージカル『薄桜鬼』の出演歴が長いので、カンパニーとして、とても頼りになりそうです。

ホントにそう思います。今回は僕が座長なので、僕がキャストとコミュニケーションを取り合って、いい輪を作っていかなきゃと思っていたんですけど、やっぱり自分に精一杯で、周りが見えなくなってしまうことがあって。そういうときに佑介くんや、輝馬くん(山南敬助役)、翔太くん(山崎 烝役/高崎翔太)たちが、周りのキャストとうまくコミュニケーションを取ってくれて、演出の毛利さんを筆頭に場を引き締めてくれます。

――そうなんですね。

ただ、そういうのを見ていると、「あー、ホントは自分がやらないといけないのにな」と思って、「しゅん…」って落ち込むのと、周りに気を遣わせてしまったなと、とても悔しくなります。もちろん、頼れるところは頼っていきたいんですけど、僕が引っ張れるところは絶対あると思うので、そこはちゃんとしなきゃなと思っていますね。



――藤堂平助役が木津つばささん、永倉新八役が福山翔大さんになってから、初の本編公演ですが、“三馬鹿”の一員として、東さんから、おふたりはどう映っていますか?

ふたりは、前回の『薄ミュLIVE2』からだったのですが、そのときから稽古が終わったあとも残って練習をしたり、一緒にご飯を食べていろいろと話をしていたので、今では何でも言い合える仲です。やっぱり、“三馬鹿”なので、役者同士もお互い思ったことを言い合えるというのは大切だと思っています。

――今回、『黎明録』で土方歳三を演じていた、佐々木喜英さんが風間千景を演じるという点に関してはいかがですか?

羅刹から本物の鬼になっちゃいましたけど(笑)、ホントに違和感がなくて。殺陣もうまくて、ダンスもできるので、僕は何も心配することなく「ありがとうございます!」っていう感じで稽古を見ています。



努力をすれば自信になるから、頑張り続けたい



――今回の『原田左之助 篇』しかり、舞台『弱虫ペダル』など、舞台のまんなかに立つことが多くなったかと思うのですが、改めて、座長として自分の姿をどう評価されていますか?

今、稽古をやっていてすごく思うのが、「自分にはまだ座組みをまとめる力がないな」ということで…。場を引き締めたり、自分が引っ張っていくことがもっとできるようになりたいです。役者としても、座組みのまんなかに立つ身としても、まだまだ課題がたくさんあるなと思います。

――先ほどの稽古場でのお話でも、「ホントは自分がやらなくちゃいけないことなのに…」と話されていましたね。

まんなかに立っている意識と、引っ張っていく意識を、周りのキャストに感じさせるような…頼られる存在になりたいと今、強く思っています。頑張らなきゃいけないのは当たり前なんですけど、もっと頑張らないといけないなと痛感しました。



――これまで、いろんな座長を見てきたなかで、とくに印象に残っている方はいらっしゃいましたか?

やっぱり…鈴木拡樹さんの在り方はすごく素敵だなと思っています。自然体なんですけど、拡樹さんが板の上に立つと場の空気が一瞬で変わるんです。それはホントにスゴいと思いましたし、なかなかできないことだよなと。

――東さんの役者としての今後の目標は?

マルチに活躍できる役者になるということが一番の目標なんですけど、近い目標といえば…いろんなところで言っている、30代になるまでに帝国劇場に立つことです。



――帝国劇場は役者さんの憧れですよね。

はい。僕自身、歌が好きで、自分の武器だなとも思っているので、どんどん歌を伸ばしていきたいです。まずは歌を伸ばして、帝国劇場で歌うことができたらな…と思っています。

――歌は芸能界に入る前から、レッスンを受けられていたんですか?

いや、とくにやっていなくて、去年、本格的にボイトレに通おうと心に決めてから、週に2日とかでガッと通うようになりました。事務所の社長から、「ブロードウェイの人たちは稽古や本番の前にもボイトレに行く」ということを聞いて、やっぱりそれくらいの向上心を持って向き合わないとダメだ! と。努力をすれば自信になるし、自信になれば堂々とできると思うから…頑張り続けたいです。

――今も週2ペースでボイトレに通っているんですか?

最近は、あまり定期的に行けていなくて…すごく悔しいんです。でも、ボイトレで教わったことを、稽古場で復習したり、自分でできるところは習慣づけてやっています。