「トランプにNOを突きつけた女性首相」として、イタリアのメローニ首相が日本のSNSで称賛を集めている。この評価は本当に正しいのか。イタリア在住のライター宮本さやかさんは「いい部分だけを切り取って作り上げられた虚構であり、実際は任期満了前に首相の座を退く羽目になるかもしれない」という――。
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イタリアのメローニ首相(左)に国際園芸博覧会のマスコットキャラクター「トゥンクトゥンク」とサンリオのコラボ商品などを贈呈する高市首相=2026年1月16日、首相官邸 - 写真提供=共同通信社

■「メローニを見習え」一部の日本人が礼賛

高市早苗首相がワシントンのホワイトハウスを訪問し、ドナルド・トランプ大統領に飛びついてハグしたというニュースが世界中に拡散された3月あたりからだろうか。日本のSNS界隈で「イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、トランプ大統領にもビシッと物申す、素晴らしいリーダーだ」という称賛の声を頻繁に目にするようになった。

5月の中旬には、イスラエルのベン・グビール国家治安相がSNSに投稿し、世界中から批判を浴びたガザ支援船団乗員に対する侮辱的な動画について「強く抗議し、謝罪をイスラエルに要求した強い首相」として、好意的に報道されていた。そんな日本の報道に付随しているのが、同じく初の女性首相である日本の高市首相とメローニ首相との比較、さらには「メローニを見習ってほしい」「イタリアがうらやましい」という声だ。

だが、イタリア国内で実際に見聞するメローニ首相の政治・外交姿勢は、日本で語られる彼女のイメージとは随分違う。対米関係を例に挙げるなら、彼女の振る舞いはむしろ驚くほど慎重な(と言えば聞こえはいいが)トランプ追従型だ。

1月には「トランプ大統領にノーベル平和賞が授与されることを願っている」などと発言し、トランプ大統領からも「彼女はとても若くてきれいな女性だ」などと政治手腕とはまったく関係ない褒め言葉を投げかけられ、愛想笑いをする――そんな状況だった。だが日本では、そういうことはまったく報道されず、メローニ礼賛が続いている。

■高市首相とメローニ首相の共通点

二人の女性首相には実際、多くの共通点がある。イタリアと日本でのそれぞれ初の女性首相であること、強硬保守右派であること、そして自らが女性でありながら中絶禁止政策を取ったり(メローニ)、夫婦別姓の導入を拒否し続ける(高市)など、伝統的な価値を強く重んじ、ともすれば女性の自由を制限するような主義である点などはかなり共通していると言える。

そんな伝統的な女性であり母親であることを「私は一人の女性、一人の母親、一人のイタリア人で一人のクリスチャン」と「売り文句」にするメローニが、ガザで死傷した子供たちが5万人を超えたというニュースにも非難の声一つあげずにイスラエル支援を続けたことや、アメリカ軍がイランの女子小学校を空爆(米軍は誤爆と説明)して175人もの女児たちが死亡したときに1週間雲隠れしてノーコメントを通したことなどは、日本では報道されていない。

つまり日本で語られるメローニ像は、イタリアの現実というより、日本人、特に高市政権に批判的な人々の政治的願望を映し出したもののように見える。

■「トランプにNO」報道の実態

次々に流れてくるメローニ首相礼賛の報道やSNS投稿の中でも、イタリアに暮らす私たちが特に驚かされたものの一つは、トランプ大統領がローマ法王を非難した際、メローニ首相が「受け入れ難い」と強く批判したという論調だ。「メローニはトランプにNOと言える、強いリーダー」と称賛されたのだが、実際はかなり違うのだ。

1月に起きたアメリカのベネズエラへの軍事介入についてローマ法王が懸念を示したあたりから、トランプ大統領と法王の不穏な関係が始まった。だがイタリアをも巻き込んだ騒ぎの発端は、トランプ大統領が2月28日にイランへの攻撃を開始し、4月7日に「今夜、イラン文明のすべてが消滅するだろう」と強烈な脅しをかけたことだった。

それに対し4月9日、ローマ法王は「容認できない脅し」であると公式に非難。さらに11日には法王が「世界の不安定化の背景には指導者たちの全能感の妄想がある」と演説し、トランプ大統領を名指しで批判した。

これを受けたトランプ大統領は、4月12日、「教皇はイランの味方をしており、急進左派に迎合している」「不法移民などの国内犯罪に弱腰で、外交政策においては最悪だ」「彼が教皇になれたのは私のおかげだ。不当に選出されたのではないか」などと罵詈雑言をSNSに投稿した。カトリック教徒が国民の7割を超えると言われるイタリアで、法王への侮辱に対し瞬時に非難の声が巻き起こった。

■普段は力強い声で、怒鳴るように演説

それなのに、翌4月13日の朝、メローニ首相が法王レオ14世について出した公式コメントは、法王のアフリカ外遊に関するものだけで、トランプ大統領による法王への攻撃については一切触れないという、驚きの内容だった。野党や左派メディアを中心に厳しい批判の声が上がった結果、朝のコメントから9時間の後、ようやくメローニ首相は「受け入れられない」というコメントを発表した。

