山口組の竹内照明若頭(写真中央)。弘道会の野内正博会長(右から2番目)は糸数会長と兄弟分

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 沖縄の大物ヤクザが、火事で亡くなるという異例の事態が発生した。"沖縄のドン"の身に何が起きたのか。そして、告別式で起きた"場外乱闘"とは? フリーライター・鈴木智彦氏がレポートする。【前後編の前編】

【写真】空港に到着した極東会の宮田克彦理事長。ほか、稲川会の貞方留義理事長や熊谷正敏渉外委員長なども

事件ではないのか?

 4月19日午前4時過ぎ、沖縄市諸見里の4階建てマンション最上階で火事が発生した。消防車や救急車が現場に急行し、付近は騒然とした。近所に住む70代の男性は喧噪を聞いて自宅から飛び出し、消火活動を見ていたという。

「マンションが松明のように燃え、手が付けられないようだった。この辺は墓が多く建物が霊の通り道を塞いでる。なにもなければいいと思っていた」

 火災現場は丘の上にあり、マンション西側の低いエリアには沖縄独特の門中墓が密集している。だが「なにもなければいい」という心配は、沖縄の土着的な民間信仰だけが理由ではないようだった。話を聞いていくと、目撃男性は燃えさかるマンションの居住者を正確に認識していた。

「関係者によると、集合住宅の一室は指定暴力団旭琉会四代目富永一家の事務所で、発見された遺体は、二代目旭琉会の糸数真会長の可能性がある」(琉球新報デジタル4月19日)

 炎上した4階には、かつて烈火のような抗争事件を繰り広げ、流血の日々を送ってきた暴力団トップが住んでいた。地域住民のほとんどがその素性を知っていたのだ。

 沖縄は暴力団と地域住民との距離が近い。

 一例を挙げれば「もあい」と呼ばれる頼母子講が今も盛んで、暴力団関係者がメンバーになっている例をしばしば目撃する。「ゆいまーる」という沖縄方言は相互扶助や助け合いの精神を意味するが、暴力団員でも地元住民に極端な実害を与えていない限り、反社会勢力だからという観念的な理由では「ゆいまーる」の輪から疎外されない。

 沖縄のドンが焼死したニュースは、翌朝、暴力団社会を駆け巡った。旭琉會関係者の元には全国の暴力団から「事件ではないのか?」と確認が殺到した。警察でも同じ光景が繰り広げられた。全国の都道府県警が事件性の有無を問い合わせてきたのだ。警察は事件と事故の両面で捜査を進めた。が、すぐに事件性はないと判断したようである。実際、糸数会長の周囲に火種があるとは思えなかった。

 なにしろ沖縄ヤクザのカリスマだった初代・富永清会長が亡くなってから、旭琉會は会長を置かず、永山克博代行のもと、6年間もの歳月を費やして根回しを行ない、石橋を叩くようにネガ要素を潰してきた。旭琉會にとってそれだけ失敗の出来ない跡目継承で、満を持しての船出だったのだ。

 跡目争いをした幹部も最後には納得し、昨年、新体制が発足した。傘下15団体の総長全員が、糸数二代目と親子盃を結んだ様子は、本誌『週刊ポスト』でレポートした通りだ(2025年3月21日発売号)。

記者が香典を払った

 4月21日、警察は寝室で見つかった遺体の身元を「旭琉會の糸数真会長」と発表した。死因は一酸化炭素中毒だった。遺体を見た旭琉會幹部は損傷が余りに惨く、故人と親しかった人間には見せないよう気を揉んだという。苦しまずに死んだだろうことが救いだった。

 出火原因は特定できなかったようである。大の愛煙家でパーラメントを愛飲しており、電子タバコは吸わなかったので、吸い殻の火が消えておらず、そこから出火した可能性はあるだろう。旭琉會関係者が言う。

「たばこは吸うけど寝室で寝たばこはしなかった。それよりも料理好きで、若い衆に振る舞うため、午前4時くらいから調理を始めることがよくあったから、コンロから出火したのかもしれない。ボヤ寸前になったこともあったらしい」

 得意料理のイカスミのカレー他、沖縄料理もよく作った。台所にはプロ用の高価な調理器具が置かれていた。バルコニーで沖縄の特産品である島とうがらしが栽培されていたという。火事はそのすべてを燃やし尽くした。

 同月25日に執り行なわれた告別式では、沖縄らしい場外乱闘が勃発した。当日、沖縄タイムスの記者が告別式を取材に行くと、同じ地元紙である琉球新報の記者が引き出物を持っているのを目撃する。ということは、暴力団に香典を払ったということである。タイムスは新報に事実確認を行なった。新報は自社サイトの記事で香典の支払いを認めた。

「琉球新報社は2日、4月にあった指定暴力団旭琉会会長の告別式を取材した記者が、香典を出して参列する行為が確認されたと発表した。同社は『参列は取材目的だったが、適切な行為とは言い難い。厳正に対処する』とコメントした」(琉球新報デジタル5月2日)

 香典は2000円と微々たる額だ。内部潜入して情報を取るため、お気持ち程度の香典を支払ったとみられる。暴力団を対象にした本葬儀は後日行なわれるし、家族葬なら香典は遺族に渡ったろう。

 私は当事者である新報のA記者とは面識がある。昨年、糸数会長が二代目を襲名した際、旭琉會の傘下事務所で鉢合わせした。暴力団に容赦ない質問をぶつけるので好感を持った。が、新報の記事にも危うさはあった。糸数会長が焼死した直後に配信された琉球新報デジタルには旭琉會関係者のコメントが掲載されている。

「一本化した組織同士の過去のしがらみ解消に尽力していた。人望厚く、慕われる『沖縄ヤクザの手本』のような人だ」(4月19日)

 暴力団の言う「ヤクザの手本のような人」とは、自分や組織の利益のため容赦なく敵対勢力を殺戮し、警察の取調べに黙秘する人間を意味する。糸数会長自身、1982年には旧・旭琉会の二代目・多和田真山会長を射殺している。だから糸数会長は「ヤクザの手本のような人」なのだ。たとえ当事者の談話にしても、そのまま掲載するのは新聞らしくない。

▼▼▼後編記事▼▼▼

【つづきを読む→】"沖縄のドン"「偲ぶ会」に全国から暴力団のトップ級が集結 各地からマル暴の刑事も派遣され、那覇空港は修学旅行生まで入り乱れてパニックに

【プロフィール】

鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。

※週刊ポスト2026年6月19日号