(※写真はイメージです/PIXTA)

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「息子さん夫婦と一緒で安心ね」「毎日お孫さんに会えて幸せでしょう」――。高齢になった親世代にとって、子ども家族との同居は理想的な老後に見えるかもしれません。しかし、同じ屋根の下で暮らしていても、心の距離までは埋まらないことがあります。同居生活のなかで居場所を失った81歳女性の事例とともに、その現実を見ていきましょう。

幸せな同居生活のはずが…「家の中で孤立」の現実

夫を見送り、独り身となった元専業主婦の杉本房子さん(仮名・81歳)。ここ5年ほど長男夫婦の家で暮らしています。

近所の友人や知人からは「息子さん夫婦と一緒で、安心ね」「孫の顔も毎日見られて寂しくないでしょう」と言われます。しかし、房子さんの胸のうちは複雑です。外向けの「幸せな同居生活」というイメージと、実際の暮らしがあまりにもかけ離れているからです。

房子さんの主な収入は、自身の老齢年金と夫の遺族年金を合わせた月16万円ほど。そのうち、家賃や食費、光熱費といった生活費として、毎月10万円を長男に手渡しており、残る手元のお金は6万円です。

「同居を持ちかけてくれたのは息子でした。『みんなで楽しく暮らそう』と言ってくれて。夫が亡くなり不安だったので、当時は本当に嬉しかった。ですが……」

その気持ちは、時間がたつほどに変わっていったといいます。

家族の輪から外れ、“影”のように過ごす日々

実際、房子さんの日常には、家族団らんの時間はほとんどありません。平日は房子さんが、家族全員分の夕食を作りますが、共働きの長男夫婦は帰宅が遅く、大学生になった孫もアルバイトやサークル活動で夜まで不在がち。結局、房子さんはいつも自分が作った料理をポツンと一人で食べています。

「せっかく作っても“美味しいよ”の言葉もありません。同居を始めたばかりの頃は、会話もあったのですが……。今では、みんなの邪魔にならないように、リビングにいる時間を減らしています。お風呂も全員が終わるのを待って最後に入るか、夕方の明るいうちに済ませているんですよ」

夜、自室にいるときに階下から楽しそうな笑い声が聞こえてくると、なんとも言えない疎外感で胸が締めつけられるといいます。

「同居って、こんなに寂しいものなのでしょうか。このまま部屋で倒れても誰も気づいてくれず、発見が遅れてしまうんじゃないか。だったら、お金を自由に使える一人暮らしのほうがマシなんじゃないかと思ってしまいます」

家族のなかで「自分」を取り戻すために

房子さんのようなケースでは、周囲から「幸せ」と見なされる環境だからこそ、逆に本人が辛いと声を上げにくく、孤独が深刻化しやすいという罠があります。

こうした同居の孤独から抜け出すためには、いくつかのステップが必要です。

1. 経済的な関係性を見直す
長男に渡している10万円が「家に置いてもらうためのお金」のように感じているのであれば、対等な関係とはいえません。今一度、負担額のバランスについて、冷静に話し合うことも必要です。

2. 「家の外」に自分の居場所を作る
家族の顔色を伺う生活から脱却するには、物理的に家から出るのが一番です。地域のシニアクラブや趣味のサークル、ボランティア活動など、家族以外のコミュニティとつながることで「影」ではない、価値ある一人の個人としての実感が戻ってきます。

3. 第三者に相談する
家族間の問題だからこそ、身内だけで解決しようとすると感情的になりがちです。地域包括支援センターや高齢者支援の窓口に相談し、生活環境や家族との距離感を整えていくことも有効な手段です。

同じ屋根の下に暮らしていても、心の距離が離れていれば、それは一人暮らし以上の過酷な孤独となります。いつまでも自分らしく、尊厳を持って生きるために、周囲の「幸せそうだね」という言葉に縛られず、自分の心が発するSOSに耳を傾けることが必要です。