日本中、どこの山にでもある「野生のブドウ」が、世界のワイン産業を変えるかもしれないという、衝撃の事実。

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一滴の雫に満たされている、数千年にわたる叡智……。

もはや国民的な飲み物の一つとなったワイン。近年、日本産ワインも急成長していることはご存知の方も多いと思いますが、さらに注目を集め始めているビオワイン、オレンジワインはご存知でしょうか。

ワインは、単なる嗜好品にとどまらず、人類が長い時間をかけて磨き上げてきた文化の産物として多くの人々を魅了し続けています。しかし、グラス一杯の背後には、ブドウ樹の生理、発酵微生物の働き、 果汁やワインに含まれる化合物の化学反応、といった、さまざまな科学的要素が複雑に絡み合っています。

ワインの原料となるブドウの最新の栽培技術、醸造技術から、おいしさ、香り、健康効果はもちろん、温暖化によるブドウ栽培の変化など、ワインの魅力を科学の言葉で説明した『最新 ワインの科学』(講談社・ブルーバックス)。本記事シリーズでは、この書から、興味深いトピックを選りすぐってご紹介していきます。

今回は、世界のワイン産業の未来を変えるかもしれない、日本の野山に自生する「野生ブドウ」について解説します。

*本記事は、『最新 ワインの科学 芳醇な香りと味わいはどのように生まれるのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

日本の山野に自生する、野生ブドウがすごい!

日本の四季は美しく豊かですが、ブドウ栽培にとっては厳しい環境です。梅雨の湿気、夏の高温、秋の台風…。そんな気候のなかでもたくましく育つのが、アジア原産の野生ブドウたちです。

野生ブドウとは、人の手で品種改良されていない、自然のままのブドウのことです。日本の秋の山野を歩くと、小さな紫色の実をつけたつる植物に出会うことがあります。それらが、ヤマブドウ(Vitis coignetiae)やエビヅル(Vitis ficifolia)、サンカクヅル(Vitis flexuosa)など、アジア原産の野生ブドウたちです。日本には7種8変種の野生ブドウが自生しており、北海道から沖縄まで、それぞれの地域の気候や地形に合わせて分布しています。

野生ブドウの果皮は黒紫色で、近年の暑い夏でもしっかりと黒々とした果実をつけます。果実は小粒で酸味が強く、ポリフェノールなども豊富に含んでいます。野生ブドウは長い年月をかけて日本の自然環境に適応しており、病気に対する耐性が強いのも特徴です。

こうした果実品質や病気への耐性、環境への適応力は、品種改良の素材として非常に適しています。近年は気候変動による温暖化の影響で、従来の品種が育てにくくなっています。こうした状況の中、アジアの野生ブドウの遺伝子を生かした新しい品種づくりが日本でも進められています。

野生ブドウが切り開く! ワイン産業の未来

ワイン用の交配品種としては、「ヤマ・ソービニオン(カベルネ・ソーヴィニヨン×ヤマブドウ)」、「ヤマ・ブラン(ピノ・ノワール×ヤマブドウ)」、「山幸(清見×ヤマブドウ)」、「富士の夢(メルロ×サンカクヅル)」、「香大農R‐1(マスカット・オブ・アレキサンドリア×リュウキュウガネブ)」、さらにアジア原産野生ブドウを掛け合わせた「小公子」などが栽培され、ワインとして楽しむことができます。

2025年には、岡山理科大学がワイン用品種「マスカットシラガイ(マスカット・オブ・アレキサンドリア×シラガブドウ)」を品種登録出願しています。

アジアの野生ブドウは、何千年もの進化のなかで培われた環境適応能力という「遺伝的な宝物」をもっています。この宝物を現代の科学技術と組み合わせることで、未来のブドウ栽培に新たな可能性が開けます。病気に強い品種を使えば農薬の使用量を減らすことができ、日本の気候に適した品種であれば栽培管理の手間も軽減できます。

これは環境への負荷を減らすだけでなく、ブドウ栽培家の労力やコストの削減にもつながり、持続可能なブドウ栽培の実現にも寄与します。

日本の山野に自生する小さな野生ブドウの実。そのなかには、日本ワインの、そして世界のワイン産業の未来を変えるかもしれない力が秘められています。私たちの身近にある野生ブドウに、もう一度目を向けてみませんか。

次回は、同じブドウ品種でありながら、なぜ産地によってまったく異なる個性のワインが生まれるのか、その謎に迫ります。

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