ネクタイ苦境、クールビズやコロナでノータイ定着し需要激減…生産者ら活路求めて新機軸の商品開発
6月の「父の日」で贈り物の定番だったネクタイ。
クールビズの定着やコロナ禍などで需要が落ち込み、流通量はバブル期から8割も減少するなどし、その座を追われつつある。苦境を克服しようと、新たな商品の製造に乗り出す生産者も相次いでいる。(広瀬航太郎、柳沼晃太朗)
百貨店 売り場縮小
東京・銀座の百貨店「松屋銀座」の紳士服売り場には、紺やえんじなどの約800本のネクタイが並ぶ。明るい色の商品は少なく、紳士服バイヤーの巌谷緑介さん(38)は「気温が上がる春夏の需要が減ったので、各メーカーは通年で使える色を主軸としています」と解説する。
今月21日の父の日が近づくと、ネクタイを手に取る人の姿も目立つようになったが、以前に比べるとシャツなどほかの商品を贈り物に選ぶ人が増えているという。15日に来店した川崎市の会社員男性(53)は「取引先との打ち合わせもオンラインで済むので、ネクタイをする機会があまりなくなった」と、売り場には寄らずに店を後にした。
売り上げの減少などを受け、同店では2023年にネクタイ売り場の面積を3分の2に縮小した。ただ、手織り絹を使った高級国産品の売れ行きは好調といい、巌谷さんは「訪日外国人客(インバウンド)をはじめ、こだわりのある人の購入が目立つ」と話す。
ピーク時から8割減
ネクタイ製造業者らでつくる「東京ネクタイ協同組合」によれば、国内流通量はピークの1991年には5645万本に達した。だが、2000年代以降、夏場のクールビズが進み、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏のようなカジュアルな服装が注目されるようになった。さらに20年からのコロナ禍で在宅勤務が広がったことも重なり、22年の流通量は1107万本まで急減した。
百貨店「高島屋」が昨年にオンライン販売した「父の日ギフト」の人気商品は、1位がうなぎ、2位が酒、3位が菓子と飲食品が上位を占め、ネクタイを含む「ファッション雑貨」は10位だった。総務省の家計調査でも、かつては6月にネクタイの家計支出が伸びていたが、近年のピークは3月が多い。
同組合の和田匡生理事長(68)は「最近の猛暑で夏場のノータイが定着し、父の日のプレゼントに選ばれることが減った」と嘆く。
新商品に「手応え」
生産者も打開策を模索する。老舗メーカー「アラ商事」(東京)は、従来のように首元で締めず、結び目部分の金具をワイシャツの襟元に留めるだけの「スナップタイ」を製造。客から引き取った既存のネクタイをスナップタイにつくり替えるサービスも始め、担当者は「若い世代からも問い合わせが相次ぎ、手応えを感じる」と話す。
東京都八王子市では、八王子織物工業組合と商工会議所が、ネクタイ型ピンバッジ「p―Tie」(ピータイ)を12年に開発した。素材はネクタイと同じ絹織物で、クールビズ期間でも胸元にネクタイ代わりに着けられるのが売りだ。
組合によると、同市はかつて絹織物の一大産地で、1950年代には国内のネクタイの6割を生産し、74年の生産額は45億円に達していた。しかし、2024年には4億円まで減少しており、生産者もピーク時の5%程度にまで激減した。

ネクタイとピータイの製造を手がける「内田長織物」の内田昭臣代表(82)は「手軽にスマートさを演出するネクタイの魅力をピータイで再発見してもらえれば」と期待する。
革靴・スーツもカジュアル化
ノータイだけでなく、靴やスーツといったビジネスアイテムのカジュアル化も進んでいる。
一般社団法人「日本皮革産業連合会」(東京)のまとめでは、2024年の革靴の生産数量は765万足で、この15年間で6割近くも落ち込んだ。また、帝国データバンクによると、25年度の紳士服大手7社のスーツ事業の売上高は計3386億円と、17年度(4697億円)から3割ほど減少した。
市場調査会社「矢野経済研究所」(同)の調査では、靴分野ではスニーカーやスポーツシューズなどの需要は堅調だといい、同研究所は「機能性や快適性を重視する消費傾向が定着している」とみている。