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「メローニ首相 バランスと駆け引きの間で同盟の揺れを感じている」と報じるイタリア最大の発行部数を誇る全国紙「La Repubblica」2026年4月1日 - 筆者提供

つまり、ズバッとNOを突きつけたのではなく、「こう言っておかないとまずいかな、支持率が急低下し世界から孤立を深めているトランプ側と思われるのは自らの支持率低下にも拍車をかけるかも?」と計算した結果の発言だったと、イタリアの政治専門家たちは分析している。計算がうまいだけで、本当にアメリカにNOを突きつけているとはとても思えない言動が続いているのだ。

メローニ首相がアメリカのイラン攻撃について「国際法の枠外である」と演説した3月11日の動画が、「アメリカにもビシッとNOが言えることを示す証拠」だと日本では言われているようだ。だが、普段の彼女が、どれほど力強い声で、原稿などは見ず怒鳴るように演説するのかを知っているイタリア在住者から見たら、3月11日のあの演説は「仕方なく言わされている」としか思えない、頼りない様子だった。

原稿を見ながら、下を向いて、いつもよりずっとソフトに語る彼女の様子から、真の政治的信条からではなく、世論を計算に入れ悩み抜いた末の作戦だったことがうかがえた。それが日本では「ビシッとNOと言う素晴らしい首相」と報道されてしまったというわけだ。

■メローニにNOを突きつけた若者たち

ではなぜ、メローニは世論のご機嫌をとるような発言を続けているのだろうか。

2022年10月に発足したメローニ政権は、憲法が定める最長任期5年、つまり2027年末まで政権を全うできるかどうかの瀬戸際にある。3月に行われた司法改革をめぐる国民投票で、メローニ政権が推進した案が否決され敗北を喫した。

その結果、「早期の解散総選挙を行うべき」という圧力が強まっており、任期満了前に首相の座を退く羽目になるかもしれない大ピンチにある。今まで選挙に興味がないと言われていた若者層の多くが投票に赴き、NOを突きつけたことが大きいと言われている。

経済格差や労働問題など不満の理由はさまざまだが、パレスチナ・ガザ問題に消極的で明確な親イスラエル寄りなメローニ政権に対して若者たちは大きな不信感を抱え、政権は急速に求心力を失っている。また表現の自由や市民活動の制限、デモや抗議への圧力をかけるなどの政府の動きに対して、ネオファシズム的要素の継続を心配する声も特に都市部から上がっている。

一方、50代以上の保守層からは一定の支持を得ることで支持率40%前後をキープしていたが、直近の調査「youtrend」によると支持36%、不支持57%という厳しい数字になっている。「トランプともイスラエルとも仲良くしてきたのに、結局エネルギーコストが爆上がりし、ローマ法王まで侮辱された」という現実が、保守層の「メローニ離れ」を引き起こした。

■なぜ「歪んだ像」が日本で広まるのか

日本で語られる「メローニすごい論」は、いい部分だけを切り取って作り上げられた虚構であり、イタリア国内ではむしろ評価が分かれ、とりわけ若年層との乖離が目立つというのが現実だ。

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「若者の票を探しに、メローニ フェデツのものとへ」。国民投票を前に若者へのウケを狙い、人気歌手Fedezのトーク番組に出演したことを揶揄する記事。La repubblica 2026年3月18日 - 筆者提供

歪んだメローニ像が広まった要因としては、まずトランプ大統領との関係の「誤読」が挙げられる。一次情報がイタリア語であるが故に正確な読み取りが難しく、正確な情報も少ないことから起こった可能性がある。さらに強い女性リーダーへの幻想や、海外政治の単純化もあるだろう。

イタリアに暮らしていて常に感じていることだが、日本では頻繁に「欧州では」「欧米では」という言葉が登場する。だが欧州にはEU加盟国だけで27カ国もあるのだ。北はフィンランド、スウェーデン、デンマークからバルト三国に東欧諸国、そして南はイタリア、スペイン、ギリシャに至るまで、気候も文化も政治もまったく違う国々を「欧州」と一言でまとめてしまうことに無理がある。そこに遠く離れたアメリカを加えて「欧米」だなんて、言わずもがな。

AIの普及によってフェイクニュースも激増する昨今、自分の目と頭で一次情報を探し、読み解き考え、偽情報に振り回されないようにしていきたい。

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宮本 さやか(みやもと・さやか)
イタリア在住ライター
1996年より、イタリア・トリノ在住。イタリア人の夫と娘と暮らしつつ、ライター、コーディネーターとして日本にイタリアの食情報を発信する。一方、イタリア料理教室、日本料理教室、そしてイタリアの人々に正しい日本の食文化を知ってもらうためのフードイベントなども行っている。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン」。
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(イタリア在住ライター 宮本 さやか)