「ケイロル・ナバスの練習と思考から、GK育成を学ぼう。」

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Goal Keeper-ゴールキーパー。

直訳すれば「ゴールを守るもの」となるこのポジションは、手を使うことが禁じられたスポーツであるフットボールにおいて、非常に特殊なものだ。

一方で、その歴史は古い。サッカーの規則が成文化された時には、既にゴールキーパーは存在していたと言われている。

ドイツの守護神として君臨し、「闘将」として知られるオリヴァー・カーンの「ゴールキーパーの『役立たず』と『英雄』は紙一重」という発言は有名だ。時に相手の決定機を阻止することで試合を決める存在であり、一方でミスがあれば一瞬で試合を終わらせてしまう。

その緊張感の中で戦う彼らは、ある意味で常に孤独だ。オリヴァー・カーンも何度となく英雄となる一方で、何度となく「役立たず」の烙印を押されながら戦ってきた。より結果が目に見えるポジションだからこそ、そのプレッシャーは計り知れなく大きい。

自らの技術を磨き上げる職人のように、彼らは静かに戦っている。守備陣とのコミュニケーションのために言語力が必要となるという面では独特のポジションでもあり、海外でのプレーはフィールドプレイヤー以上に難しい。

日本代表で活躍する川島永嗣も、海外でのプレーを続けるために浪人生活を過ごした。スコットランドリーグ、ダンディー・ユナイテッドで「今までとは全く違う」フットボールに向き合いながら、厳しい環境で挑戦を続ける彼には、今後も期待していきたいところだ。

今回は、一流として知られるGKのインタビューや練習、GKコーチのコメントなどを紹介しつつ、GK育成の鍵を考察していきたい。

今回取り上げるのは、レアル・マドリーで定位置を掴みつつあるケイロル・ナバスだ。

29歳のコスタリカ代表守護神は、スペインリーグ、W杯を通じて実力を証明し続けた。欧州のトップクラブで若いうちからレギュラーを掴んでいた訳ではない叩き上げの守護神は、常に多くのシュートを浴び、それを封じることで腕を磨き続けた。

マヌエル・ノイアーやジャンルイジ・ブッフォンといった世界の頂点として評価される男たちに比肩するまでに至った彼は、コスタリカでは文字通り「英雄」だ。コスタリカ代表史上初のベスト8は、彼無しで成し遂げられるものではなかった。凱旋帰国には多くのサポーターが集まり、コスタリカ紙は彼を何度となく一面で取り上げた。

昨夏も、マンチェスター・ユナイテッド移籍が寸前でストップ。レアル・マドリーが追いかけ続けたスペイン人守護神デ・ヘアと交換されると思われた男は、今季実力を証明した。デ・ヘアの報道を下火にさせるほどに、彼のパフォーマンスは際立っている。

昨年10月、元バルセロナBで現在セルタで主軸として活躍するマヌエル・ノリートは、試合を終えると彼を讃えた。

「マドリーの守護神は、全てを止めた。彼が大きな差を作り出したよ。不可能なセーブがいくつもあった」と。

ケイロル・ナバスの語るGK論

レバンテ時代、高難易度なセービングを連続したことで彼は注目を浴びるようになった。当時のインタビューで、彼はこのように語っている。

「僕は自分が手に入れるべきものを知っているし、今まで進んできた道を行くだけだ。

選択ミスというのは避けなければならない。

称賛の言葉を落ち着いて受け入れ、自分のモチベーションを高め、集中していくための糧としていかなければならない。」

派手なセービングとは異なり、ピッチ外での彼は非常に冷静だ。称賛を受けても、その姿勢が揺らぐことは無い。冷静さは、常に1プレーで評価が変わってしまうGKに必要な資質と言っても良いだろう。

プレーにおいても、彼はその冷静さを重要視する。

「ピッチで落ち着いていること。それこそが、正しい選択を生む。常に集中し、明確な目的を持つことが重要だ。また、自分の武器であるスピードを最大限に生かせるように工夫している。」

「最も難しい、激しい状況で冷静でいられるか。それがGKに求められる最も重要な資質だ。」

常に冷静沈着なセーブをこなすケイロル・ナバスは、情熱的なチームリーダーとしての顔も持つ。

W杯でベスト8にチームを導く前に『BBC』が行ったインタビューで彼は「チームはW杯で、死ぬまで戦う覚悟が出来ている。恐れはない」と躊躇なく答えている。「自らの選択には、全て責任を持つ」とも語ったように、その強い責任感も魅力だ。

恩師ルイス・ジョピスのGK育成哲学

ケイロル・ナバスの恩師ルイス・ジョピスは、GK育成に定評がある名コーチだ。

アスレチック・ビルバオではゴルカ・イライソスを育て上げ、レバンテで「最高傑作」としてケイロル・ナバスを導いた男は、ジネディーヌ・ジダンの下でもGKコーチを継続することになっている。

