SMBC日興証券社長 久保哲也氏

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■好況だからといって浮かれてはいけない

株式市場の活況を背景に、SMBC日興証券は“攻めの経営”を強めている。この4月、三井住友銀行副頭取から同社社長に就任した久保哲也氏に新たな経営戦略について聞いた。

――アベノミクスによるデフレ脱却を狙う経済政策は、市場の期待感に働きかけた。その結果、昨年末からマーケットは円安・株高で推移しているが、どう評価しているか?

【久保】2007年の突然の辞任後、安倍晋三総理が捲土重来を期して、じっくり準備してきた政策が非常にうまくいっていると思う。いわゆる「3本の矢」のうち財政と金融については、就任直後の大型補正予算と“異次元の金融緩和”で評価が高い。なによりもマーケットがいち早く反応したことがその証拠だ。

これが持続できるかどうかは、冷え込んでいた個人消費や企業の新規設備投資の動きを追っていけばいいだろう。前者は富裕層を中心に上向いているが、後者はまだこれからだ。3本目の成長戦略も、7月の参院選前にはまとまる。その具体的な内容を実行することで個人や企業のマインドを期待感から実感に変えられるかどうかがカギになる。

――潮目でのトップ就任。新たな経営体制で、13年4月〜16年3月までを対象期間とする「中期経営計画」も動きだした。

【久保】当社は09年に三井住友FGの傘下に入った。その前年にはリーマン・ショックがあり、経営環境が厳しいなか、昨年まで渡邉英二前社長のもと内部の土台づくりを着実に進めることができた。たまたま、私の登板と景気浮揚のタイミングが一致したわけで、それが攻めの姿勢につながっている。

まず進めるのは、親会社の三井住友銀行との、さらなる「銀証連携」の強化だ。SMBC日興証券の個人口座数は約230万だが、銀行の個人口座数は約2500万と10倍以上もある。このなかで余裕資金があり、証券投資に興味のある顧客をわれわれに紹介してもらう。従来の証券独自の開拓に加え、銀行の基盤を使って、現在の預かり資産約23兆円を3年間で30兆円に増やしたい。

そのため、中計期間内に支店網を25店舗新設する。人員面でもやや余裕がなくなっているので、新卒や中途採用を行い、600人増員する予定。そのうち半分の300人をリテール営業に充てる。さらに、東京と大阪を中心に証券10店舗、銀行15店舗を対象に相互に本格的な人材交流を始めている。銀行からは課長クラスが証券に出向しているが、彼らのモチベーションは高い。

――これまでホールセールは弱点と指摘されてきた。経済が活性化してくれば、企業の増資、M&AやIPO(新規株式公開)のニーズも出てくる。

【久保】いうまでもなく法人部門も人員を増やして強化していく。株高、債券高を受けて、企業は新株や社債の発行に前向きになるはず。また、海外の機関投資家からの問い合わせも多い。いま儲けられるのは日本株という判断からだろう。そうした多様な注文への対応やリスク管理のために約500億円のシステム投資もしていく考えだ。

私どもは、個人も法人も両方ともに強い「総合証券会社」を目指してきた。リテールは、日興証券95年の長い歴史があり、非常に大きな車輪を持つ。ホールセールも3年半前から海外市場を含めて、その車輪を大きくする努力を続けてきた。この両輪のバランスをよくしていこうと思っている。

ただ、会社を取り巻く環境は常に変化しており、不況だからといって悲観し、好況だからと浮かれてはいけない。その意味で、私は新入社員に「鳥の目、虫の目、魚の目」を持てと話した。空から俯瞰しながらも、足元もしっかりと見つめる。魚眼は潮流を読むということである。人を育てながら、グループ経営の一層の強化を図っていきたい。

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SMBC日興証券社長 久保哲也
1953年、鹿児島県生まれ。76年、京都大学法学部卒。住友銀行(現三井住友銀行)入行。執行役員、常務執行役員を経て、2008年、三井住友フィナンシャルグループ常務執行役員。11年、三井住友銀行副頭取、三井住友FG副社長執行役員、SMBC日興証券取締役。13年4月より現職。

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(岡村繁雄=文 鈴木直人=撮影)