ルイス・ジョピス(レアル・マドリーGKコーチ)

「GKは守備のカバーをこなし、チームのサポートをこなし、速攻の起点にならなければならない。

受動的に守備を見ているだけの選手は、GKとして失格だ。GKはチームの戦術を完璧に理解した上で、チームに貢献しなければならない。

私の目的は、GKを1人のプレイヤーとしてチームに貢献させることにある。」

現代的なGK育成を目指す彼は、GKをより「アクティブ」な存在として育成していこうとしている。ピッチから取り残されたように守備組織を眺めている選手ではなく、チームへと積極的に関わっていける選手へ。

「練習は、試合を反映したものでなければ意味がない。

試合で発生するような状況を作り出すことが練習の目的だ。

チームプレイの中で生きるGKを育てるためには、そういった練習をしていく必要がある。」

「試合」と「練習」の関連性。これは彼の練習における、最も重要なキーワードだ。では、実際にルイス・ジョピスがケイロル・ナバスを育て上げた練習を見ていくことにしよう。

最初のキック練習。

簡単にこなしているように見えるが、DFを想定してカットされにくい高さにボールを蹴る必要がある。ただのキック練習と比べると、より実戦的な要素が取り入れられていることが解るはずだ。

また、距離の違うキック練習を連続で行っているのも印象的だ。同じ距離を蹴り続ける練習に比べると、難易度は倍増する。常に状況が変わり続ける試合で、同じ距離へとキックすることは多くない。そう考えると、非常に理にかなった練習と言えるだろう。

(下記動画;32秒〜)

ボールを持って足でシュートを弾く、という練習も面白い。状況に応じて近距離では足を使っていく事も求められるGKは、足でのセービングにも慣れておく必要がある。

(下記動画;36秒〜)

クロスの練習でも、ただコーチが山なりにボールを投げてキャッチするだけではない。DFや相手を想定出来るように障害物を配置し、ボールもDFに当たって軌道が変わったようなボールを意識している。

(下記動画;56秒〜)

強度を保った連続性、というのも重要なキーワードだ。それも、視界を一度取り直す必要があるような、「左サイドからのシュート→右サイドからのボール処理」という練習が多い。

(下記動画;1:09秒〜)

また、筆者が最も印象的だったのがこの練習だ。自分の背後から出てくるボールに瞬間的に反応する練習をすることで、反射的な動きの精度を高めている。

実際の試合では、「考えていては出遅れる」場面も少なくない。そういった場面に出くわした時、こういった練習で培った反射が活かされるのだろう。反射神経は才能である、という風に言われることも多いが、こういった瞬間的な動きは日々の鍛練によって作られている側面もあるはずだ。

(下記動画;1:12秒〜)

こぼれ球への反応を意識した練習には、ボールを当てて軌道を変えるための障害物が使われている。GKやDFが弾いたボールを、相手がシュートに繋げるような場面を想定しながら練習に取り組んでいることが解るだろう。

(下記動画;1:31秒〜)

一度目のボール処理から、出来るだけ迅速なリカバリーを必要とするこういった一連の練習は、ケイロル・ナバスの武器であるスピードを磨き上げるものでもある。身長184cmと、GKとしては背の低い彼を一流へと導いているのは、このスピードだ。

これらのGK練習全てにおいて意識されているのは、視界を遮ったり軌道を変化させたり、という点で実際の試合で起こるような状況が作られていることだ。

全ての練習に連続性があり、単純なシュートを止めるだけの練習はない。また、強いパンチングを意識してボールを処理しているのも印象的だ。こういった練習で培われた能力が、試合という場で発揮されるのだ。

最後にケイロル・ナバスの幾つかの好プレーを紹介しながら、当コラムを締めくくることにしたい。

練習によって磨かれた体勢を立て直す力が発揮されたのが、次の場面だ(動画1:45秒〜)。


逆サイドにパスされ、体勢を崩しながらも驚異的なスピードで復帰。ボールを外に運びながらシュートコースを作ろうとしたアタッカーのボールを奪い取っている。

次は、動画2:04秒〜の場面。


パンチングの強さも彼の特徴で、ミドルシュートを遠距離まで弾き返すことによって、こぼれ球をスムーズに二次攻撃へ繋げられることを避けている。

これも、練習において常に強いパンチングを意識していることによって可能になるものだろう。また、こぼれ球を意識した練習が多いことから、近くにボールを落としてしまう危険性を理解しているのかもしれない。

ケイロル・ナバスはある意味で、身長という遺伝的な才能を鍛錬によって超えた守護神だ。日本が彼のように世界に通じるGKを育て上げる時こそ、日本代表が世界の頂点に近づく時なのかもしれない。